クリーニング豆知識

第九十三回:「線あり?線なし?」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」


常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第九十三回は、「このズボンに、線をつけるかどうか」について


ズボンのプレスをしていて、

「これは線をつけるズボンか?
線をつけないズボンか?」

で迷う事があります

紳士スーツのズボンは、
ほぼ100%
「線あり」なので迷う事はありません

迷うのは、長い間の着用、
あるいは水洗いをした事により線が消えており、
線あり・線なしどちらとも取れるズボンです


この点は、クリーニング店によって
判断が分かれる所ではないでしょうか

当社の場合、
「迷ったら基本、線はつけない」と決めています
一度線を付けると、アイロンでいくら消しても、
跡が残るズボンがあるからです

ただし、お返しした後に
「線をつけて欲しかった」と言われた場合

もう一度お預かりして、
線をつけ直してお返ししています
(もちろん無料です)


ただ、世の中には
「明らかに線をつけるデザインのズボン」と、
「明らかに線をつけないデザインのズボン」があります


そして、お客様から、「線をつけるデザインのズボン」
「このズボンには線をつけないで欲しい」と言われる事も

「線をつけないデザインのズボン」
「このズボンに線をつけて欲しい」と言われる事があります


その場合、どうするか。当社の場合、
言われた通りの仕上げをします
例えデザインと異なる仕上げになっても、です

この
「線あり」「線なし」のこだわりを持つのはほぼ男性です
女性で、線あり・なしにこだわりのある方もいますが、
割合的には、男性が圧倒的多数です


例えば、ジーンズに
「線をつけて欲しい」と言われる事があります
勿論、言われた通りに線を付けます

しかし、ジーンズは特に、
線を付けた部分がすり減ってきて、着用により線が消えてくると、
真ん中のすり減った部分の白い線がはっきりと分かります

しかし、当社としては
「線をつけて欲しい」と言われた場合、
どのようなデザインであっても、お客様にとってそのズボンは、
『線をつけるズボン』である、という考えです


今まで何度か、「よそのクリーニング店に持って行って、
『線をつけて欲しい』と言ったら、変な線を付けられた」と言われ、
もう一度線を付けて欲しい、
と当社にズボンをお持ちになったケースがあります

そのズボンを見て、
「なるほど!」と思いました
一見すると、明らかに線をつけないデザインのズボンです。

そこへ
「線をつけて欲しい」と言われ、
プレスを担当した人も困ってしまったのでしょう

線をつけるって、どうするんだ。つける所なんてないぞ
でもやらなきゃ。もうこれで!のような線がついていました


当社の場合、
「線をつけてほしい」と言われた場合、
紳士スーツのズボンと同じ線のつけ方でプレスをします

ズボンを横向きにして、縫い目が重なるようにつけます
また、
「置いた時に平面になるように」線を付けます


この、
「縫い目が重なるように」
「置いた時に平面になるように」
はしばしば両立しません


縫い目が重なるように線をつけると、
置いた時に波打つような形になって

結果としてシワになるズボンや、
置いた時に平面になるように線をつけると、
縫い目が重ならないズボンがあります

その場合、置いた、
あるいはハンガーに掛けた際にシワにならないよう、
平面になるよう線をつけます


線をつけるデザインではないズボンの場合、
大抵は縫い目が重なるように線をつけると、
置いた時に平面にはなりません

逆に言えば、その部分が
「線をつけるデザインかどうか」の見極めになりますが

「明らかに線をつけるべき紳士スーツのズボンなのに、
縫い目に合わせて線をつけると、線が歪んで平面にならない」

・・・というズボンは、世の中にたくさんあります


もし、
「線をつける」・「線をつけない」
という自分なりのこだわりがある場合

クリーニング店でハッキリと
要望を述べた方が良いかと思います

ただ、要望を述べる事と、
「自分のイメージ通りに仕上がってくるかどうか」は別です