クリーニング豆知識

第百八十六回:「『水洗い不可』をおしぼりで拭く」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百八十六回は、前回と同様、「水洗い不可の衣類」について


前回の
「家で洗ったら縮んだ。何とかして欲しい」
と並んで多くお受けするのが、
「おしぼりで拭いたらシミになった」
・・・と言うご相談です


「クリーニング日記」の方でも何度も取り上げていますが、
そのような場面に遭遇しない限り、
「他人事」だと思います

自分が、あるいは周囲の人が遭遇した後、
「自分事」と捉えるようにならないと、この情報が頭に入って来ません

そして、自分の事として捉えるようになった後に、
ぜひ気を付けて欲しい・・・と言う事で、
毎年飲み会の季節になると、取り上げるようにしています


では、何故「水洗い不可」の衣類を
おしぼりで拭くと、シミになるのか


水洗い不可の衣類は、基本的に濡れる事を想定していません
そのような衣類に水が付くと、滲んだようなシミ、
当社では「水ジミ」と呼ぶ状態になります


ちなみにこの状態は、水洗い不可の衣類が、雨に濡れても、
喫茶店で服に水をこぼしても、夏の商業施設などで良く見られる、
暑さ対策のミスト状のシャワーでも発生する場合があります



一方で、Tシャツやブラウスと言った、
水洗い可能な衣類が水に濡れても、
基本的に水ジミにはなりません

ただし、汗や香水がたくさん付いたり、
噴霧式の消臭剤などをかけすぎた場合には
水ジミになる事はありますが
大抵の場合は、水洗いすれば落とす事が可能です


スーツなど、水洗い不可の衣類にシミが付いて、
慌てておしぼりで拭いた結果、シミは薄くなったけれど
ぼんやりと黒っぽい広範囲のシミが付いてしまった・・・と言うのは
「水洗い不可の衣類に、水が付いて、水ジミが発生した状態」です


この場合、クリーニング店では
水ジミが発生した場所を中心に、霧吹きなどで水を薄く、広くかけ
水ジミの境界を
「ぼかして」処理する方法があります

ただし、その方法は水ジミに対するものであり、
そもそもの原因である、衣類に付いたシミが取れていない場合、
そのシミを除去した上で、水ジミを除去する・・・と言う、
非常に手間のかかる作業になります



また、おしぼりでゴシゴシと衣類をこすっていた場合
その部分が
「すり減った」状態になり、
白っぽくなっている事があります
この状態は、もう元には戻りません

食事の席で、服に食べ物をこぼしてしまった!
慌てて手元のおしぼりで拭く・・・その前に
「この服は、濡れても大丈夫な服だったかな?」
・・・と、考えるクセを付けてみて下さい

ティッシュやハンカチが手元にある場合、
おしぼりの前に、まずはそちらを利用する方が良いでしょう


水ジミになった場合、その部分をおしぼりで拭いても消えません
ただ、黒や紺と言った濃色の服は特に、
乾いてしまえば目立たなくなる場合が多々あります

逆に白やグレー、水色と言った薄い・淡い色合いの服の場合、
乾いた跡が非常に目立つ事があります


シミが付いても、慌てておしぼりで拭かない
水ジミになってしまった場合、
とりあえず一日置いて乾燥させる
・・・と言う事を、心掛けてみて下さい