クリーニング豆知識

第百五十四回:「no deal」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百五十四回は、「no deal」について



「no deal」

・・・と聞いて、
すぐに何の事か分かる方は少ないのではないでしょうか
直訳すると
「不賛成」「納得できない」と言う意味です


ただし、
「取引が成立しない」
「契約に至らなかった」と言う意味もあり

「(イギリスによる)合意なきEU離脱」を、
「no deal Brexit」と表現するようです


あまり良いイメージのない単語ですが、
クリーニング業に携わる物として

海外では良くある事で、日本でもっと広まって欲しいと考えているのが、
「お互い納得した上で、取引不成立」と言う形です

どういう事かと言うと、クリーニング業に置き換えると、
劣化した合成皮革や、購入から数年が経過したシームレスダウン
機械仕上げを行うと伸びる可能性のある、ニットシャツなどを

クリーニング店側はリスクを説明し、
消費者側はその説明を理解した上で

「お互い納得した上で、
今回はクリーニングに出さない」
と言う形です


クリーニング店側は、
洗浄・仕上げの際のリスクを背負う事がなく

消費者側も、これ以上衣類が劣化する事を防ぐ
そのような形での
「成立しない取引」のような感覚が、
もっと広まって欲しいと考えています

ただ、この形での取引が難しいのは、店頭や工場において

「この衣類には、このようなリスクがある」
と言う事を、
誰かが気付いて、消費者側に伝える必要がある、と言う事です

また、消費者側としても、
また使いたいから衣類をクリーニングに出す訳であり

「こういうリスクがありますよ」といきなり言われると、
戸惑ってしまうでしょう


そのため、クリーニング店側、消費者側の双方が、
歩み寄る、協力すると言う、
心構えがないと成立しにくい形であり

クリーニング店側としては、お客様のために、

「この衣類は、劣化が進む可能性がある」
と考え

お客様の側も
「このお店の人が、言うのなら」と考えるような、
お互いの間に信頼がないと、中々難しいと思います


では、消費者側はどのような事に気を付ければ良いかと言うと、
基本的には

「品質表示を良く読んでから買う」
の一言に尽きます

アパレル側としても、自分の身を守るため、
「この衣類には、このような特性があるので、
その事を理解した上で購入してくださいね」

・・・と言うメッセージが、品質表示に込められています


特にユニクロの品質表示は、
非常に細かく衣類の特性について表記しているものがあり、
これを
「読まなかった・知らなかった」では通らない、
といつも思います


衣類を購入する際、品質表示を良く読み、
特殊な性質が書かれている場合

その特性が自分にとってどれくらい影響があるのか、
と考える
「クセ」を是非付けてみて下さい


特に多いのは、製造から数年で、加工部分が劣化する場合です
その衣類を、数年使えれば良いと思うのか、あるいはもっと長く使いたいのか

部分的に使われていて目立たたないのか、あるいは目立つ部分になるのか
もしくは、全体の機能に関わる部分なのか



もし、衣類やクリーニングに関するトラブルが発生した時
「品質表示を読んでいなかった・知らなかった」と言う状況で、
困るのは消費者側です

衣類の特性をしっかりと理解した上で、購入するようにして下さい
また、品質表示を良く読んで購入出来ないと言う点で、
「ネットオークションで買った古着」は要注意です