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恋の成就のために必要な物はなんだろう? そう考えた李花は、とにかく会って顔を見て慣れてもらうことだと結論した。 本来なんの接点もない李花と茨だが、同じ学校にいるんだ。狙えば会えるチャンスはいくらでもあるだろう。 そう考えて放課後の尾行をする事を決意した。 そして茨が真っ先に向かいそうな、生徒会室にいくために李花は今、廊下を歩いていた。 「ありゃ?」 廊下の先に見慣れた人物を発見した。それは安朋と皆川だった。 李花は軽い足取りでそこへ向かうと、二人に声をかける。 「皆川、珍しいな。ちゃんと学校に来てたんだな」 その言葉に皆川は茶色の髪をかきあげる。 「お前ら二人揃って似たような事言うなよ。だいたいこんな真面目な少年捕まえて、まだ学校にいたの?的な 発言は失礼を通り越してイジメじゃないか?」 「明らかにイジメする側の人間がそう言うなよ。俺はこれでも皆川がいつ退学にされても、応援するつもりで いたんだぞ」 「お前失礼だな。だいたいそれ俺の退学応援してるんじゃないか?」 「言葉を曲げて受け取ったら良くないぞ。素直に受け取らないと」 その言葉に皆川は溜息をつくと、安朋を見る。 「お前の恋人ちょっとウザイんだけど殴っておいて良いか?」 その発言に安朋は肩をすくめただけだったが、李花は激しく反論した。 「俺をこいつの恋人扱いすんなよ!俺には心に決めた人がいるんだからさ!」 「え、そうなの?なんだ、俺はテッキリお前らはデキてるんだと思ってたのに」 「思うな!」 言って李花は皆川の耳についた、携帯ストラップのように派手なピアスをひっぱった。 「イテテ、耳がちぎれるだろ!」 見かねた安朋が李花の手を引く。 「ほらほら、あんま引っ張ると皆川の首がもげちゃうぞ?」 「俺はどんな怪力だよ?!」 言いながら李花は手を離す。皆川は耳を押さえながら言う。 「まったく俺はお前らを構ってる時間はないんだよ。こんな事してる間に愛しいあの子に逃げられちゃうだろ」 「え?」 驚く李花を無視して皆川は歩き出した。 李花は隣にいる安朋に向かって言う。 「皆川、好きな子がいるんだ?」 「そうらしいよ」 「意外だなー」 呟く李花に安朋は言う。 「案外、あいつが好きなのも戸賀崎イバラだったり?」 「ええ?!」 李花は派手に反応して安朋の腕にしがみつく。 「何だよそれ!なんかあいつ言ってたのか?」 「騒ぐなよ。言ってみただけだよ。ただなんか生徒会がどーのこーの言ってたからさ」 「・・・・・・・・・・」 李花は考え込んだ。 皆川がイバラを好き? いかにも不良という感じで、規格から外れてフラフラと学園生活を送っている皆川。 そして真反対に位置するような優等生のイバラ。 どう考えても恋愛関係にはなりそうも思えない。 (でもまてよ、生徒会長として不良を更生させようと戸賀崎さんが頑張ってて、皆川と出会ったとか?) 目の前でグルグルと考え出した李花に安朋は溜息をつく。 「はー、なんか考えてるみたいだけど、本当、マジで皆川が戸賀崎イバラを好きっていうのはないと思うぞ。 っていうか、お前はなんでここにやってきたんだ?俺に用か?」 言われて李花は思い出した。 「あ、そうだよ!俺はこんなトコで安朋や皆川という庶民と遊んでる場合じゃないんだ!」 「お前マジで一回犯そうか・・・?」 呟く安朋を無視して李花は自慢げに言う。 「そうだよ聞いてくれよ。俺の名案を」 「何だよ?」 「うん、だからさ、これから戸賀崎先輩との仲を深めようと、接触を試みようと思うんだよ」 「接触?」 「うん。前になんかで読んだんだけどさ、心理学の実験で、たくさんの人の写真をランダムに見せて、どの人が 一番好印象だったかって聞くの。するとさ、一番顔を見た回数の多かった人を人間って選ぶらしいんだよ。 だから俺もこれからは毎日、放課後先輩を追いかけて、偶然を装っては顔を合わせて印象を 良くしようという作戦なワケだよ」 「簡単に言えばストーカーだな」 「その言い方はやめろ!しかも簡単に言う必要はない!」 叫ぶ李花に安朋は溜息をついた。 そして心の中で呟く。 (上手くいかない方に1万点) 李花は安朋と分かれてから、生徒会室のある廊下の前までやってきていた。 けれどいざその扉の見える場所まで来てしまうと、このあとどうしたら良いか分からなくなった。 (えっと、用もないのにずっとこんな場所にいたらヘンだよな?