入場料の高い美術館

 冷や汗をかいた後は、クロード・モネの”ルアンの聖堂”だ。光にとろけそうな聖堂の一日、朝から夕方までをまるで幻灯で映し出したかのように時間をおって移り変わっていった。

 そして、モディリアーニの”扇をもつ女、ルニア・チェホフスカの肖像”だ。絵の中へはいると肖像画の女性が、

「ようこそいらっしゃいませ、お客さん!」

と声をかけてきた。美術館にはいってはじめて客としての扱いを受けたような気がした。ほっとしたのもつかの間、件の女性が扇をパタパタさせながら、

「私って見ての通り、首が長くておまけになで肩でしょ。肩がこっちゃってこっちゃってしようがないのよ。あなた少し私の肩をもんでくださらない?いや、ただでとは申しませんよ!後でちゃんとお給金を差し上げますわ」

と頼んだ。どうしたものか?と考えたが、美術館にはいるときに二万円も払っているのだ。ここでちょっと取り返してやろう。貧乏根性が出て肩もみをすることにした。それにしても、肩をもみはじめてからもうすでに30分はたっていた。手は痛いしこっちの方の肩がこってきた。結局のところどっちがお客なのかわからなくなってきた。いったいいつまで肩をもませるつもりなんだ!!と思っていると、女性は、

「あ〜気持ちよかったわ!おかげでだいぶ楽になりました。もういいわ。どうもありがとう、これ約束のお給金ね」

といいながら10円玉1ヶをくれた。30分以上、肩をもませといてたったの10円かよ!今時、子供だって10円じゃあ喜ばないぞ!といいたかったが、女性のあの青くするどい瞳を見ると泣く泣くだまって引き下がるしかなかった。

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