第二百五回:「伸び・ヨレを戻して元通り?」
「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」
常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、
衣類に関する様々な豆知識を公開しています
第二百五回は、「伸び・ヨレは元通りになるのか?」について
家庭用洗剤「エマール」のパッケージには
「伸び・ヨレを戻して元通り!」
「洗った方が長持ち!」とあります
これは、「嘘ではないけど本当でもない」と言う
『売る側』が良く使う表現であると、
クリーニング業に従事する者の一人として思います
例えば、巷に溢れる健康食品の広告やCMで
「この製品を使ったら、こんなに健康になった!」
・・・と言う人の声『だけ』を取り上げています
しかし、健康食品・健康器具は本来なら
@明確な効果が見られた人
A多少の効果が見られた人
B効果が見られなかった人
・・・のBパターンがあるはずです
広告・宣伝において、基本的にAとBについては触れません
あたかも、この製品を使用した人には、
@の人しかいないようなイメージを与えるよう、
大抵の広告・宣伝は作られています
エマールの「伸び・ヨレを戻して元通り!」も
「洗った方が長持ち!」も同じです
エマールを使用して洗うと
@伸び・ヨレがかなり元に戻った
A伸び・ヨレが多少は元に戻った
B伸び・ヨレに変化はない
・・・の、@だけをパッケージに書いています
では、伸び・ヨレが元に戻ることは
どれくらい「ありうる」のでしょうか
ドライクリーニングのみのウールのセーターなどを
誤って水洗いして「縮んだ」場合
柔軟剤を入れた水に浸しておいて、
ごく短時間脱水すると、元通りになることがあります
ただ、伸び、特に「着用による伸び」は
アイロンで頑張って頑張って元に戻そうとしても、
変化のない場合がほとんどです
セーターひじ、ズボンのひざなど
良く動く部分の伸びは、基本的に
「洗うだけで元に戻る」と言うことはほぼない・・・
と言って間違いありません
一方、ドライクリーニングのみ
もしくは手洗い表示の服を、洗濯機の『通常コース』で洗うと
伸び・ヨレが発生することが多々あります
この「通常コースで洗ったことによる伸び・ヨレ」は
エマールのような洗剤で、
漬け込み ⇒ ごく短時間脱水 ⇒ 念入りに仕上げ
・・・と言う工程により、かなり元に戻る場合があります
エマールのパッケージにも
「『ドライコース』や『ソフト洗い』
などのコースで洗って下さい」
と言う表記があります
ちなみにエマールなど多くの中性洗剤は以前
「ドライマークの服も洗えます」と
パッケージに表記がありました
以前の、洗濯表示(JIS表示)に関する法改正により
ドライクリーニングと水洗いがハッキリと区別されて
「ドライマークの服も洗える洗剤」とは
表記出来なくなった・・・と言う経緯があります
この場合、
「ドライマークの服は、洗えないので注意して下さい」
・・・と、丁寧に教えてくれる訳ではありません
表記がなくなるだけです
つまりは、自分で気づいて
自分の身を守る必要がある・・・と言う事です
全ての『売る側』がこのような事をする・・・とまでは言いませんが
日本の会社でも、このような表現は普通に見られます
特に、製品がリニューアルした、と言う際には要注意です