本を読み終わるとマサシ君は涙がぽろぽろ出てきました。戦争のことは少し前におじいちゃんから話を聞いたことがあったし、戦争映画なんかもみたことがありました。でも、その時は銀色にかがやく飛行機やカッコいい軍艦に目を奪われてしまって、戦争のざんこくさや悲しさには気が付きませんでした。この本を読んではじめてそのことに気が付きました。そして今の日本は平和で本当によかったなあとしみじみ思いました。けれど、平和な日本にいて今のマサシ君はちっとも平和じゃありません。そのことを考えるとなんだか変な気持ちになりました。マサシ君はしばらくしょんぼりしていました。うちのお母さんはいつも怒ってばかりいるけど、童話の中のお母さんみたいにボクのことをかばってくれるかなあ?と考えてみました。すると去年の春先にマサシ君がうちのお庭で足に大ケガをしたときのことを思い出しました。お父さんはお仕事でうちにいなかったので、お母さんがマサシ君を背負って大急ぎで病院までつれていってくれた、あのときのことです。

 マサシ君はハッとしました。そして急に押入を飛び出して、お母さんのところへ行って腕にしがみつきました。

「お母さん、ごめんなさい!今は平和なんだから、平和にいこうよ!ね!」

マサシ君がそう叫ぶと、お母さんは最初びっくりしましたが、ニッコリほほえんで、

「血相かえてくるから何かと思ったら、急に変なこと言い出して…」

と、しゃがんでマサシ君をだきよせました。

「ねえ、お母さん、お母さん!もしも空から爆弾がふってきたらいっしょに逃げようね…」

おわり

参考:野坂昭如著「凧になったお母さん」

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