「また来たんですか・・・?」
僕が呆れながら言うと、彼は美しい緑の目で微笑んだ。
「ええ、貴方の事がどうしても忘れられないと王様がおっしゃっているんですよ。
どうでしょうか?一回王様にお会いして頂けませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
僕はその言葉に考えこんでいた。その情熱に。
毎日会いにくる。それはまるで・・・・・・



僕は王様と会う決心をした。
何も心配はいらないとナガラさんは言ってくれた。

僕は数日後、王様に会いに出かけた。


そこはとても綺麗なホテルだった。
実は王様と懇意にしている人の経営だという事だった。
僕はそのホテルのスイートルームに案内された。

僕はドキドキとしながら部屋の中に入った。
すると広い部屋の奥に王様が座っていた。

「あ・・・・・・・」

僕は言葉が出なかった。
王様はとても美しかった。それはとてもとても。
金色の髪に白い肌。青い目。それはまるで絵本の挿絵で見たような、美しい理想の王様だった。
僕の事を見ると王様はニコリと歯を見せて微笑んだ。
「やあ、ビオラ、来てくれてありがとう!待ってたんだよ!」
そう言うと王様は僕に近付いてきた。
「あ、は、はい、あの、お招き頂いてありがとうございます!なんて良いお日柄で!」
僕は動揺していた。なんだこの挨拶は?
そう思っていると王様がクスリと笑った。
「はは、緊張しないでいいよ。ああ、それにしても本当に君はかわいいね」
そう言うと王様は僕の髪の先をサラリと触る。
その指のしなやかでなんて美しい事か・・・・・・・・。

僕は憧れの王様の前ですっかり舞い上がってしまっていた。
王様は僕の腰に手をまわすと、僕をソファに促した。
僕は王様の美しい顔に見惚れて、おとなしくそこに座る。

「君は私の気持を信じてくれる?偶然見かけた君に一目ぼれしてしまったんだよ」
その言葉に僕はなんだかもじもじとした。
嬉しいような恥ずかしいような、困ったような・・・・。

僕は思い出してカバンに手を入れる。
「あ、あの、これ僕が作ったパンなんです。良かったら食べて下さい!」
僕は自分の作ったパンを取り出して王様に渡した。
「ああ、ありがとう。じゃあ後で食べようかな?」
王様はそう言ってそのパンをそのままテーブルに置いた。
僕はそれを横目で見て、少し淋しくなった。
そのまま食べてもらいたかった。そう思ったが僕は口にする事は出来なかった。

王様は僕が思っていた以上に美しい人だった。そして聡明な人だった。
僕は王様といろんな話をした。王様は僕のくだらない話も聞いてくれた。
僕はなんだか、彼を見ているだけで幸せな気分だった。

そして僕は王様にずっと聞きたかった事を質問をしようとした。
するとその時、王様がじっと僕を見つめている事に気がついた。
王様が僕の顎を持ち上げた。
「え・・・・・?」
考える間もなかった。

僕は王様にキスされていた。
「ん・・・・・」
僕は王様の身体を押し返そうとした。
けれど強い力で抱き込まれていて無駄だった。
王様の舌が僕の口の中に侵入してくる。
そしてそのまま僕は座っていた豪華なソファの上に押し倒された。
上から押さえこまれ、両足の間に王様の身体を入れられ僕は泣きそうだった。

「や・・・!」
僕は必死でもがいて王様の腕からのがれた。
そして無様にゴロゴロと床を転がりながら逃げる。

「お許しください、王様、僕、すみません、そんなつもりで来たんじゃないんです!」
その言葉に王様は髪をかきあげながら僕を見つめる。
「そんなつもりじゃなかったって・・・・じゃあ、なんでこの部屋にのこのこ会いに来たの?」

