クリーニング豆知識

第百四十二回:「ニットシャツ進化論」

「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」

常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています

第百四十二回は、「進化するニットシャツ」について


店舗で
「ワイシャツ」として売っている
消費者側も
「ワイシャツ」として買う

しかし、クリーニング店で、
「ワイシャツ」として受け付けてもらえない可能性がある
それがニットシャツです


クリーニングの業界紙「全ドラ」において、
イトーヨーカドーなどIYグループで販売している、
ニットシャツについての注意喚起の記事がありました

このシャツは、
「ワイシャツ」として販売しているものの、
品質表示に
「機械仕上げは避けて下さい」と言う注意書きがあります

機械仕上げが出来ない・・・と言う事は、多くのクリーニング店において、
通常のワイシャツとして受け付けてもらえないと言う事です

販売の際に説明はありません
クリーニング店においても、
品質表示をよく読まない限り、気付かないでしょう


ニットシャツを、通常のワイシャツと
同じように機械にセットして仕上げを行うと、

特にソデの部分は伸びる場合があります
そして、伸びると基本的に元には戻りません


しかし、クリーニング店側としては
「シャツの特性によるものです」と主張することが出来ます

販売した店舗側も、
「そういうシャツなんですよ」と言う事が出来ます
結果として、困るのは消費者です


以前から、こちらのコラムや、
「クリーニング日記」の方でも周知して来ましたが

実際にそのような事態に遭うまでは
「自分とは関係ないこと」であるため

ニットシャツの特性については、
今後も消費者に浸透する事はない、と考えています


当社でも、気付いた場合には店頭にて
「ワイシャツとしてお受けする事は出来ますが、伸びる可能性があります」
とお断りしたうえで、ワイシャツとして洗い・仕上げを行う事があります

ただし、ニットシャツの品質が年々向上していることもあり、
最近は
「ニットシャツと思われるが、確信が持てないシャツ」も多くあり

品質表示にも書いていない製品もたくさんあることから、
「全てのニットシャツを、店頭で見分けることは不可能」と考えています


また、この対応は当社独自のものであり、
チェーン店の店頭にてニットシャツかどうか見分ける、
と言う事は難しいでしょう

そして、怖いのは
「ニットシャツである事を見逃した場合」です
そのままワイシャツとしてプレスすると、
前述の通り伸びる場合があります


ただ、シームレスダウンとは違い、
「ニットシャツは避けるべき」と言いたい訳ではありません

ワイシャツでありながらニットなので伸縮性があり、
柔らかいので着心地も良く、
「持っているシャツは全てニットシャツ」と言うお客様も、
少なからずいます

そのため、一度着用してみて、自分に合っていると感じたのであれば、
リスクを理解した上で購入する分には、とても優れた製品だと思います
そもそも、ニットシャツがここまで広まったのは、需要があるからです


ニットシャツに関しては、
クリーニング業界としてもまだ手探りの状態であり

「店頭でニットシャツである事を告げても、
通常のワイシャツとして扱われ、伸びて戻って来る」

・・・と言う対応の店舗も、まだまだたくさんあるかと思われます


その場合、ニットシャツは家庭用洗濯機で洗っても、
そこまでシワにはならず

通常のワイシャツと違って糊付けも必要ないため、
家庭で洗う、と言う対応でも良いかと思います

ただし、シワが寄るのは確かなので、
スチームアイロンで軽くシワを伸ばしてあげると良いでしょう