March 16th

正体不明のスカイフィッシュに接近遭遇!



 世界中にはその実在を確認されていない生物は多数存在する。それらはUA(Unidentified Animals)つまり、未確認生物と呼ばれる。ヒマラヤで目撃されたという全身毛だらけの生物や、塩分濃度が非常に高く、生物などいるはずのないトルコのヴァン湖で目撃された謎の生物。
 しかし、それらUAの存在は決して夢物語ではない。なぜなら、パンダや金絲猴(きんしこう)なども、発見されるまでは謎の生物だったからだ。さらにここ20年でも、一年間に約1万種類にも及ぶ新種の生物が発見されているのだ。つまり、現在未確認の生物が突然確認されても不思議ではないのだ。
 1995年ロサンゼルス。ビデオ編集マンのホセ・エスカミーラさん(47歳)はその日、編集をしていた映像のノイズが気になって仕方なかった。映像をコマ送りすると、そこには空を飛ぶ棒のような物体が写っていた。一体これは何なのか?真相を確かめたかったエスカミーラさんは、早速映像が撮られた場所へ向かった。
 場所はアメリカ・ニューメキシコ州、ロズウェル。そこで自らカメラを回したのだが、現場では何も見ることはできなかった。しかし、スタジオにテープを持ち帰り、コマ送りしてみて、彼は再び空にあの謎の棒のような物体を見たのだ。エスカミーラさんはインターネットでこの不思議な現象を公開した。すると、より鮮明に写った謎の飛行物体の映像が、世界中から届いたのだ。
 それらの奇妙な共通点は、棒状の物体の両側に、羽根のようなヒレが並んでいることだった。そのヒレをなびかせ、この物体は目にもとまらぬ早さで空を飛ぶ。エスカミーラさんは、この物体に「スカイフィッシュ」という名を付けた。
 このスカイフィッシュに強く興味をひかれた番組ディレクターは、早速エスカミーラさんに直接連絡をしてみた。すると彼は、スカイフィッシュの巣と思われる場所を発見したと言い、一本のテープを送ってきた。そこには、大きく、底が見えないほど深い洞穴に向かってジャンプダイビングをする男たちの姿があった。
 ジャンプダイビングとは、高所からパラシュートをつけて飛び下りるもので、その様子を撮った映像の中に、スカイフィッシュが多く見られたのだった。メキシコにあるこの洞穴は、直径50m、深さは370mもある。333mの東京タワーがすっぽりと入っても余るほどの深さだ。
 そこで我々は、エスカミーラさんとロサンゼルスで合流し、メキシコへと向かった。メキシコシティーで飛行機を乗り継ぎ、メキシコ湾沿いの町、タンピコに向かう。そこから更に車で3時間、人口2千人の小さな村、アキスモンに到着した。ここには日本人どころか外部の人間が訪れることはまずない。
 スカイフィッシュの巣と思われる洞穴は、この村の山深くにある。そこは神聖な場所で、地元の人でさえめったに近付かないという。この洞穴への取材許可をもらい、舗装されていない道を車で2時間、さらに歩いて1時間かけてやっとあの洞穴に到着した。この洞穴は、地元の人たちにゴロンド・リナスの洞穴と呼ばれている。人のめったに近付かないこのような場所なら、スカイフィッシュのような謎の生物がいても不思議はない。
 エスカミーラさんと番組ディレクターは、早速カメラを回し、スカイフィッシュの姿をおさめようとした。しかし、その姿をとうとう目撃することはできなかった。
 落胆してホテルに戻ったディレクターは、諦めきれずに部屋でその日に撮ったテープを再生してみた。やはり謎の物体の姿は見られなかった。ところが、スロー再生した瞬間、そこには肉眼では見ることのできなかったスカイフィッシュがうようよと飛び交っていたのだ。
 ディレクターの撮影した映像を、ロサンゼルスの撮影技術会社のスタッフに見てもらった。そこでは意外な説が出てきた。虫の残像がこのように映っているのではないかというのだ。この説を検証するため再び洞穴に行き、撮影には彼らの協力でハイビジョンカメラが用いられた。
