『ライオンズファイト!!』

登場人物

テック=ディミー(男)・・・『クリムゾン・レイン』の異名を持つ射撃の天才。性格は、一本筋かもしれないが、何でもかんでも、自分の中に溜め込むタイプ。気が弱く猫の様に鳴くシールドライガーDCS-Jに乗る。

アビス=ルーシア(女)・・・『ビットレイアル』の異名を持つ元傭兵。帝国を追われた身だが、共和国に協力していても、提示される金額が多ければ、平気で共和国を裏切る最低な人間。大尉の階級も『体』で買ったと言うのがもっぱらの噂。カッコ良いからと言う理由だけで満足に扱えないライガーゼロに乗る。

ガンチェリー(女)・・・無口、とにかく無口。何考えているか判らない。エヴァの綾波か、星界の紋章のエクリュア辺りを彷彿してくれれば良い。ガトリングで銃武装したセイバータイガーに乗る。

ファルナファル(女)・・・フィーネと同じく、カプセルの中に入っていた古代ゾイド人。人口無能を自称しているが、その料理の腕前は共和国大統領をメロメロにしてしまうほどらしい(笑)ギルベイダーに乗る。



 その日、彼らは酒場で黙々と食事を取っていた。

 彼ら、階級順に言うと、アビス大尉、テック中尉、ガンチェリー少尉、ファルナファル少尉である。ここ最近のGFの活動でこの4人はよくチームを組む、今日も、GFとしての仕事の後だ。彼らの間に会話は無く、喧騒漂う夜の酒場にその1画は、酷く浮いている様だ。よく見ると、アビスが酷く不機嫌な顔をして、強めの酒の入ったジョッキを何杯も呷っていた。

 どの位立っただろう、ガンチェリー以外の人間の食事がそろそろ終ろうかと言う頃に、ガタンと、アビスが立ち上がり、ビッシッとテックに指を指し、

 「お前のゾイド!!アレは何だ!!ふざけんじゃねぇ!!」

 むはぁと、酒臭い息を吐きながら叫んだ。かなり飲んでいるのか、顔が酷く赤い。名指しで叫ばれたテックは、一瞬嫌な顔をしたが、無視を決め込んで晩御飯の最後の一口を口に放り込む。その後も、アビスはテックとテック機に対し、文句を喚き散らしだした。

 アビスが喚き散らす理由、それは、昼間の戦闘にあった。

 今回の任務は、山賊がゾイドを繰り略奪行為をしているので、それを静めると言う比較的簡単な任務だった。実際、山賊ゾイドも内訳は、アイアンコング×1、ガイザック×2、モルガ×2であり、最新機、カスタム機、果ては前大戦の大空の覇者等のゾイドを繰る彼らにとっては、非常に『ラク』な仕事であった。

 「アイアンコング、いっただき!!」

 周囲の敵を他の連中に任せ、アビスは山賊のボスが乗るアイアンコングを狙い、ライガーゼロ・シュナイダーを、『フルパワー』でアイアンコングに突進させた。

 ――――――― 結果 ―――――――――

 すばやく身を翻したアイアンコングの右腕を切り落とした代償に、

 Piiiii〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 「こんな時にオーバーフロウ!!」

 聞く時によっては非情に聞こえる音を立て、システムが停止する。

 「ちょ、ちょっと、動け、動いてよ。」

 ガチャガチャと、コンソールパネルを叩くが云とも寸とも言わない、その内、アイアンコングも動かなくなったライガーに対に勝機を見出したのか、大型ミサイルランチャーをライガーに向ける。

 「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと!!」

 アビスが切羽詰った声をあげる。このままでは殺られる・・・そう思った時、

 ニャオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

 ドップラー効果で鳴声を響かせながら、テックのDCS−Jが全速力でアイアンコングを・・・

 粉々に吹き飛ばした。

 130tの機体が300km/hオーバーで体当たりを噛ましたのだ、単純計算約15万tの衝撃がアイアンコングを襲う。そして、バラバラになったアイアンコングが受けた衝撃の結果を物語っていた。

