入場料の高い美術館

 最初の絵に見入った。一枚目、それはユトリロが描いたものだった。ユトリロは私が最も好きな画家のうちのひとりだ。モーリス・ユトリロの風景画はどれも建物のりんかく線がくっきり入っていて、しかもそれは定規で引いたような直線だ。”ブラン=マントの教会、教会沿いの道、パリ”という題名だ。「白の時代」の作品で教会の壁、道路わきの塀は白い。白といってもどの壁も真っ白ではなくて、道路わきの塀はやや緑がかってくすんでいる。教会の白壁も汚れている。この白は絵具に建材用の漆喰を混ぜてカンバスにぬっていると、昔、テレビか何かでやっていたのを思い出した。空も水色ともうす緑ともつかないくすんだ色合いだ。絵のわきには題名と作者、制作年代などが表示されている。そのプレートの下に赤いボタンがあり、さらにその下に「どうぞ、押してください。お帰りの際には青いボタンを押してください。」とある。ほかの絵を見るとすべて、そのとなりに赤いボタンがある。絵と赤いボタンが交互に並んでいる。”お帰りの際”とはどういうことだ?ここにはいるのに二万円もはらっているんだ!押してくれと書いてあるのだから、押してみよう!そう思って赤いボタンを押してみた。とつぜん、まわりが暗くなった。なんだ!なんだ!!と思っていると、ピカッと稲光がしたかと思うと急に明るくなった。気が付くと、さっきまで美術館のユトリロの絵の前に立っていたはずだが、外に出ていた。

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