『アドウェントゥーラ 〜これから起こるであろうところのもの〜 』
男はカセットテープの中身を開けないでいた。
カセットデッキはとっくに捨てた。知り合いに聞いたって、
「今ごろテープ?」と少し笑われた。
なのにどうしてこうもこのテープに固執するのか。
中身を聞く術のないカセットテープ
カセットレーベルには目次が書き連ねてある。
1、 子どもたちが屠殺ごっこをした話 2、 かえるの王さま、または鉄のハインリッヒ 3、 ハンスのトリーネ 4、 しっかりしたすずの兵隊さん 5、 金の鍵 |
そして最後に書かれていた言葉
− 20世紀は童話になるだろう −
男は20世紀をさかのぼり始める
女はワンテンポずれて21世紀へ向かう
いつかどこかの活字の上で2人は出会う。
グリム童話もアンデルセン童話も日本語では「童話」と訳されるが、 ドイツ語は”メルヘン”で 原義は「小さいお話、小話」 デンマーク語は”エーヴァンテューア”で、ドイツ語”アーベントイアー”、 フランス語”アヴァンテュール”と同じくラテン語 ”アドウエントゥーラ” からきたもので、原義は 「これから起こるであろうところのもの」(未来分詞、中性複数」)である。 |