クリーニング豆知識

第百七十二回:「中性洗剤の功罪」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百七十二回は、「中性洗剤」について



汗をかいた、シミが付いたから、
家で洗ったら縮んだ、もしくは色落ちした・・・
と言うご相談をお受けする際、良く言われるのが


家で洗えると思っていた

・・・と言うことです。そして、そう思った根拠が
「中性洗剤を使えば、ドライマークの服も安全に洗えるはず」
と言う思い込みである場合が、非常に多く見受けられました


衣類に付いている品質表示は、2016年に法改正があり、
今までとは大幅に変わりました

それまでは、衣類を制作・販売するメーカー側の意向によって、
品質表示が付けられることが多々ありました


具体的には、本当は水洗いが出来る衣類ではあるけれど、
日本人は神経質なので、ほんの少しの色落ちや縮みでも、
クレームになるかもしれないから、
「水洗い不可」の表示を付けておこう・・・と言ったことが可能でした

そのため、
「海外の表示では水洗い可能・日本の表示では水洗い不可」
と言った衣類が、特に高級ブランドで非常に多く見られました


法改正によってこの部分が、
「メーカーの意向ではなく、衣類そのものの洗濯に対する性質」
表示することが、義務付けられるようになりました

数年前と比較すると、海外と日本で洗い方の表示が全然違う、
と言うことは随分少なくなってはいますが・・・ゼロではありません


そして、この事が中性洗剤とどう関係するかと言うと、
中性洗剤の有名な製品のCMで

「ドライマークも洗えます!」
と大々的に宣伝しているものがありました

洗濯機にも
「ドライコース」のようなものがある製品があり、
ドライマークに対応した洗剤を使用すれば、
ドライクリーニングのみの衣類も、家庭洗濯機で洗えます!
・・・と長い間周知して来ました


中性洗剤そのものは、
非常に優れた製品であるといつも思います


酸性でもアルカリ性でもないため、繊維へのダメージも少なく、
今でも有効なケースはたくさんあります
使い方を間違わなければ、非常に便利な洗剤です


当社でも、有名メーカーの中性洗剤を常備しており、
全く使わない週はほとんどないほどです

ただし、中性洗剤を使用しても、
家庭での洗濯は
「水洗い」であり

「水洗い不可の衣類を、
中性洗剤を使えば、安全に家で洗えるかどうか」

は全く別の話です


しかし、法改正によって、ドライクリーニングのみの衣類は、
クリーニング店でのドライクリーニングにのみ対応しており
中性洗剤で洗える、と言う表示もなくなりました

そしてこの時、中性洗剤のメーカーや洗濯機のメーカーは、
「法改正があったので、ドライマークの衣類は、
中性洗剤を用いても、家庭では洗えなくなりましたよ」と
周知したのかと言うと・・・しませんでした


このコラムで繰り返しお伝えしている通り、
『売る側』は、自分にとって
都合の良いことだけを伝えようとします

都合の悪いことは、言わないか、
誰も気付かないような所に書きます

そのため、
「ドライマークの衣類は、家庭で洗えなくなった」と言うことは

一般に浸透することはなく、未だに
「ドライマークの衣類も、家で洗える」
と思っている方が多く見受けられます


この事は、今後も浸透することは難しいと思います
家庭でドライマークの衣類を洗い、縮みや色落ちが発生して、
そこで初めて調べて、知った・・・と言うパターンがほとんどでしょう

また、
「〇の中にWのマーク」
「クリーニング店でのウェットクリーニング」を示しており、
クリーニング店の設備を用いてプレスしないと、
元通りの状態には戻らないことを表しています


法改正後の品質表示については、
「新JIS表示」と検索すると一番上の方に出て来る、
消費者庁のpdf文書か、法改正から時間の経過した今なら、
詳しく解説しているホームページがたくさんあります

知識は身を守ります
色々な服を着るのが大好きで、
服はたくさん持っている、と言う方ほど、
一度しっかりと品質表示について調べてみて下さい



また、学生服の一部や、
習い事で使用するドレスなど

クリーニング店でも扱いが難しい、
子供用の衣類はかなりあります
スマホで5分もあれば調べる事が可能なので


家で洗濯を担当していると言う方は、
詳しく解説したホームページをお気に入りに登録しておいて、
気になったらとりあえず調べる、いきなり洗わない

・・・と言うクセを付けると、
思わぬ洗濯による事故を防ぐことが出来ます


特に、洗濯マークの下に二本の横線が入っている場合は要注意です
これは
「非常に弱く洗う」と言う指示表示であり、
いつも通りの感覚で洗うと、縮みや型崩れの恐れがあります