第八十一回:「割引スパイラル」
「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」
常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています
第八十一回は、売る側から見た「割引」について
ここ1〜2年の間に、
当社周辺のクリーニング店が、数店ほど閉店しました
閉店した店舗に共通するのは、
「安さ」を売りとした戦略を取っていた事です
ここから、「割引の恐ろしさ」が感じられます
「安い」で獲得したお客様は、
「もっと安い」が近くに現れた途端、そちらに流れていきます
引き留めようとした場合、
「うちはそれよりもっと安い」という事を、やらざるを得なくなります
品質ではなく、価格を売りとしている業態の宿命です
では、それに対抗して他店
が、「うちはそれより更に安い」とやり始めたら・・・・
終わりのない、割引スパイラルに陥るでしょう
また、「安い価格で、大量に品物を集める」というやり方は、
それなりの規模の工場を持ち、
集めた大量の品物を洗い・仕上げする能力が必要となります
そのため、価格を売りとした業態=大きな規模の会社でないと、
多くの場合は成立しません
当社のような小さな会社の場合、同じ事は出来ません
そこでいつも参考にするのが、
以前にも紹介した「ミスタードーナツの100円セール」です
ミスタードーナツの場合、100円のドーナツのみを2〜3個、
あとコーヒー(これは割引ではない)を頼んだとしても、
500〜600円程度にはなります
つまり、この価格できちんと利益が出る
・・・という計算あっての「ドーナツ100円」なのです
また、セールと同時に、
新商品のドーナツを「値下げせずに」発売し、
単価の高い商品の「ついで買い」へと誘導しています
実に上手いやり方です
前述の、割引で集客するお店の場合、
ほとんどが「ドライ品全品○○%OFF!」
と言うセールを行っていました
何故ドライ品のみが割引の対象かと言うと、
ドライ品は仕上げの手間がそれ程かからず、
水洗い扱いの衣類は、仕上げの手間がかかるからです
水洗い扱いの衣類は割引対象外で、
店頭でそれが分かったとしても、
大抵の人は持ち帰るのが面倒なのでそのまま出す
・・・というからくりはありますが、
ドライクリーニングの衣類のみを出した場合、全て割引となります
ミスタードーナツの場合、
注文は100円のドーナツだけ・・・という事はなく、
大抵の場合は、飲み物も注文するでしょう
そしてその飲み物は、割引の対象ではありません
「売る側」としてセールを考える場合、
割引対象品だけを購入されると、大抵の場合困るので、
このようなやり方で、「割引していない商品とのセット」で
利益を出す仕組みを入れます。こっそりと
「随分割引しているけれど、このセールは、
どういった仕組みで利益を出そうとしているのかな」
・・・という視点でセールを見ると、
「売る側」の事情が透けて見える事があり、とても面白いと思います