クリーニング豆知識

第七十一回:「ウルトラライトダウンはダウンか?」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」


常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第七十一回は、広がりを見せる「薄いダウン」について


ユニクロの
「ウルトラライトダウン」をはじめとする
「薄いダウン」が、大分普及してきました

もはやダウンは、真冬の間だけ着るものではなく、
一人一着だけの高級品でもありません


薄手・厚手・腰丈・膝丈などを、
気候や天気に合わせて
「切り替える」衣類として、
定着したと感じています

クリーニング業界側もその動きを感じ取り、
冬〜春にかけてのダウン製品の
セール・キャンペーンは一般的なものになりました


しかし、セールやキャンペーンを行う・・・という事は、
「売る側」から見た場合、
「普段は高い分、セールを行って思いっきり集める」対象である、と言えます

では、そもそもダウン製品のクリーニング料金は、
何故高めに設定されているのでしょうか?


理由@:長期間着用するものなので
汚れが目立ち、シミヌキに手間がかかる


冬の間、少なくとも12月〜翌年3月頃まで着用すると想定した場合、
4か月の間ずっと使用している事になります

そのため、頻繁にクリーニングするワイシャツであれば、
手遅れになる前に落としているような汚れも、
その間ずっと蓄積している事になります


春先に、エリ・ソデが黒くなったダウンを
たくさんお受けしますが、
原因は皮脂汚れであり

ワイシャツの場合は、蓄積・酸化・変色する前に
クリーニングしてしまうため、
「汚れが付いている」という事そのものに気付きません


また、ファンデーション等が付いて、
その後時間が経過したためシミになってしまう事がありますが

これも長期間着用する製品にのみ見られ、
頻繁にクリーニングするワイシャツやブラウスには、殆ど見られません

そのため、それらのシミヌキに関する手間を考えた場合、
ダウン製品のクリーニング料金は、どうしても高めになります


理由A:水洗いすると羽毛が偏るため、
偏った羽毛を元に戻す必要がある


大抵の場合、ダウン製品は良く見ると、
縫製による小さな
「仕切り」が沢山あり、
羽毛が一か所に偏らないようになっています

しかし、水洗いをすると、その小さな仕切りの中で
羽毛が
「一つの塊」となり、
均等に羽毛が広がっている状態に戻すには、
乾燥させて固まった羽毛を
「ならす」必要があります

そのため、水洗いのダウン製品は、
通常の衣類よりも一工程多くなります
この事が、ダウン製品のクリーニング料金が高い理由でもあります

そして、この点が今日のタイトルに関係して来ます


どういう事かと言うと、
ユニクロのウルトラライトダウンのような
「薄いダウン」は、
羽毛の量そのものが少ないため、水洗いしても塊になりにくいのです

そのため、塊になった羽毛を
「ならす」手間があまり必要ではなく、
普通のジャンパー・コートのような感覚で、
洗浄・仕上げを行う事が可能です

『ウルトラライトダウンは、ダウンか?』と聞かれた場合、
「仕上げの手間としては、
通常のジャンパー・コートとそれ程変わらないが、
充填物が羽毛である以上、
そして長期間の着用を前提とする以上、
ダウン製品として扱わざるを得ない」
というのが、
クリーニング店としての答えです


また、それらを踏まえた上で、
例えば
「薄手のダウン」という新料金体系を作ろうとした場合、
そもそも
「薄手」とは何センチ程度までを指すのか、
といった根本的な疑問があります

「はっきりと分かる基準」がない場合、
受付した人間の判断で料金が変化するため、
当社としては新しい料金体系を作る場合、

「分かりやすい基準があるかどうか」
で決めています


ちなみにこのウルトラライトダウン。品質表示をよく読むと、

「クリーニング店での水洗いを推奨」
とあります

水を含むと羽毛は重くなるため、
家庭用洗濯機で洗った場合、
洗濯機が転倒する恐れがあるため・・・とは思いますが、
理由は書いていません。そこまで書く必要はないからです


大分安くなったとは言え、
ダウン製品のような何年も着用する可能性のある衣類は

『買う前に、品質表示をきちんと読む』
と言うクセを付ける事を、強くお勧めします