秋風と俳句と煎餅と

「僕は今考えています。それは何かというと世の中の理不尽さについてです。
コンビニで万引きを発見した店長が、犯人を追いかけて行って刺殺されたり
同窓会帰りの老人数人が、飲酒運転のトラックに轢き逃げされ死亡したり、
イラクには25万人の難民が今も苦しんでいたり、とかく人の世というのは
日々理不尽な事が起きる辛い辛い修行と練磨の場所なのです」

「タムラ、何言ってんの?何が言いたいの?」

春樹は目の前に立つタムラに向かってそう言った。
するとタムラは三白眼で春樹を睨む。

「貴方のことですよ!貴方の!」
「俺の?」
春樹はキョトンとした顔でタムラを見つめた。

「そうですよ!万引き犯やトラックが貴方の事です!!」
「え、何それ?どういう意味?」
タムラはキレながら言う。

「だから僕がかわいそうな被害者なんですよ!貴方に轢かれるかわいそうな老人です!
イラクの民です!コンビニ店長です!」
「あ、タムラ、コンビニの店長なんだ?今度遊びに行くよ」
その春樹の頭の悪さに思わずタムラの手が出そうになったその時だった。

「あはは・・・・・・・」

側でそんな二人を見ていた鷹也が笑い出した。
それをタムラは不愉快気に見つめた。

「いやー、おかしいな春樹は」
目じりに涙をためながら鷹也は言う。

「ここまで会話が噛みあわないなんて奇跡的だね。イヤ、タムラ君も才能あるのかな?」
「何の才能ですか・・・・・・」



三人はいつものように放課後の理科室に居た。
鷹也は春樹に会いに来て、この二人の漫才を見物するハメになった。

「最近、春樹とのラブラブタイムをタムラ君に奪われてしまって、ちょっと妬いてたんだけどね
二人がこんなんで俺は心底安心したよ」

「それどう言う意味ですか?僕はそんなに悪趣味じゃないですから・・・・・・・」
その言葉に春樹が反応する。

「悪趣味ってなんだよ?!」

流石の春樹もその失礼な発言にキレたかに見えた。
けれど。

「アクシュミってどういう意味?」

その言葉に鷹也はまた大笑いした。
タムラはすでに呆れて何も言えない状態だった・・・・・・・・・・・・。





タムラは最近この美貌の友人(?)に悩まされていた。
立花春樹という、人を圧倒する程の美貌を持つが、危険な位に頭の弱い少年と知り合ってからというもの
タムラの心休まる放課後はなくなっていた。

何故なら春樹に恋する、これまた美貌の少年達が日々春樹を訪ねてくるからだ。
中井颯。水沢航貴。そして今ここにいる三枝鷹也の三人だった。

「貴方達のせいで、僕は部活動が出来ないんですが・・・」

そのタムラの発言に春樹は言う。

「部活してた事ないじゃん?!」
「貴方が邪魔しに来るからでしょう?!」
「えーー俺、邪魔してないよ?」

そう言う春樹にタムラは怒りを感じた。そして楽しげに傍観している鷹也に向かって言う。

「一回殺していいですか?」

すると鷹也は苦笑する。

「それは勘弁してくれるかな?春樹は俺にとっては大切な人だからね」
そう言うと鷹也は後ろから春樹を抱きしめた。

「うわーーー!バカ、鷹也何すんだよ?」
春樹はバタバタと暴れた。

「おとなしくしてくれよ?あんまり騒ぐとタムラ君も止めに入るべきか悩んじゃうよ」
「あ、僕止めませんから、どうぞご自由に」

そう言うとタムラは、お湯を沸かしてお茶の用意を始めた。

「タムラ!助けろよ!!」

これが日常だった。
タムラは口説かれて困る春樹を、助けてやるつもりはまったくないのだった。



「うーん。春樹は良い匂いがするね」
後ろから春樹の首筋に顔を埋めて鷹也が言う。

「バカ!変なコト言うなよ?!エロオヤジみたいだよ!!」
そう言う春樹を、鷹也は微笑んで見つめる。

「そんなかわいくないコト言ってると、キスしちゃうよ?」
「うわーーだからタムラが見てるって!!」

「あ、僕何も見てませんから。耳も塞いでるんでお好きにどうぞ?」

そう言いながらタムラは、醤油煎餅を出して食べ出した。
右手には湯飲みも持っている。

そんなタムラを春樹は恨めしげに見つめる。

「お、俺がゴーカンされたらタムラのせいなんだから!」
「別に痛くも痒くもありません」

そう言いながらタムラは視線を雑誌に固定して、春樹達の方を見向きもしなかった。

「ほら春樹、タムラ君もああ言ってるんだから、遠慮しないで甘い声出して良いからね」

そう言って鷹也はニッコリ笑うと、春樹の顔を自分へと向ける。
鷹也の整った顔を間近で見て、春樹は真っ赤になって動揺した。

「や・・・ヤダって、鷹也・・・・」
そう言う春樹の唇を鷹也は遠慮なくキスで塞いだ。
「ん・・・・・・・・」

春樹は羽交い絞めされたまま、逃げる事も出来なかった。
鷹也は春樹の口の中に舌を侵入させると、隅々まで蹂躙した。
そして押さえ込んでいた手を器用に動かしては、春樹の身体をまさぐった。
春樹はその感触にゾクリとした。
そしてそんな自分に羞恥で赤くなる。

