第二百七回:「アイロンを『かけない』と言う考え方」
「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」
常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、
衣類に関する様々な豆知識を公開しています
第二百七回は、「アイロンを『かけない』考え方」について
前回の続きです
アイロンを新しく買って、さぁやるぞ、と
やる気がみなぎっている場合
「全ての服に、しっかりと」アイロンをかけがちです
しかし、衣類の中には
「アイロンをかけた結果、アイロン跡が残って取れない」
・・・と言う状態になるものが、たくさん存在します
そのため、お気に入りの服を長持ちさせるためにも
「衣類の特性を理解した上で、アイロンを全くかけない」
・・・と言う考え方(やり方)もある、と言うことを
是非知っておいて欲しいと思います
以下、具体的な衣類の種類と、アイロンのかけ方および
アイロンをかけない方が良い、要注意素材です
◎オーバー・コート
裏地が付いているオーバー・コートの場合
アイロン台に置いて、裏地にアイロンをかけると
その部分の表地にシワが寄ることがあります
その場合、ハンガーにかけて
蒸気をあてる ⇒ アイロンをあてる
と言うやり方が良い場合もあります
背中、およびすそ部分にシワが寄っている場合が多く
その部分のシワを伸ばすだけで、大抵は大丈夫です
袖や肩の部分は、立体的な構造になっているため
アイロンがけの難易度はやや高めです
この部分のシワもしっかりと伸ばしたい、と言う場合は
アイロン台を活用した方が良いでしょう
なお、指で軽くなぞっただけで、
跡が残るような生地の衣類には
アイロンをかけるのは避けて下さい
くっきりと『アイロンの形の跡』が残ります
◎シャツ・ブラウス
ポリエステル・綿素材のものが多く
それらはしっかりとアイロンをかけても
大抵の場合は問題ありません
ただし、アセテートやシルクなど
非常に柔らかい質感の素材の衣類は
アイロンをかける
⇒裏にシワが寄る
⇒裏のシワを取る
⇒今度は表にシワが寄る
・・・と言う、無限ループに陥ることがよくあります
また、麻のシャツ・ブラウスもこの状態になりがちです
このような衣類の場合、細かいシワは諦めるか
ハンガーにかけた状態で「片側のみ」
アイロンをかけるよう、工夫する必要があります
◎セーター
吊るした際に出来る、肩に付いたハンガー跡は、
アイロン台の端を上手に使って消します
ただし、綿など濡れると重くなる素材の場合
跡が非常に深く・大きくなることがあります
その場合、一度で跡を消そうとはせず
何度か段階を踏んで、
少しずつ跡を消してみて下さい
大抵のセーターは丈夫な素材で出来ていますが
カシミアやシルク、アルパカと言った
柔らかい素材は、しっかりとアイロンをかけると
跡が残る場合があります
また、起毛製品は、蒸気を少しあてただけでも
起きている毛が「寝た」状態になり
非常に目立つことがあります
その場合、蒸気を横方向から軽くあてて
手で「寝た」毛を「起こして」あげると元に戻ります
◎ズボン
線をつける場合、タックがあるズボンは
タックにつながるよう、線を付けます
タックがないズボンの場合
前の線は、左右ポケット口のあたりまで
後ろの線は、後ろポケット口の少し下まで線を付けます
線がないズボンの場合
縫い目の部分を、引っ張って
伸ばしながらアイロンをかけると
繰り返しの洗濯によって縮んだ縫い目によるシワを
ある程度目立たなくすることが出来ます
ただ、コーデュロイ生地のズボンは
アイロン跡がクッキリと残るため
基本的にはハンガーにかけた状態で
「蒸気をあてる ⇒ 手で伸ばす」程度にした方が無難です
ほかにも、黒や紺と言った、濃色のズボンに
線を付けようと強めにアイロンをかけると
生地が『白っぽく』なる場合があります
この場合、白っぽくなった場所に蒸気をあてて
軽くアイロンをあてると元に戻ります
このように、「アイロン=アイロン台でかける」と言う
絶対のルールがある訳ではなく
蒸気をあてて、手で伸ばすだけ
あるいは、アイロンをかけない方が良い衣類は
世の中にたくさんあります
また、CMで良くあるように、ハンガーにかけた状態で
「蒸気をあてる ⇒ アイロンを軽くかける」の方が
しっかりとシワが伸びる衣類もたくさんあります
ただ、そのやり方でも跡が残る衣類もあります
完璧を目指そうとすると、大抵失敗します
6〜7割くらいのシワが取れたら
時間をかけてもっとシワを取るのか
これで良しとするのか
是非、アイロンをかける際の
「自分なりの基準」を作ってみて下さい