 「悔し〜〜〜い!!」

 そして、コクピットの中で、狙っていた獲物を掻っ攫われたアビスは、ダダッ子の様に手足をばたつかせていたのだった・・・

 そして、その戦闘の結果は、晩飯に現れていた。アビスはアレからまだ文句を言い続けている。酔っている所為か何度が同じ事を言っているが、本人は気付いてないだろう。

 「大体、何?あの泣き方、『ニャオ〜ン』ですって、笑っちゃうわ」

 そう言いながら、ケタケタとアビスは笑う。正直、周りの目線がそろそろ痛くなっていたが、テックとファルナは敢えて無視した。ガンチェリーは何を考えているか解らないが、黙々と食事を続けている。恐らく何も考えてないのだろう。しかし、そんな周りの事を構う事無くアビスの口上は続いた。

 「あんたの機体は、気が弱すぎるのよ、男がそれでどうするのよ。」

 そこまでアビスが言った時、食後の紅茶の入ったカップと手に取りながら、テックは思わず、

 「ビジュアルを主眼におきすぎて、満足に扱えない機体に乗る大尉にも・・・」

問題が在るのでは。と言う台詞は、『バギャッ!!』と言う音と、次々に割れる皿の音に阻まれる。見ると、アビスが卓を素手で粉々に破壊した所だった。しかも、一撃で・・・

 弁償代が・・・と、呟きながら、ファルナが片手で顔を覆い天井を向く。ガンチェリーは要領良く自分の食事の盛られている皿だけは、きっちり確保していた。

 当のアビスは、凄まじい顔でテックを睨み、

 「私の事は、良いんだよ。」

と、ドスを聞かせ、再び文句を並べだす。付き合いきれんと、テックがため息を吐きながら小さく首を振ると、ファルナがこっそりと、ピーナッツを2つ渡してくれた。見るとファルナがピーナッツを耳に入れている所だった。あぁ、なるほど。と、テックもこっそりと、即席耳栓を耳に入れた。最後に、アビスの叫んだ、

 「大体、名前負けしてんのよ、『ライガー』?はっ、あんたの機体なんて『猫』よ。『仔猫』で充分よ、二人揃ってコンビ『ニャンニャン』って名乗ったらぁ。」

と言う台詞が、テックの耳に残った。

 酔いつぶれて眠っているアビスをガンチェリーが背負いながら、一行は宿に帰る途中だった。ファルナは、ふと、食堂での会話を思い出してテックに聞いた。

 「中尉、中尉は何故、フリーズの起こり易い、気の弱い機体に乗っているのですか?中尉ほどの腕なら多少癖のある機体でも乗りこなせると思うのですが。」

 その質問にテックは笑いながら、

 「まぁ、長く乗っている機体だからね、結構な愛着があるんだ。あぁ見えても、ここぞと言う時は根性見せてくれるしね。」

と言った。確かに、古参兵には最初に与えられた機体をカスタマイズにカスタマイズを重ね、最新機が与えられてもそれを受け取らない者も多い。ゾイドの操縦はパイロットの技術だけでなく、そのゾイドとの相性も求められる。相性が良ければ良いほど、そのゾイドはスペックノートに書かれた以上の性能を出す。古参兵の中には旧型機で新型機をバンバン倒す者も居るぐらいだ。

 「仲が良いんですね。」

 ファルナも釣られた様に微笑む。その微笑を見ながら、あぁ、最高の相棒さ。と、笑顔で答えた。

 そのまま、宿に着き、夜は過ぎ、朝が訪れ、共和国と帝国による即席混合チームは解散となった。

 

 ・・・後日・・・

 テックは、旧遺跡に愛機と共に居た。

 天気は快晴、雲一つ無し。

 テックとDCSJは、互いに向き合っていた。DCSJが嬉しそうなのは、垂直に立った尻尾からも見て取れる。

 やがて、テックは大きく息を吸い、

 「風雅!!お前は猫か!!」

と叫んだ。DCSJ『風雅』は

 ニャオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

と、高らかに鳴いた。どう言う意味で鳴いたかは、垂直に立った尻尾から容易に理解出来た。テックの頬が、ピクピクと引き攣る。なんだ、かんだ、言って置きながらも、この前アビスに言われた事が、しっかりと、テックの耳に付いて離れなかったのだ。

 テックは再び大きく息を吸い、

 「俺たちは、コンビ『ニャンニャン』かぁ!!」

と、叫ぶ。今度は、間髪入れずに、

 ニャオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!

と、しかも、かなり弾んだ声で『風雅』が鳴いた。尻尾も垂直に立っている。

 「そこは、喜ぶ所じゃ無ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 拳を握り締め、フルフルとしながら叫んだテックの言葉は、暫し遺跡に反響していたが、やがて、テックの心に『虚しさ』を刻み付けて消えて行ったのだった。

終り

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