マサシ君の戦争

 マサシ君はひとりで暗い押入の中にいました。ちょっとべそをかいています。マサシ君はお母さんにしかられるといつもいじけて押入の中にとじこもってしまいます。この日もマサシ君は勉強のことでお母さんに怒られていました。押入の中は真っ暗なのでいつも懐中電灯をもって入ります。お母さんなんて大きらいだ!と思いながら半べそかいていたけれどだんだん落ち着いてきたので 、つみ上げられたふとんに寄っかかりながら、懐中電灯をつけてあたりを見まわしました。もうあんまり使わなくなった古いそうじきやせんぷうき、そのほかガラクタがぼうっと照らし出されました。すみっこにほこりをかぶったダンボール箱がありました。

「この前はあったかな?」

と思いながら、マサシ君はふたを開けました。フアーッとほこりがまい上がり懐中電灯の光が、まるで雪が降っているかのようにキラキラしました。箱の中にはマサシ君がまだ幼稚園に通っていたころによく読んだ絵本が入っていました。なつかしく思いながらそれをながめました。そしてダンボール箱の中身を次々に出していきました。底の方から今まで見たことがない古い本が出てきました。うすっぺらくてウラ表紙は少しやぶけていて、ふちは黄色くなっていました。本を開いてみると文字が大きくて、どうやら童話のようです。マサシ君は懐中電灯の明かりでその本を読み始めました。

 その本には昔日本が戦争をしていたころのことが書かれていました。空襲でたくさんの人が焼け死んでいったときのことです。

 ある親子が空襲にあって、安全なところに逃げようとしていました。けれど、敵の焼夷弾で辺り一帯火の海…。それでもお母さんは小さな男の手を引いて、荷物を背負って小さな公園にやってきました。公園はブランコと砂場しかなくて、大火事の中、避難するには小さすぎました。おしよせる火は小さな公園を取り囲んでとうとう逃げ道をふさいでしまいました。火は公園の木を焼きはじめました。もう、公園の中は熱くて熱くて仕方がありません。お母さんは小さな男の子を抱きかかえてかばうように砂場にうずくまりました。火はぜんぜん衰えず、お母さんと男の子を焦がそうとします。お母さんは自分はどうなってもいい、死んじゃってもいい、だけど自分の子だけは何とか助かってほしいと思いました。お母さんは男の子に自分の汗をぬりつけて、少しでも男の子の体を冷やそうとしました。それほど熱かったのです。ところが熱さで汗もでなくなってしまいました。それでお母さんは悲しくなって涙が出てきました。その涙を男の子にぬりました。お母さんは必死で悲しいことを考えて涙を出そうとしました。とうとう涙もかれてしまいました。するとお母さんの毛穴から血が吹きだしてきました…だけど結局二人ともカラカラになって死んでしまいました。

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