 普通のカメラより被写体を写し出す走査線の多いハイビジョンカメラは、鮮明な映像を得ることができる。しかしハイビジョンカメラをしても、通常再生ではその姿を見ることはできなかった。そこでこのテープを日本に持ち帰り、ハイビジョン用のスロー再生機で見ることにした。するとそこには、エスカミーラさんが描いたスカイフィッシュに酷似した謎の物体が、はっきりと映し出されていたのだ。
 実際に虫の残像説を検証するため、あの洞穴付近で一番多く見られたハエを撮影してみたのだが、スカイフィッシュの形とは明らかに違っていた。スカイフィッシュは、他の生物の残像ではないようだ。
 虫の残像でないとすると、スカイフィッシュはどれ程の大きさで、どれ位の速度で飛んでいるのか。我々は、メキシコで撮影した映像を基にそれらを検証してもらうため、東京工芸大学工学部助教授、久米祐一郎先生のもとを訪れた。教授の長谷川伸先生も協力してくれた。
 被写体とレンズとの距離、撮影した時の角度、ズームでどれくらい近づいていたかなど、また撮影で使われたレンズの特質などあらゆる条件で計測した結果、スカイフィッシュについての驚くべき数値がはじきだされた。カメラと被写体との距離を35mと仮定した場合、このスカイフィッシュは体長1.2m、速度はなんと時速277kmにもなった。新幹線「のぞみ」の再高速度に匹敵するのだ。
 全ての映像を分析してもらった結果、体長は約30cm〜1.2m、時速は約80km〜277kmだった。スカイフィッシュの正体は、一体何なのだろうか?
 ここに、スカイフィッシュについて驚くべき説を唱える学者がいるという情報が飛び込んできた。コロラド大学デンバー校の生物学者で、数少ないスカイフィッシュの研究家であるケネス・スワーツ博士だ。彼は、スカイフィッシュは我々の常識外の生物であると考え、過去に地球上に生活していてすでに絶滅した生物を振り返り、丹念に調べた。そして博士はカンブリア紀にある手がかりを見つけた。
 今からおよそ5億5千万年前のカンブリア紀、まだ陸地がなく、地球全体が海におおわれていた時代だ。それまで地球上には植物のような生物しか存在しなかったのだが、カンブリア紀に一気に多種多様の生物たちが誕生した。この時代、地球を支配していたのがどう猛な肉食生物、アノマロカリスである。推定体長は約60cm〜1m、体の左右にはヒレがあり、それをたなびかせて泳ぐ。
 アノマロカリスの餌食となっていた生物は陸にあがり、進化をとげていった。しかし、アノマロカリスの化石はカンブリア紀以降の地層からはみつかっていない。博士は、複雑な生物で脳も発達していたと考えられるアノマロカリスが突然絶滅したとは考えられなかった。恐竜のように、絶滅の仮説さえないのだ。
 そこで博士は、アノマロカリスは絶滅せずに進化を続け、地上に上り、昆虫になったのでは、と考えた。その昆虫の祖先が現在まで生き残ったものがスカイフィッシュの正体ではないか、というのだ。
 撮影に成功したスタッフは、ついに村人たちの協力を得て、スワーツ博士が何度も挑戦しても今だ成功していないという捕獲作戦にまで乗り出した。洞穴の中心にロープをはり、そこから粘着シートを貼った板を深さの半分の所にまで降ろし、しばらく待ってから釣り上げるというものだった。しかし、一時間後に引き上げた板には、その世界初となるはずだった姿はなかった。捕獲には失敗したのだ。
 スワーツ博士は、更に不思議な話をしてくれた。スカイフィッシュがどのようにエサをとって飛行しているかは、現在の科学では何一つ説明できないという。仮定としては、飛びながら大気中の何かの物質をエネルギーに変えているのかもしれない。だから、死んだり止まったりすると消えてなくなってしまうのではないかというのだ。
 かつてあのゴロンド・リナスの洞穴に降りた調査団は、底にはさらに100mの深さの小さな穴があることを発見している。その下には川が流れていて、その流れはメキシコ湾につながっているという。スカイフィッシュはアノマロカリスの生き残りなのか、それとも我々の全く想像できない生命体なのであろうか。現在の常識とはかけ離れた物体であることだけは確かなのであった。