僕は何度生まれ変わっても、必ず君を見つけ出すよ。
何度でも君を探し、君だけを愛すよ。
本当だよ。





僕は軽い夕飯を作ると、台所のテーブルの上に並べた。
「食事も出来るんだよね?」
「ああ」
ツムギは僕の向かいの椅子でニコリと微笑む。
一体どういう構造になっているのか気になった。彼は人形だというのにSEXも食事も出来るなんて。
「不思議そうだね」
「だって・・・」
フォークを掴む僕にツムギは言う。
「もともと君と生活するために作られた人形だからね。その為に必要な機能が備わっているのさ」
「え?」
僕のための人形?ツムギが?

不思議そうに見つめたら、ツムギもフォークを持ちながら答えた。
「その話は食事の後ででもしようか」


夕食後、ツムギは食器洗いまで手伝ってくれた。
「器用だね」
「ああ、人と違って失敗なんかしないのが人形さ」
言った側から、ツムギは食器を落として割った。
「失敗してるよ?!」
「はは、これは失敗とは言わないよ、コミュニケーションだよ」
そう言い訳するツムギに僕は微笑んだ。
静かでつまんなかった生活が、ツムギがいる事で楽しくなりそうだと感じていた。



片づけを終えた僕は、部屋で待つツムギに声をかけた。

「ねえ、僕はこれからお風呂に入るんだけど、ツムギはどうするの?入れるの?」
僕が聞くと、ツムギはスクリーンから顔を向けた。
スクリーンにはニュース画像が出ていた。どうやらツムギは社会勉強をしていたらしい。
今の時代はスクリーン一つで、ニュースも見れるし、映像も見れるし、
すべての公的ネットワークに繋がる事ができる。
「僕も入るよ」
お風呂まで入れるなんて、本当にたいした人形だと思った。


風呂場で僕達はお互いを洗いあっていたが、やがてツムギの手がおかしな風に動き出した。
「ちょ、ツムギお風呂中」
「ああ、でも、どこででも君に触れていたいからね」
「や、ダメだって、あ・・・」
後ろから抱きつかれ、乳首と股間のものをいきなり捕まれた。
「ちょっと・・・ツムギやらしすぎる・・・」
「仕方ないだろ。僕はイチヤ似だからさ」
(イチヤ?イチヤって何?)
そう疑問に思ったが、ツムギの手が気持ちよくて、僕はそれ以上考えられなくなった。
背中ごしにキスをし、肩を甘噛みされた。
そのまま僕はツムギに体を任せた。
甘いお風呂タイムだった。


僕はのぼせながら風呂から出たが、ツムギは涼しい顔をしていた。
風呂まで入れる人形。
そう思うと、僕はそろそろツムギの存在が、人形ではないのではと、疑っても良い様な気がしていた。

「僕は間違いなく人形だよ」
僕の疑問を否定するツムギ。

「まあ、確かに僕はその他の人形とは出来が違うけどね。でもそれは仕方ないというか、当然の事なんだよ。
僕を作った人形師は天才だったのさ。もう何百年も前に死んでしまったけどね、現在ですら作りえない
人形を作ったんだ。まさに魂をこめた人形、それが僕さ。だから僕は他の人形とはまったく違うんだよ」

ツムギの話は抽象的すぎてよく分からなかった。
僕が困ったような顔をしたせいか、ツムギは僕の肩をやさしく抱きこんで、自分によりかけさせた。

「食事のあとに説明するって言ったよね。じゃあ君と僕の事を説明してあげるね」

僕達はベッドの端に並んで腰掛けていた。
手を伸ばせばすぐに触れる距離で、ツムギは言う。

「人形師は君のために、僕を作ったのさ。君があまりにもかわいそうで、君を守ってくれる、君を一生愛してくれる
そんな人形を作った。だから君と生活するのに必要なすべてが、僕には備わっているのさ」

「何で、その人形師は、僕のためにツムギを作ったの?」
僕のもっともと思える疑問に、ツムギは眉を顰めた。
けれどツムギは一瞬で笑顔に戻る。

「それはそのうち話すよ」
言うとツムギは僕の頬に唇をつけた。
「ツムギ?」
「ただ分かって欲しいんだ。僕はずっと昔から君のものだった。君だけをずっと愛してきた。
何度も何度も君の生まれ変わりを待って、君を愛してきたんだ」
「生まれ変わり?」
ツムギは頷く。

「そうだよ。僕は永遠の体を持っている。だからいつだって君の方が死んでしまう。
でも僕も君がハート仕掛けの螺旋を動かしてくれないと、話すことも出来なくなるんだよ。
僕は他の人の愛なんか欲しくないからね、だからずっと永遠に君が生まれ変わるのを待っているのさ」
「ツムギ・・・」

生まれ変わり。そう言われてもピンとこなかった。
これが本当の話とも、すぐには信じられない。
けれど。
目の前にいるツムギを僕は愛しいと思っていた。
この感情だけは本物だと思った。

考え込む僕に、ツムギは唇を寄せてきた。
そしてその唇が、頬から顎へと進んでいく。僕はツムギの腕から逃れようとしたが無駄だった。
ツムギは僕を抱きしめて、そのままベッドへ押し倒した。

「ツムギ、またするの?」
「うん、したいんだ」
言うとツムギは僕のパジャマを脱がしにかかる。
「ちょっと多くない?これで何回目だと思って・・・」
唇をキスで塞がれた。

苦しくなるほどのキスの後で、唾液の糸を拭いながら僕は呟く。
「ツムギやらしすぎるよ・・・」
ツムギは僕の唇を指でなぞりながら言う。
「仕方ないよ。僕はそういう風に出来ている。君が拒んだら僕は動かなくなってしまう。それに・・・」
「それに?」
「僕はイチヤの理想の投影だからね、やらしいのは仕方ないさ」
「え?」
またイチヤだと思った。
イチヤ、それは人だろうか?

