第百八十二回:「『ドライ品〇〇%OFF』をしないワケ」
「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」
常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています
第百八十二回は、「『ドライ品〇〇%OFF』の裏側」について
毎年、衣替えの季節になると、多くのクリーニング店で
「ドライ品〇〇%OFFセール実施中!」として、
ドライクリーニングの衣類を
割引するセールを行っています
「なんでドライ品だけ?」と思うかもしれませんが、理由は簡単で
ドライ品は、基本的に仕上げの手間がかからないからです
ドライクリーニングの衣類は、
専用の機械で洗浄
⇒蒸気を噴射する機械に入れて、細かいシワを伸ばす
・・・と言う基本的な流れは、どのクリーニング店でも変わりませんが、
「その後、仕上げを行うかどうか」は会社の判断によります
(当社では一点一点、仕上げを行っています)
衣類にもよりますが、特にオーバー・コートは
蒸気をあてただけで大部分のシワは伸びるため、
ほとんど仕上げの必要がない場合が多々あります
そのため、大量に受付をしても仕上げの手間がかからない事から、
クリーニング店の多くが「ドライ品〇〇%OFFセール」を行っています
これはつまり、「水洗いの衣類は手間がかかるので、セールはしたくない」
・・・と言う、クリーニング店からのメッセージです
そして、当社では創業以来一度も、
「ドライ品〇〇%OFFセール」を実施した事はありません
何故かと言うと、
@割引対象ではなかった場合、不信感を持たれるから
Aドライ・水洗いの両方が可能な衣類への対応が難しいから
・・・と言う理由からです
まず@ですが、「新JIS表示」と検索すると、衣類に使用されている
洗濯表示を説明したホームページがたくさんヒットしますが
そういった情報を見た上で、自分の持っている衣類の中で
どの衣類がドライクリーニング可能なのか、
理解している方はそれ程多くはないと思います
そのため、「お店に持って行ったけれど、
ドライクリーニングは出来ない衣類のため、セール対象外と言われた」
と言う事態が多数、発生すると考えています
「割引の対象だと思っていたら、対象外と言われた」
・・・と言う対応は、お店に対する不信感を産みます
そのため、当社が毎年春に行っている「ダウンウェア〇〇%OFFセール」は、
ドライ・水洗い問わず、ダウンウェアであれば対象としています
続いてAに関しては、
当社ではドライクリーニング・水洗いの両方が可能な衣類の場合、
洗剤・溶剤でテストした上で、「その衣類に適した洗い方で洗う」を
基本的なルールとしています
ただし、汗や一部の食べ物の汚れはドライクリーニングでは落としづらいため、
汚れの状況に応じて、水洗いを優先する場合もあります
それが「ドライ品〇〇%OFF」の対象としてお受けした場合、
必ずドライクリーニングによる洗い方となるため
ドライクリーニングだと、汚れがしっかり落ちない・・・と言う事が分かった上で、
それでもドライクリーニングせざるをえない、と言う対応になります
当社の社会における役割の一つは、
「お気に入りの服を、長く使いたいと考えている方の、お手伝い」
であると考えています
ドライクリーニングで基本的に汗は落ちません
しかし、汗が脱色・変色となって出て来るのは
時間が経過した後(大抵は次のシーズン)であるため
クリーニングから返って来た時点では分からず、
しかし脱色・変色に気付いた時点で手遅れ、
と言うケースは多々あります
「ドライ品〇〇%OFF」のセールに出すのは、
基本的に「ドライクリーニングしか出来ない衣類」の方が無難です
ただし、ドライ・水洗いの両方が可能な衣類の場合でも、
「どう洗うか」はクリーニング店側の判断となります
ドライクリーニングでは落ちない汚れ・シミがある・・・
と言う事を理解した上で、そのようなセールを利用するよう、
心掛けてみて下さい
ただし、そう聞くとドライクリーニングは、
汚れをあまり落とさない洗い方なのでは?と思うかもしれませんが
ドライクリーニングは油系の汚れを良く落とし、
何より衣類へのダメージが水洗いより少ないため、衣類が長持ちします
@ワイシャツ・ブラウス・Tシャツは水洗い出来る代わりに、縮むのが早い
A大抵のスーツ・オーバー・コートは、ドライクリーニングのみである代わりに、
大事に扱うととても長持ちする
・・・と言う事を、頭の片隅にでも置いておいて下さい