王子様専用 2

王子様のお世話というのは戦いだった。

毎朝王子を起こす所から俺の戦いは始まる。
最初は楽隊のみなさんに協力を頂いたが、王子はそのあと耳栓をして寝るなんていう姑息な手に出て
俺は新たな手を考えなければいけなくなった。
そして。

ガッチャン!

「な、何者だ!」
ベッドから飛び起きてきた王子に、俺は笑顔で挨拶をした。
「あ、おはよーございます、王子」
「ノア?!」
驚いている王子をよそ目に、俺は持参していたほうきで、割ってしまった窓ガラスを集める。
「何でお前が窓から侵入してんだよ?!」
「すみません。だって王子ぜんぜん起きてくれないから……」

「だからって窓からガラス割って、王子の部屋に侵入する使用人がどこにいんだよ?!」
「あ、もしかして俺が初ですか? うわー貴重ですね」
その言葉に王子はいつものように青筋を浮かべたが、俺は気にしない事にする。

「だいたい、何でほうき持参してんだよ?」
「え、だってガラス割れてるし、集めないと」
「……だったら最初から割るなよ」
「だったら王子ちゃんと起きて下さいよ」

俺がそう言うと、王子は天蓋つきのベッドで天を仰いで、額を手で覆っていた。

「こんなつもりでお前を採用したんじゃなかったのにな……」
呟く王子を俺は見つめる。
王子はベッドから降りながら溜息まじりに言う。
「もっと手を抜いて適当に俺を泳がせてくれると思ったのにさ」

「だって、お給料もらってますから、手抜きなんか出来ないですよ」
俺がそう言うと王子は一瞬動きを止めた。
そしてマジマジと俺を見る。

「な、何ですか?」
黙ってれば綺麗な顔で見つめられて、俺はちょっと動揺して聞いた。
すると王子は淡々と言う。
「着替えるから席ハズしてろよ」
「え? 着替えですか? 俺お手伝いしますよ? それも仕事に入ってたと思いますが?」
そう言う俺を王子は冷たく睨む。
「俺は自分の事は自分でしたいんだよ。着替えまで使用人に手伝わせるなんて俺の趣味じゃないんだよ」
「そ、そうですか……」
俺がそう言うと王子はニヤリと笑った。
「ああ、お前が着替えるなら逆に俺が手伝ってやってもいいよ」
「え?」
驚く俺に王子は近寄ってくる。
「こんな使用人服じゃなくてさ、ひらひらフリフリのメイド服を用意してやるからさ」
「え、わ、ちょ、王子どこ触ってるんですか? ってシャツのボタン外さないで下さい!」

王子に襲われ? 服を半分脱がされながら俺は叫ぶ。
「わー、ちょ、ヘンなとこ触っちゃってますよ!!」
俺が半泣きで言うと、王子は楽しそうに笑い出した。

「あはは……! やっぱりお前を雇って正解だな。こんな面白いヤツなかなかいないよ!」

俺は高笑いする王子を、はだけたシャツを押さえながら涙目で睨んだ。
「こ、こんなセクハラで横暴な王子の世話係なんか嫌だよ。失敗だったよー」

王子が笑みを浮かべたまま言う。
「ん、なんか言ったか? 無職になったら家もなくなってしまうノア君」
「な……何も言ってません……」

なんて意地悪な王子だろうと、俺は心底思った。




俺が王宮の廊下を歩いているとルミナさんと出くわした。

「あら久しぶりノア。王子様とはその後うまくやってる?」
その問いに俺は溜息まじりに答える。
「まーぼちぼちです」
そう言うとルミナさんは笑った。
「あら、すごいじゃない」
「え、何が?」
俺が意外な思いで聞くと、ルミナさんは指を立てて笑顔で言う。
「だってあの我侭王子のお世話がボチボチだなんてすごいのよ。たいていの人はすぐに根をあげちゃうんだから」
「はー」
「あなた意外と王子と気が合うのかしらね?」
「ええ?!」
俺はのけぞって驚いてみた。
すると金色の髪を揺らしながら、ルミナさんは無責任に言う。
「頑張って王子を矯正してあげてね。あなたなら出来るわ」
ルミナさんはそのまま廊下を歩き去った。
俺は暫しそれを見送ってから考える。
「応援されちゃったのかな……」



今日は王子の所に、ご友人のおぼっちゃま達が遊びに来ていた。
俺は前もって言われてた通りに、3時のお茶を用意していた。
するとそこに他の使用人が現れた。

「あ、ノア。王子からの伝言だけど、今日のお客様が6人に増えたって」
「なぬ?!」
俺は五つの皿に載ったケーキを見つめた。
(王子の野郎、今日は四人だって言ったじゃないか?! なんで人数増えてんだよ、ケーキ足りないじゃないか?!)
そこまで考えて俺は気づく。
これはワザトか?! あの意地悪王子のことだ、今頃あわてふためいている俺を想像して笑っているに違いない!
「くそー」
俺は負けてたまるかと思った。



王子と友人達はサンルームにいた。
「ああ、お茶か。ありがとう、ノア」
王子の野郎は美しく優雅に微笑みやがった。
俺を困らす事が出きたと、内心ほくそえんでいるんだろう。でも俺は負けないからな!

