クリーニング豆知識

第九十一回:「『全額返金』のからくり」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」


常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第九十一回は、何かと話題の「全額返金」について


以前、
「満足出来なければ全額返金」を謳った会社が、
広告表示と会則の間に矛盾があると指摘され

「いかなる場合でも無条件返金」へと変更する、
・・・と言った事例がありました

「返金する条件」として、
明らかに広告と実際の規則に矛盾がある場合は問題ですが


「買う側」からすると、
「あれこれ難癖付けて、返金しないつもりじゃないのか」
と疑うのは当然である一方で

「売る側」からすると、
「想定していない理由を突き付けられた場合の保険」として、
「当社が相当と判断した場合には返金しません」
のような会則を設けておくのは、自衛策として理解出来ます


返金に関して、消費者側がどのような理由で請求をするのか、
完璧に予想する事は困難です

そのため、どのような事が発生しても対応が出来るよう、
曖昧な規定を作っておく、と言う事は理解できます


このあたりの意識の差は、
正に
「買う側「売る側」の違いによるものでしょう

ただし、
前回「初回半額」と同様、
「全員が返金を求めたらどうするの。
それで利益を上げられるのか?」

・・・と考えるのは当然かと思います
その仕組みとは、いかなるものであるのか


ビジネス史的に見た場合、

「満足出来なければ返金します」
で有名なのがキャンベルスープです

もう何十年も前の事ですが、
当時は同じような事をしている会社はありませんでした
当然ながら話題になり、
キャンベルスープは大きく売上を伸ばす事が出来ました


では、実際に返金を求めた人はどれくらい存在したのか
答えは、
ほんの数%程度でした

ちなみに、前述の
「満足出来なければ全額返金」の会社の場合、
返金を求められる割合は4%程度であった、
と流通新聞の記事にありました


つまり、
「全額返金を謳う事による売上アップ」
>「実際の返金による損失」


の不等式が成立する場合であれば、このやり方は非常に有効です
ただし、どの業界・業種でも有効かと言うとそうでもありません

アメリカでは、
「欲しいと思ったらとりあえず購入し、気に入らなければ返品する」
と言う文化が根付いており、
大規模セールの数日後には、
返品を求める長蛇の列が店舗に出来ます

「商品に自信がある」・「お客様の事を第一に考えて」
・・・に見える仕組みにも、実は裏で様々な計算をしており、
勝算があるからこそ行っている場合が多いのです