結局、僕はそのままツナギに抱かれた。
ツムギは繰り返し、僕に愛の言葉を囁いた。
ずっと待ってた。ずっと変わらず愛していた。今も大好きだ。羽音を愛してる。
そんな言葉に僕の胸は少し痛む。
生まれかわりを信じるなら、それはなんて切ない話だろう。
けれどなんて深い愛だろう。
例え彼が人形でも僕は構わない。

僕もツムギを愛してる・・・・・・・・・。





僕とツムギの生活がこうして始まった。
両親はツムギの存在を気にした風もなかった。淡々と受け入れて、以前と変わらぬ日々を送っている。
新シティにも人形はたくさんいるので、ツムギを珍しがる様子もなかった。


その日、僕が学校から帰るとツムギの姿が見当たらなかった。
「ツムギ?」
僕が帰ると、いつも玄関で待っていてキスをしてくれるツムギ。けれど今日はその姿がない。
廊下を歩き自分の部屋に行き、他の部屋も探したが見つからない。
僕はドキリとした。

ツムギはどこかに行ってしまった?それとも連れ戻された?そう思ったからだ。
僕はすっかり忘れていたが、ツムギは本来僕の物ではない。
博物館の所有物だ。
ツムギがここに居るとバレたら、連れ戻されてしまうかもしれない。
考えてみれば、監視カメラとか、あの博物館にはなかったのだろうか?
あれば僕がツムギを連れだした事がすぐに分かってしまう。

僕の胸の鼓動が早くなった。
もしかしたらツムギは連れ戻されてしまって、もう二度と会えないのではないか?
その時、玄関の開く音がした。

「ツムギ?」
僕は走って玄関へ向かった。そこには呆けた顔のツムギが居た。
「ツムギ!」
勢いよく抱きつく僕を、ツムギは抱きとめる。
「羽音、どうしたの?」
僕はツムギの胸に顔を埋めて言う。
「君が連れて行かれてしまったのかと思って・・・・」
「ああ・・・」

ツムギは僕の顔を覗きこんで言った。
「大丈夫だよ。僕はどこにも行かないし、誰も僕を連れ戻したりしないよ」
「本当に・・・?」
「うん」
僕はその言葉に安堵する。するとそんな僕の顎を指で弄びながら、ツムギが言う。

「本当に羽音はかわいいね」
ツムギはそのまま僕にキスをし、そしてそのままベッドまで運ばれてしまった。
僕はもうツムギと求め合う事に、何の疑問も抵抗もなかった。





行為の後、僕はベッドの上でツムギの髪をいじっていた。

「今日は一体どこに行ってたの?」
その問いにツムギはうつ伏せの姿勢で答える。
「ああ、メンテナンスだよ」
「メンテナンス?」
「・・・・・・・人形師にね、会ってたんだよ」
「あ・・・」
そうか、人形師。
人形は人形師の定期的なメンテナンスが必要になる。

「僕は君を攫ってきたのに、メンテナンスなんてしてもらえるの?」

その問いにツムギは目を細める。
「昔馴染みの人形師が居るんだよ・・・・」
「昔馴染み?」
「・・・・羽音は気にしないでいいよ。人形師が必要なのは人形だけさ。君じゃない」

そのツムギの言葉は、やけに僕の胸に突き刺さった。
僕に人形師は必要じゃない。確かにそうだ。人である僕には人形師なんて必要ない。
でもなんだか、とてもその人形師が気になった・・・・・・・・。




毎日、ずっと離れずに僕はツムギと過ごしたかったが、学校には行かないといけない。
最近の僕は、学校帰りに寄り道もしないで、真っ直ぐ家に帰っていた。
けれどこの日、天気は急な雨模様だった。
厚く黒い雲が空を覆い、雨が降り続いている。

僕は傘がないので、雨をさけるように目抜き通りのアーケードを歩いた。
ここは屋根があるので雨に濡れない。

ふと雑踏の中で、フライヤーを配る人物が目に入った。
道行く人に、踊るように紙を渡す青年。

あの日、僕はこの目抜き通りで招待券をもらい博物館へ行った。
そしてツムギと出会った。
「・・・・・・・・・・・・」

僕はあれ以来博物館には行ってない。
いつツムギを連れ出した事を怒られるのかと怯え、二度とあそこには行きたくないと思っていた。
けれど、僕は考えを変えた。
少し様子を見に行こう。
人形が居なくなった事が問題になっていないか、確認したかった。

ここ暫くニュースを気にして見ていたが、人形盗難の事はニュースになっていなかった。
あんな潰れかけた博物館の一展示品なんか、ニュースにもならないのかと思っていたが、
案外、盗まれた事にすら気付いていないのではないかと思った。

僕はそのまま雨をよけるように、店先のひさしの下を選びながら、博物館へと向かった。

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