第百四十六回：「黒くなる前に」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百四十六回は、「ワイシャツのエリの黒ずみ」について



ワイシャツのエリが黒くならないためには、
どれくらいの頻度で洗えば良いのか

今まで数えきれない程、お受けした質問です
一般的な答えとしては、
「一日一着。週に一度洗う」となります


当社には、週に一度、月〜金に
着た分のワイシャツをお持ちになるお客様がたくさんいます

そのお客様のワイシャツのエリは、
非常にキレイで、黒ずみはほとんどありません

一方、一ヵ月に一度、
ワイシャツを数枚お持ちになるお客様の場合、
エリ・ソデ部分に黒ずみが発生している事が多々あります


ただ、「一日一着。週に一度洗う」を、
全てのワイシャツを着る方に実践して欲しい、
と言いたい訳ではありません


エリ部分が黒くなる仕組みを理解した上で、
�@大事なシャツなので、着たらすぐ洗う

�Aそこそこ良い物なので、
黒ずみが発生しないよう頻繁に洗う

�Bセールの際に買った安物なので、
黒ずみが発生したら処分する

・・・のような、
「自分なりの基準」を持っていただければ、と考えています


そもそもこの黒ずみは、エリ部分に付着した皮脂が、
酸化して黒くなった状態です
ある日突然黒くなる訳ではなく

最初は茶色
皮脂や汗がたくさんついて時間が経過した場合、黄色く出て来ます
その後、エリ部分に蓄積した皮脂などが変色して、黒くなります


茶色の状態で出て来た場合、
市販されている「ワイシャツのエリ・ソデのシミヌキ剤」をエリ・ソデに塗り、
使用しなくなった歯ブラシなどで良くこすってから洗う事で、
家庭洗濯でもかなり落とす事が出来ます

時間が経過して黄色く出て来た場合、
基本的には漂白シミヌキが必要となります

しかし、漂白処理は非常に強いシミヌキであるため、
市販の漂白剤にも「色柄物には使用しないで下さい」
のような注意書きがあります

そのため、白いワイシャツ以外には、
基本的に漂白処理はお勧めしません

ダメで元々のつもりで、色落ちしたり、
取れなかったら処分する・・・と言う場合のみ、
自己責任でやってみる、くらいの心構えの方が無難でしょう


そして、もし黒ずみが発生した場合、
完全に除去する事は困難です

絶対に無理とは言いませんが、
発生する費用や衣類へのダメージを考えると

「現実的な方法では難しい」と言って差し支えないほどの、
強力なシミです

日常的にワイシャツを着ていると言う場合、
持っているワイシャツのうち、
黒ずみが発生しては絶対に困るシャツ・
出来れば避けたいシャツ・特に困らないシャツ

・・・と言う自分なりの基準を、一度考えてみて下さい


ワイシャツの黒ずみの発生は、
「これだけの期間が経過すると発生します」
と断言出来るものではなく、
日頃から予防に努めるしかありません

一ヵ月に一回、１０枚程度お持ちに
なるお客様のワイシャツのエリに、全く黒ずみがない一方で、
毎週１〜２枚お持ちになるお客様のワイシャツには、
黒ずみが発生しているなど、個人差・環境による差があります


また、ワイシャツは耐用年数と言う点で見た場合、
製造から２年で、価値がほぼゼロになります


そのため、製造から２年以上経過した
ワイシャツをずっと着ていると言う場合

黒ずみの発生を予防しながらまだまだ着るのか
２年や３年と言った基準で処分するのか
一度、考えてみて下さい