でもここにいなきゃ 先輩に会えないだろうし・・・ってか出てきてくれたりしないかな?) その時、李花の念が通じたのか、扉から茨が出てきた。 茨は李花に気付かず廊下を歩いていく。つい李花はその後を追いかけた。 (なんかこれじゃマジでストーカーかな?) 意味もなく後をつける自分に李花はちょっと自己嫌悪になる。 (こんなのバレたら戸賀崎さんに嫌われちゃうかも・・・) 李花は立ち止まると、廊下の壁に寄りかかった。すぐに茨の姿は見えなくなる。 「なんかカラ回ってるよな・・・」 作戦を考えた時は名案だと思ったが、いざ実行してみるとただのストーカーだし、 あまり実りのない行為だと気付いた。 (後をつけるんじゃなくて、話しかけなきゃ意味がないよ・・・) そうは思ったが、用もなく話しかけるというのはなかなか勇気のいる事だった。 李花が壁に寄りかかったまま考えていると、廊下の奥から近づいてくる人間がいた。 「あ・・・」 お互いの目があった。 それは昨日、李花にぶつかって走りすぎた少年だった。 クラスは違ったが、李花はその少年を知っていた。そのまま通りすぎるかと思った少年は 李花の前で立ち止まると、顔を寄せた。 「お前、この間すげーウザイ事言ってたよな?」 「え・・・」 まさかあんな注意位で絡まれるとは思わなかった。嫌な気配に李花は緊張する。 少年は怯える李花に余裕の笑みを浮かべると、李花のシャツの胸元を掴んだ。 「弱いくせに良い子ぶってんじゃねーよ!」 少年は李花の体をダンと壁に押しつけた。痛みに李花の息が止まる。 「っつ・・・」 顔を歪める李花に、少年は酷薄な笑みを浮かべる。 「二度と生意気な口利けないようにしてやるよ」 少年が拳を握って李花の前にかざす。 李花はこのまま殴られる事を覚悟して、目を閉じてギュっとお腹に力を入れた。 「何やってるんだ」 クールな声だった。李花が目を開けてみると、廊下のすぐ先に茨が立っていた。 「これ以上何かするようなら、俺が生活指導の先生に報告するけど?」 流石の不良少年も茨には敵わないようだった。目を伏せると逃げるようにその場を立ち去った。 李花は呆然と茨を見つめた。 恐ろしい位整った顔で茨が李花を見ている。 「大丈夫だった?」 やさしく問いかけられた瞬間、李花の足から力がぬけた。 李花はガクンと床にしゃがみこんだ。それを見て茨は慌てて駆け寄る。 「リカ?平気?」 名前を呼ばれて李花は茨を見上げる。 「う、安心したら力が抜けました」 そう言う李花に茨はやさしく微笑んだ。 二人は場所を移動して、ホールにあるベンチまで来ていた。 気を利かせて茨が買ったジュースを片手に、李花は緊張していた。 (ぐ、偶然だけど戸賀崎さんといっしょにいられるなんて、これってすごいラッキーだったかも) ベンチで俯いて顔を赤くしている李花に、茨は足を組んだ姿勢で顔を覗き込むようにして言う。 「正義感が強いのは良いけど、さっきみたいに逆恨みとかされちゃうからね、気をつけないとダメだよ」 「すいません」 すぐに謝る李花に、茨は苦笑する。 「いや、謝る必要はないんだよ。君は悪くないんだから。ただああいう目にも遭うから 極力用心もしないといけない。一人にならないとかね」 「は、はい・・・」 頷く李花に茨は美しく微笑んだ。 「君は本当に素直な良い子だね。まあ、一人に絶対なるななんて言うのは無理な事だからね、 なるべく俺も君を気にかけておくようにするよ」 「え?」 驚いて顔を上げる李花に、茨はやさしい笑みを浮かべる。 「君の事はなるべく俺が守ってあげるよ」 その言葉に李花の心が舞い上がる。 (俺の事守るって、それってそれって、俺の事特別に気に入ってくれてるのかな?そういう事?) 李花の心臓がドキドキと激しくなった。 そしてふと気付いた。 「あ、あの名前・・・」 「え?」 聞きかえす茨に、李花は緊張しつつ訪ねる。 「俺の下の名前ちゃんと覚えててくれたんですね」 「ああ」 茨は髪をかきあげながら言う。 「男子でリカって名前が変わってるから気になって、学生名簿で調べたんだ。スモモの花って書くんだね。 なんだかちょっと運命を感じたよ。俺の名前がイバラだからね。同じ薔薇科の仲間だね」 その言葉に鳴り響く教会の鐘の音が聞こえた気がした。 これは真剣に、茨との交際も夢ではないのではないか?! 李花は真っ赤になって茨の顔を見つめた。 茨は何度見ても、溜息がでそうな位優雅な顔をしていた。 李花は熱くなった顔を冷まそうと、ペットボトルを顔の高さまで持ち上げた。 けれどそれにはフタがハマっていなかった。 「え?」 ビシャ! 