鷹也の服を着たままで行う愛撫のような手の動きに、春樹は泣きたくなった。
口付けながら半分目を開き哀願する。
「も・・・やめて・・・・・・・・」

そう言う春樹の言葉を無視して、鷹也は更に春樹に深く口づける。
「んあ・・・・・・・・」

初めはふざけていた鷹也だったが、あんまりにも春樹がかわいくて、ついつい本気になってしまっていた。
腕の中にいる春樹が愛しくて可愛くてたまらなかった。



深い口付けに、春樹は足に力が入らなくなっていった。

そんな春樹を鷹也は理科室の机に押し倒した。
「え?」
春樹が考える間もなく、その上に鷹也が覆いかぶさる。
流石にここまでされると春樹は思っていなかった。
どうしよう?!
そう思いタムラを見たが、タムラはぜんぜん自分達を見てはいなかった。

タムラは窓から外を眺めていた。

「ああ、秋だなーー。空が高くなった。素晴らしい気候だ。なんて言うか創作意欲が湧くな。
俳句でも一句捻るか?」
言いながらタムラは煎餅をかじっている。

「タ・・・タムラ・・・助け・・ん」
タムラは窓の外にだけ集中していた。

「ん・・・・や・・・・・・・」
タムラは煎餅をバリバリと音を立てて食べた。

「あ・・・ん・・・・・・」
タムラはズーズーと番茶をすする。

「・・・いや・・・・あ・・・・・」
「『コスモスが 風にふかれて コンニチハ』うーんイマイチかな?『木々の葉が 赤らむような 喘ぎ声』
これじゃ風流じゃないか?」

タムラが必死に俳句を考えていると、後ろから声をかけられた。
「・・・・・タムラ君・・・・・」

呼ばれて振り向くと鷹也が自分のすぐ後ろに立っていた。

「あれ、最後までやっちゃわないんですか?やっぱり人前じゃ嫌ですか?」
そう聞くタムラに鷹也は苦笑する。

「別に人前は構わないんだけどね。俺はロマンチストだから君のそのセンスのない俳句や
煎餅をかじる音がBGMって言うのが、納得出来なかっただけ。なんかさりげなく邪魔されちゃったかな?」
そう言うと鷹也は首をすくめる。

タムラはその言葉を聞き流す。
そして春樹はと思って見ると、ゆっくりと机から起き上がっている所だった。
だいぶ乱れていたが、一応まだ服は着ていた。

よろりと床に立つと、春樹は泣きそうな顔でタムラを睨んだ。
潤んだ瞳、赤く染まった頬の春樹は、壮絶に美しかったが、タムラはクールにただ見つめただけだった。
そんな無反応なタムラに、春樹は堪えきれずに叫びだした。

「うわーん!タムラのバカーーー!!何で助けてくれないんだよー?!」

タムラはしれっとした顔で言う。
「なんで助けないといけないんですか?」

その言葉に春樹は詰まった。
そして乱れた格好のまま、机にあった煎餅の袋を掴んで叫んだ。

「タムラのバカーーー!」
力の限り叫ぶと、春樹はドアに向かって走り出した。
そんな春樹を見てタムラは言う。

「ちょっと立花さん!どさくさまぎれに僕の煎餅盗まないで下さい!!!!」

けれど春樹は、その煎餅の袋を持ったまま廊下を走り去っていった。
そんな春樹をタムラは呆然と見送る。

「なんて手グセの悪い・・・・・・」

そう言うタムラをクスクスと鷹也は笑った。

「・・・・・笑い事じゃないですよ。僕の煎餅だったのに。三枝さん、もうちょっと
あの人を教育してやって下さいよ」

「ははは、無理だよ。それに春樹はああいう性格が良いんだよ」

そのセリフにタムラはため息をつく。

「でも、良いんですか?」
「何が?」
微笑んで聞く鷹也に、タムラは真剣な顔で言う。

「あの人に、貴方の気持ち伝わってないんじゃないですか?」
「俺の気持ち?」
鷹也は微笑んだまま聞き返した。そんな鷹也にタムラは淡々と言う。

「三枝さんは真剣に立花さんに惚れてるじゃないですか?でも今みたいに
からかい半分だと、あのニブイ人には本気だって伝わりませんよ?」

鷹也は長い前髪をかき上げながら微笑んだ。
「別に今は良いんだよ・・・・・」

その言葉をタムラは意外に思った。

「今、春樹は誰にも恋してないしね。別に焦ってはいないんだよ。
それに俺の本気を押しつけたら、春樹がかわいそうだからね」

その言葉にタムラは聞く。

「立花さんの負担にならないようにですか?随分とやさしいんですね?」

その言葉に一瞬鷹也は表情を変えた。けれどすぐにいつものような笑顔を見せた。

「やさしいのは君の方なんじゃない?なんだかんだでいつも春樹を助けてあげてるでしょう?」
その言葉にタムラは顔を歪める。

「好きで助けているワケじゃありません。僕はあの人に脅迫されているから、
仕方なく助けてあげてるんですよ!」

そんなタムラの言葉を、鷹也はクスクスと笑いながら聞いた。

「そう・・・。じゃあ君が本当に春樹に惚れない事を願ってるよ」

そう言うと鷹也はドアに向かって歩き出した。
タムラはそんな鷹也にむかって呟いた。

「惚れるワケないじゃないですか。そんな事・・・絶対に・・・・・・」




タムラはまだ知らなかった。
この三人の関係が、将来決定的に変わってしまう事を・・・・・・・・・・・・・・・・・。

涼しい風が窓から吹き込む中、タムラは思いだしたように呟いた。


「煎餅・・・今度弁償してもらおう・・・・・・」














注: 文字用の領域がありません!
2010.11.18 RIYO

この話は恋愛ゲームの1部連載中に同人誌用に書き下ろした物でした。
その後存在も忘れてたのですが、発見したのでアップします。
ちょっとだけ手直ししましたが、あの当時のままの原稿です。
懐かしいというか、今も彼らは変わらずというか。

今も恋愛ゲームを好きだと言って下さる方に、楽しんで頂けたら良いなと思います。


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