クリーニング豆知識

第三十回:「洗うことを想定していない」服

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第三十回は、
「ほとんどの人が出会う事はないけれど、確かに存在する服」について


ユニクロのヒートテックは、何故ヒットしたのか


それは、「ババシャツ」などと言われいた下着に、
「ヒートテック」
という名前を付け

「発熱・保温」という機能を付加し、
「新しい価値を創造したから」と言われています

機能が優れているという事もありますが、
普段着として着用していても恥ずかしくない、
全体のイメージとしてのファッション性はさすがの一言に尽きます


しかし、中小のアパレルメーカー
(衣類の企画・製造を行うメーカー)は

ユニクロのように
「新たな価値を創造するような衣類を、次々に発表する」
という訳にはいきません

しかし、生き残るためには新製品を作る必要があります
そこで、機能ではなく

「今までない、斬新なデザイン」
の衣類が生まれます


ここからが本題です

そのような、
「今までにないデザイン」の衣類の中に、
明らかに
「汚れたら洗って、繰り返し使う事」
を想定していないものが存在します

つまり、洗えない。もしくは、洗ったらもう着る事が出来ない


当社で受付する衣類の中に、
全体の1%にも満たない割合ではありますが、
そのような
「洗うに洗えない」衣類があります。実例を挙げると、

○上と下で色が違う衣類で、洗うと片方の色が流れ出て、もう片方に色移りする衣類
○羽根飾りがたくさんついていて、洗うと羽根が散乱し、羽根だらけになる衣類
○明らかに洗うと壊れそうな装飾が付いているのに、取り外せない衣類
○品質表示では水洗い可能となっているのに、水洗いすると大幅に縮んでしまう衣類


・・・などです
どの衣類も、品質表示通りに洗ったとしても、
洗う前の状態に戻す事は困難です


『洗ったら、こうなる』という事が、
「分かっていないのに」製造・出荷していたら大きな問題であり、
「分かったうえでやっている」のだとしたら、更に問題です

販売店で接客している販売員の方は、
このような衣類の存在を知りません

購入の際に知らされないので、消費者も当然、知りません
その衣類をクリーニング店に持ち込み、
洗った時点で、ようやく問題に気付きます

そして、クリーニング店へのクレームになります


ただし、クリーニング店での洗い方に問題がある場合もあります
汗で変色しているからといって、
水洗い不可の衣類を水洗いしてしまった

シルクなど、取り扱いに注意が必要な生地の衣類に対して、
強めのシミヌキをしてしまった、など

しかし、品質表示通りに処理した上で、
変色や縮みといった問題が発生した場合、
クリーニング店としては
「衣類に問題あり」としか考えられません

しかし、お客様からすれば、
「クリーニングに出したら、こうなった」でしかないため、
トラブルになる事があります


当社では、洗う前に色の甘さを確かめたり、
洗う事で壊れそうな装飾品は、
アルミホイルやカバーで包んで保護するなど

念入りにチェックをした上で処理していますが、

「一度洗うと、元の状態には戻せない」
と判断した衣類は、
お客様に説明をした上で、基本的に返品しています


普通に生活している限り、このような衣類に出会う事はないでしょう
しかし、確かにこの世の中に存在します

「変わったデザインの服が好き」という方は、十分注意を

品質表示をよく確かめて、部位によって極端に色の異なる衣類や、
特殊な装飾品、プリント、付属品の付いているものは、
そのようなリスクがあるという事を認識したうえで、購入した方が良いでしょう