入場料の高い美術館

 つぎの絵。セザンヌの ”リンゴと洋なし”だ。ポール・セザンヌといえば、サント・ヴィクトワール山の風景画も有名だが、ここには静物画が展示してある。さっそく赤いボタンを押すと暗くなってピカッと稲光がして、リンゴと洋なしの前に立っていた。ウラにまわると、青いボタンがあってそのとなりに「ご自由にお食べください。」と、日本語で書かれていた。この表示も青いボタンも絵の画面側から見るとちょうどリンゴと洋なしのかげにかくれるようになっている。リンゴと洋なしを一口ずつかじってみた。リンゴは熟れすぎていたが、洋なしの方はすごくおいしかった。思わず洋なしはしんだけ残して全部食べてしまった。まてよ、ここでリンゴと洋なしをかじってしまったら、もとの絵はどうなってしまうのだろうか?リンゴはひとくちかじっただけだから歯形をかくせるが、洋なしはしんだけにしてしまった。絵の方の洋なしもしんだけになっていたら…。世界の名画に傷をつけてしまったのか?もし、絵画を弁償しろ!なんていわれたら…。そう思うと血の気がサッと引いた。いったいセザンヌの絵はいくらするのだろうか?一生働いて返せる額だろうか?あわてて青いボタンを押した。ピカッと稲光がしたので目を閉じた。美術館にもどってきたものの、なかなか目が開けられなかったが、いつまでもこうして目を閉じているわけにもいかないので、おそるおそる”リンゴと洋なし”を見てみると、そこには歯形などない丸いもとのままのリンゴと洋なしが描かれていた。

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