李花は頭から紅茶をかぶった。 「うわ!」 「大丈夫?」 「す、すみません、俺なんか片手でフタを握ってたの忘れて、えっと、その戸賀崎さん濡れてませんか?」 「俺は大丈夫」 言いながら茨はハンカチを取り出した。 そしてそれで李花の顔を拭きながら言う。 「俺の事はイバラでいいよ。トガサキサンなんて言いにくいだろう?」 その言葉と、至近距離の茨の顔に、李花はドキドキとしていた。 それにそう、やさしく自分の顔を拭く茨の手。つい体が熱くなった。 (ヤバイ、このまま目を閉じたい気分・・・) 目を閉じたら茨がキスしてくれる。そんな奇跡みたいな事は起こるだろうか? いや、流石にそれは無理だろう・・・でも万が一とか・・・ そう考えながら、あまりの心地よさに李花は目を閉じた。 目を閉じると、茨の手の感触をさっきよりも近く感じた。 茨との顔の距離も近くなったように感じる。 ドキドキと激しくなるばかりの胸の鼓動。 そして・・・。 茨は顔を拭き終わると、そっと身を引いた。 「あとでちゃんと顔を洗った方がいいよ。ベタベタするかもしれないからね」 その言葉に李花は黙って頷いた。 なんだか少し自分が恥ずかしかった。キスして欲しいなんて図々しい事を考えてしまった。 リカと名前で呼んでもらえるだけでも十分に幸せな事だと言うのに・・・。 茨と分かれたあとで、李花は安朋のいる歴史研究部の部室に顔を出した。 この部活は、社会課準備室という狭い部屋で活動していた為、部外者の李花も遊びに行きやすかった。 慣れ親しんだ部室のドアを開けると、そこには安朋だけがいた。 「あ、今日は安朋だけなんだ?」 「ん・・・ああ、うん・・・」 勝手に入ってくる李花を気にした風もなく、安朋は机で大判の写真集を眺めている。 「何見てるの?」 「ああ、Y市の明治時代の写真。ちょっと今度はこの町の歴史をまとめようと思ってさ」 李花は勝手に隣の椅子に座りながら言う。 「またすっごくつまらなそうな部活内容だよな」 「いや、何を言うんだ?!こんな面白い部活動はないんだぞ!それに今回はこの町の歴史を紐解くんだ。 一体いつからこの町には暴走族が生まれ、どんな経緯で拡大し、全国的に有名になったか、 それをこうやって歴史資料を見て解明していくんだ!」 力説する安朋に李花はクールに言う。 「たぶん全国的に広がったのはマンガのせいだよ。特攻の○とか湘○爆走族とかさ。 あ、湘南はY市じゃないか。でも未だに地方の人はこのヘンを不良の巣窟だと思ってるよ」 「わかってないな、リカ君。だからこうやって俺が歴史的にまとめてあげようと言うんじゃないか。 だいたいこの学校に皆川のような生徒がいるのも歴史的な原因、いや因縁の結果なんだよ」 「もう、どうでもいいよ。それよりさ!」 李花は身を乗り出して安朋の顔を覗き込む。 「聞いてくれ!イバラさんと俺の話を!」 「はあ?」 李花は先ほどの出来事を安朋に説明した。 さすがにキスをしてもらいたくて目を閉じたとは言えなかったが、顔を拭いてもらった事までは話した。 「すごいだろ!イバラさんに顔を拭いてもらったんだぞ、もう俺顔洗えないかもしれない」 「・・・でもちゃんと洗えって言われたんだろう?」 眉を顰めて、冷ややかに安朋は言った。 「言われたけど、もったいないじゃんか」 「でもベトベトするんだろう?」 「そりゃちょっとはするけど・・・」 言いよどむ李花に、安朋は顔を近づけた。その距離の近さに李花はちょっと緊張する。 「何?」 「え、いや、紅茶臭いのかと思って」 「う・・・臭いかな?」 その問いかけに安朋は更に顔を近づけた。そして李花の頬の辺りの臭いをかぐ。 「うーん、よくわかんないな・・・」 安朋は李花の肩に手を置いた。そして。 「こうすりゃいいか・・・」 呟くと李花の頬を舐め上げた。 「ひゃ」 暴れて逃げようとしたが、安朋が肩を掴んでいて逃げられない。 「ちょ、ヤストモ、何してんだよ?!」 「にゃにって・・・味がするか・・・ちゅ・・・舐めてんだよ」 「わー!舌つけたまましゃべるな!!」 李花は真っ赤になって、椅子からこげ落ちながら安朋から逃れた。 そして舐められた頬を押さえて涙目で叫ぶ。 「バカ!何すんだよ!!」 安朋はその言葉に、悠然と椅子に寄りかかって答えた。 「ほら、これで顔洗いたくなっただろう?」 せっかくのイバラとの素敵な思い出を汚されてしまったと、李花は恨めしく思ったのだった。 |
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