「今、庭を見てまわっていて丁度喉が渇いてたんだ。気がきくしかわいい使用人だね」
王子の友人の一人がそう言った。
いかにも貴族のボンボンっぽい、なよなよした感じの白に近い金髪の少年だった。
俺はワゴンを押して進み、テーブルにお茶とケーキをのせる。
するとワイルドな感じの青年が、問題のケーキを見て呟く。
「わ、ケーキ小さいな……」
俺はその言葉にニコリと笑って答える。

「これは王宮御用達の洋菓子店ルアールのケーキです。しかも王子向けの特注の商品なんですよ。
フルーツも手に入りにくい高級品ですし、金粉で飾りつけられているんですよ」
すると友人達が声をあげる。
「おお! これが有名なルアールのケーキか!」
「このサイコロサイズの小ささが気品を漂わせているね」
「ああ、さすが宝石のような上品さだ」

俺はそれらの言葉を聞きながら内心で笑っていた。
そんな俺を、王子だけが不機嫌そうに腕を組んで見つめている。




友人達が帰ったあとで、俺がサンルームの食器を片付けていると王子がやってきた。
「おいおいおいおい」
「おいが多いですね」
そんな俺の返事に王子はサンルームの籐椅子に腰掛けて、頬杖をつきながら言う。

「ルアールのケーキがあんなに小さいワケはないだろう?」
俺は笑顔で答える。
「だって王子が人数間違って言うから、足りなかったんですよ。だから切って出したんですよ。
でもバレなかったでしょ? 小さい方がそれっぽくて、なんか高級な気がしちゃうんですよ」
その言葉に王子は目を細める。
「お前……なかなかやるな」
俺は手を動かして食器を片付けながら王子を見る。
(これって褒められたのかな?)

「それにしてもあのケーキ、人数分以上に小さくなかったか?」
「あ、気付きましたか? おいしかったです」
「……」

王子は黙り込んだ。
「お前、本当になかなかやるな。まさかそうくるとはな……」
「えっと褒めて頂いているのでしょうか?」
「ああ、まあな。なんか益々いじめがいがありそうだよ」
「……」
なんか戦線布告された気がしていた。




王子は気まぐれに俺を呼び出す。
そんなワケで俺は今晩も何故か王子に呼び出されて、王子の部屋にきていた。

「お呼びでしょうか、王子」
「ああ、入れ」
俺は王子の部屋に入った。

「あの、王子、御用は?」
「ああ、風呂に入るから背中を流せ」
「は?」
「だから背中を流せ」
「……」
「聞こえなかったのか?」
「セクハラですか?」
王子は俺を睨んだ。
俺は渋々返事をする。
「はい、判りました」

王子の本来の性格は、自分の事は意外と自分でする派で、本来は使用人に着替えを手伝わせたり
風呂で背中を流させたりはしない。
じゃあ何で今俺がそれをやってるかって?
そりゃもちろん王子のイジメの一つに決まってる!

でも俺はこんなセクハラなんかには負けない。
王子の背中位いくらだって流してやる!
俺はそう思って大理石の風呂で王子の背中を流す。
(どうだ、王子め、この俺様の根性には参ったか?)
そう思っていると、裸の王子がサラリと言った。

「前は?」
「え?」
流石に固まった。

「え?」
「だから前も洗えよ」
濡れた髪で艶っぽく王子が言った。前って、前ってあそこ?
俺は動きを止めた。いや、いっそ世界の方が止まってくれと祈りたい。

「この俺様のダイナマイトマグナムを洗えって言ってんだよ」
「えっと……ダイナマイトなんとかって、このごくごく普通サイズのこちらの事でしょうか?」
王子はピクっと引きつった顔をした。
「そうか、そうか、お前はこれを口でご奉仕したいって言うんだな。仕方ないそこまで言うならさせてやろう」
言いながら王子は俺の髪を掴んで股間に近づける。
「わー! 言ってないじゃないですか! 一言も!! っていうかやめて下さいよー!!」
俺が泣くように叫ぶと、王子は手を離した。

「ばーか、冗談に決まってんだろ」
俺は出しっぱなしだったシャワーで濡れてしまった顔を拭いながら言う。
「冗談じゃなかったら訴えてますよ!」
その言葉に王子はカラカラと笑った。

「あはは、本当にお前は面白いな!」
王子は俺へのイヤガラセに成功して、どうやらご機嫌のようだった。



王子様専用召使。
それはどうやら王子のイジメと我侭を一身に受ける、不幸な職業の事なのだと
俺はしみじみと理解していた。

そして、俺と王子の攻防はまだまだ続くのだった。


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