クリーニング豆知識

第百九十回:「物理的な力」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百九十回は、「シミ抜きにおける、物理的な力」について



シミ抜き剤や洗剤のCMで、ほとんど触れられないこと
それは
物理的な力です

例えば、エリ・ソデの皮脂汚れに使用するシミ抜き剤の場合、
大抵は
「塗って洗えばキレイに落ちる!」と言った説明が、
パッケージ裏には書いてあります

しかし、実際に使ってみて、あまりキレイにはならなかった・・・
と言う経験をした事がある方は、多いのではないでしょうか



特に、ファンデーションや、時間が経過して、
茶色もしくは、黒っぽく変色した皮脂汚れの場合

「シミ抜き剤を塗って、洗っただけ」では
きちんと落ちない場合が多々あります


では、そのような汚れをしっかり落とす場合、
どのようなやり方が有効かと言うと、
ここで
物理的な力の出番となります


クリーニングの現場では、
シミ抜き専用の固いブラシを使いますが

家庭では使わなくなった歯ブラシなど、
「細かい毛がたくさん付いている、ブラシ状のもの」

シミ抜き剤を塗った上で、
汚れの付いている部分をこすって、
物理的な力を加えます

こうする事で、シミ抜き剤で
「ゆるんだ」状態の汚れを、
ある程度しっかりと落としてから洗う事により、
「塗って洗うだけ」よりも、汚れ落ちが良くなります


ただ、このやり方にはリスクもあります

シルクなど、デリケートな素材
もしくはカシミアなど、そもそも水を付けてはいけない素材の衣類に、
この
「塗ってこする」と言う作業を行うと、生地を傷めます


さらに、綿やポリエステルと言った、
一般的にシャツ・ブラウスに使われている丈夫な素材であっても
黒や紺と言った、濃色の衣類に対してこの作業をあまり強く行うと、
その部分がすり減って、目立つ場合があります


一般の消費者に、そこまでの判断を求めるのは難しいため、
洗剤やシミ抜き剤のメーカーとしても、
「洗剤を塗った上で、物理的な力を加えると、もっと落ちますよ」
・・・とは、中々言えないといつも思います


当社でも、
「このシミを落とす方法はありますが、
この衣類に、そのシミ抜きは出来ません」
として、
「シミ落ちません」のタグを付けて、お返しする事が多々あります


また、ファンデーションや皮脂汚れと並んで、
物理的な力が有効・・・と言うより、
洗っただけではあまり落ちないのが、
血のシミです

特に、時間が経過して黒ずんだ血のシミは、
洗っただけで薄くなる事はありますが、
全てキレイに落ちた、と言う事はほとんどありません


この
「時間が経過した血のシミ」をしっかり落とすのが
せっけんと、物理的な力です

血が付いた部分を水で濡らし、
せっけんをこすり付けた上で、歯ブラシなどでこすると、
それだけで落ちる場合がほとんどです


かなり長い時間が経過した場合や、大量に付いている場合は
薬品を使用して、化学反応で除去する事もありますが、
大抵の場合は
「せっけんと水とブラシ」で除去可能です


ただし、こちらもシルクやカシミアと言った、
デリケートな素材に行うと生地を傷めます
シミ抜きする場合、あくまで自己責任で行うようにして下さい

綿やポリエステルと言った素材の衣類であっても、
あまり強くこすると生地を傷める可能性があるため、
いきなり強くシミ抜きをするのではなく、
まずは弱く、そして少しずつ力を加える必要があります



この
「物理的な力の効果」は、
インターネットがこれだけ浸透した世の中でも、
検索すべきワードが分かりづらいため

「明確な目的を持って調べないと、辿り付かない情報」
・・・のようなものである、といつも思います


エリ・ソデの、ファンデーションや皮脂汚れのシミ
あるいは血のシミにいつも悩んでいる・・・と言う場合

この
「物理的な力」を活用してみて下さい
ただし、強くやりすぎると、
服を一発でダメにする可能性もあります


とても大事にしている、あるいは
仕事でいつも着ていて、替えがない服の場合は、
控えておいた方が良いでしょう

シミ抜きで料金を頂く、商業クリーニングの場合は別ですが
家庭での、完璧に落ちなくてもいいシミ抜きの場合、
「迷ったら、とりあえずやめておく」・・・が無難な対応です