2004年10月29日(金)〜11月1日(月)
第5回世界鍼灸学会オーストラリア大会
東洋医学の学理研究 第4報
〜東洋医学の基本思想を易の論理にもとめて〜
日本国・東京都 清野鍼灸整骨院 院長 清野充典
【緒言】
昨今の東洋医学領域、特に鍼・灸に関する学問体系及び研究は、鍼灸医術の原理論と臨床実践が乖離していると演者は考えており、その構築の必要性を強く認識している。
東洋医学特に鍼灸医術の理論と実践が一致した共通の言語を構築し、認識のずれを解消するためには、漢字文化の教典である「易」の論理の検討が必須であると演者は位置付けている。
【方法】
『十三経注疏』所収の『周易』を底本とし、易が太極から両儀・四象・八卦に派生するまでの思想とその文字を検討し、その背景にある身体の見方・病態把握について検討し臨床に直結する理論の構築を試みた。
【結果】
『易経』の「繋辞伝」にある「両儀四象を生じ」にみられる老陰・老陽・小陰・小陽を検討すると、老陰は陰中の陰・老陽は陽中の陽・小陰は陽中の陰・小陽は陰中の陽を意味することがわかる。易では「陰」は「虚」、「実」は「陽」という意味で用いられており、東洋医学として理解しやすい文字に置き換えてみると、「四象」は陰虚・陽実・陰実・陽虚といえる。
「人は時間という空間の中を冷・熱という大気の影響を受け、常に太極を保とうとする気を働かせている」という思想の基に身体把握を行うと、ヒトの行動や病症は陰虚・陽実・陰実・陽虚という象(かたどり)を呈し、再び太極へ向かう気が働いている。すなわち、身体を基の状態に復元させようとしている、と理解することができる。東洋医学は健康体に向う力を活用している理論であり、鍼灸治療は東洋医学を実践する医療であるといえる。
象の病態把握は、治療方針の決定や鍼灸術の手技選択を容易にする。
【結語】
熱を受けた時の病症を「陽」、冷えを受けた時の病症を「陰」と捉え、その病態が「中庸」より過剰な時に「実」、不足した時を「虚」とすると、陰虚・陽実・陰実・陽虚という「象(かたどり)」の病態把握は容易になる。この思想は、理論と実践が一致した鍼灸治療を構築する事に必須であると考える。
キーワード;易、熱、冷、陰陽、虚実