第百十五回:「日本人向け表示」
「クリーニング業に携わる人間からすると当然の事であっても、
お客様からすれば当然でない事はたくさんある」
常々感じていたそのギャップを少しでも埋めるため、このコラムでは、
クリーニング業者から見た、衣類に関する様々な豆知識を公開しています
第百十五回は、前回の「新・旧表示比較」の補足です
前回のコラムで、
「海外向けの表示と、
日本向けの品質表示が違う衣類がある」
と言う事を指摘しました
具体的には、
海外向け:水洗い可
日本向け:水洗い不可
・・・と言う品質表示の付いている衣類を、
頻繁にお受けします
表示を付けたアパレル側の真意は測りかねますが、
クリーニング業者としては
「日本人は世界一神経質だから、
少しの縮み・色落ちでクレームが来そう。
だから、『水洗い不可』と言う表示を付けておこう」
と言うアパレル会社の思惑があるのでは、と疑いたくもなります
肌に直接触れるワイシャツやポロシャツ、
ブラウスのような衣類に「水洗い不可」の品質表示を付け
クリーニング業者が「品質表示通りに」クリーニングしていると、
基本的に汗は落ちません
大抵の消費者は、
「クリーニングに出しているのに、汗が蓄積し続けている」
とは思わないでしょう
そしてある時、黄色や茶色のシミ、
あるいは脱色と言う形で出てきて初めて、
「汗が蓄積していた」と言う事が分かります
この場合、アパレル側は
「衣類の特性を考えて、品質表示を付けました」と主張する事が出来
クリーニング業者側も
「品質表示通りにクリーニングしました」と主張出来ます
では、海外と同じ品質表示が付いていれば、
その表示は100%信用して良いのか
それは、「どこまでの縮み・色落ちを許容出来るか」によります
つまり、「人それぞれ」です
日本人が衣類の縮みや色落ちに関して、
世界一かどうかはともかく、
世界でもトップレベルに神経質である事は確かです
日本人向けの洗剤は、そのような需要に応えるべく作られており、
世界的に見ても非常に高い品質を誇ります
また、外国への輸出を考えず、
日本人に購入・着用してもらう事を前提とした衣類は、
日本人向けの洗剤を用いて洗っても、
縮みや色落ちが発生する事はあまりありません
しかし、世界には「縮んでも、色落ちしても、
普通に着られるなら良いじゃない」と言う国が多くあり
そのような国にも衣類を輸出しているアパレル会社の場合、
『日本人の感覚にも合うように作ってくれている』
と言う思い込みは危険です
つまり、「海外と日本で表示が同じ衣類」=「日本人の感覚に合う衣類」
・・・ではありません
一度品質表示通りに洗っただけで、
著しく縮み・色落ちが発生する場合があります
今まで、数えきれない程の品質表示を
見て来たクリーニング業者として、品質表示とは
「参考にするが、信用はしない」ものです
日本製でも外国製でも同じです
日本製のおかしな衣類もあり、
外国製の素晴らしい品質の衣類もたくさんあります
基本的にクリーニングで縮み・色落ちが発生するのは
水洗いの場合が殆どです
もし、ドライクリーニング・水洗いの両方が可能な衣類で、
縮み・色落ちが発生しては困る大事な衣類の場合、
「とりあえずドライクリーニング」をお勧めします
ドライクリーニングで
縮み・色落ちが発生する事は殆どありません
絶対に失敗したくないと言う場合、
基本的にはドライクリーニングでの洗いが無難です
ただし、前述の通り、
ドライクリーニングだけでは汗が落ちません
特に夏場に着る衣類の場合は、
いずれかのタイミングで水洗いする必要があります
このような事で悩むのが煩わしい、と言う場合、
基本的にはユニクロなど、国内の大手アパレルが無難です
海外のブランドは、いわゆる一流と言われる会社でも油断出来ません
あまり考え過ぎると服を買えなくなるので、
「長く使えるかどうかチェックしてから買う」
ぐらいが丁度良いかと思われます