クリーニング豆知識

第百三回:「ドライは悪くない」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」


常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百三回は、「ドライクリーニングのメリット」について


夏の間中、
「暑い時期だけでも、水洗い可能な衣類を」
と言い続けてきましたが

どのような場合でも、
『水洗いは、ドライクリーニングより優れている』
・・・と言う訳ではありません

むしろ、ドライクリーニングには、
水洗いにはないメリットがたくさんあります


まず、
衣類へのダメージが少ないと言う事
ドライクリーニングで洗い上がった直後の衣類は、
ほぼ洗う前と同じであり、水洗い直後のように
全体にシワが寄る、と言う事はあまり多くはありません


また、黒や紺と言った、濃色の衣類を繰り返し水洗いすると、
少しずつ色が褪せて来る事がありますが、
ドライクリーニングの場合、製品自体に問題がある場合は別として、
色落ちや色が褪せて来るような事は稀です


次に、
油の汚れを良く落とすと言う事
ドライクリーニング用の洗剤は、石油などを加工したものであり、
油汚れに対しては高い効果を発揮します

衣類に付く汚れは、汗のような水溶性のものだけではなく、
皮脂や油系の食べこぼしのような、油溶性のものもあります


そのため、本来であれば、汗と皮脂が付いた衣類は、
「ドライクリーニング+水洗い」をしなければ、
汗と皮脂の両方を、きちんと除去する事は出来ません

当社で言えば、
「ズボンの汗取り」がこの
「ドライクリーニング+
水洗い(の効果がある加工)」
になりますが

コートやブレザーは、基本的に水洗い出来るものが少ないため、
「汗と皮脂の除去のため、
必ずドライと水洗いの両方をしましょう!」
とは、
中々言いづらい部分があります


最近の洗濯機には、
いわゆる
「ドライコース」が付いていますが

これは
「ドライクリーニングの機械を用いて、
ドライクリーニング用の洗剤を使用した洗い」
とは全く別物です

そもそも
「ドライコース」の定義が曖昧なようですが、基本的には、
「中性洗剤など、衣類へのダメージが少ない洗剤を用いて、
短時間で洗う水洗い」のようです

つまりは水洗いです


「シミを付けてしまったので、
ドライコースで自分で洗ってみたら、縮んでしまった」

と言うご相談をたまにお受けしますが

「洗濯機のドライコース」「ドライクリーニング」
全くの別物であり

アパレルメーカー側も、
「この製品はドライクリーニングのみの扱いですが、
家庭用洗濯機のドライコースでも洗えます」と言う事は、
品質表示に書いていません


むしろ、「洗濯機のドライコース不可」
と品質表示にわざわざ書かれている場合もあり

「水洗い不可の衣類を、洗濯機のドライコースで洗う事」を、
想定しているメーカーはそう多くないのではないか、と感じます

想定していないと言う事は、ドライコースで洗うと、
縮み・色落ちが発生する場合があり、
その時は自己責任と言う事です



まとめると、

ドライクリーニング:皮脂などの油汚れに強い、
色落ち、型崩れが発生しにくい

水洗い:汗などの水溶性の汚れに強い、
色落ち、型崩れが比較的発生しやすい


・・・と言う事になります


どちらが優れているかと言うよりは、
衣類や汚れの状態によって使い分けるものであり、
そもそも優劣を決めるのは難しいと思います