その言葉に僕は胸を押さえながら言った。
「あの、人を探していて・・・」
「人?」
王様はソファに座りながら聞く。
僕は床に正座をして言う。

「あの、魔法使いを探しているんです・・・・・」
「魔法使い・・・・?」
「はい、ユアンという名前なんです。僕は彼を探していて、彼の事で僕が知っているのは
彼の名前と王室の公式魔法使いだってことだけで、斡旋センターでは教えてもらえなくて
あとはもう王様に直接聞くしか、彼の行方を捜せないと思って・・・・・・」

僕は半分泣きそうになりながら必死でそう言った。
すると王様はソファで足を組んで、顎に指を添えながら言った。

「ふーん、ユアンを探してたのか・・・・・・・・」
「はい!あのユアンをご存知ですか?」
僕は王様の言葉に希望を抱いて言った。するとその言葉に王様は逆に僕に質問した。
「なんで君はその魔法使いを探してるの?お金でも貸していた?」
「ち、違います・・・」
「あ、もしかしてやり逃げされちゃった?」
王様の質問がおかしい・・・・・そう思いながら僕は言う。
「違います・・・・・・・」
王様はクスクスと笑った。
「じゃあ、好きなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉に僕は答えられなかった。

すると王様はソファに深く座り背中をもられさせた。
「あーあ、残念だよ。せっかく俺に惚れてるって聞いたから、簡単に落とせるって思ったのに」
その発言に僕は目をむく。これが王様?
僕の憧れた、あの王様?
僕がびっくりしていると王様は言った。

「ねえ、君はユアンの得意魔法を知っている?」
僕は首を振る。僕は彼の魔法などほとんど見た事がないんだ。

「彼は変身魔法が得意なんだよ。因みに変身魔法って言うのは魔法の中でもかなり
上級者が使う魔法だ。移動、浮遊、操縦、それらに匹敵するんだよ、変身ってヤツはね」
「はあ・・・・・・・・」
僕はよく判らなかった。

「そうだ、ナガレを呼んであげるよ!ナガレ!」
王様は急に叫んだ。するとナガレさんが扉の外から現れた。

「王様お呼びでしょうか?」
その言葉に王様はナガレさんを見て言った。
「ビオラちゃんは君に会いに来たんだってさ」

その言葉に僕は口を開けてしまった。
今、王様はなんて言った・・・・・・・・・?
僕はナガレさんをじっと見つめた。黒い髪に緑の目の・・・・・・・・・・。
ナガレさんは汗をかいているように見えた。そしてその次の瞬間。

「解除」

そう呟いた。
するとたった今までナガレさんが居た場所にユアンが居た。
「ユアン・・・・・・・・?」
僕は呟いた。するとユアンは頷いた。
「ええ?!どういう事?!」
叫ぶ僕に王様が言う。

「彼は王室魔法使いのユアンだよ。まあナガレでも間違いじゃない。彼は変身魔法が得意だからね。
いつも勝手気ままに姿を変えては遊んでいるんだよ。ああ、もう自分の本来の姿がどんなのか
忘れちゃってたりして?」
クスクスと王様は笑っている。
そんな王様をユアンは睨んでいる。

「どういう事なの?」
僕は聞いた。
「・・・・・・・お前が悪いんだよ」
「僕が?」
ユアンは不貞腐れたように言う。
「お前がこいつの事が好きだなんて言うからだろう。だから会わせてやったんじゃないか」
王様をこいつ呼ばわりしやがった!ってそんな感想はどうでもいい。
「僕の為にしたっていうの?」
ユアンは頷いた。
「お前は俺よりこいつの方が良かったんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は黙り込んだ。

「お前がこいつを好きだって言うから、俺は身を引いて恋のキューピッドになってやろうとしたんだよ!
感謝しろよ!」
その言葉に僕は立ち上がるとユアンに向かって歩いた。
足が痺れてちょっと辛かったが僕はユアンの前に立った。

「僕が好きなのはユアンだよ」

その言葉にユアンは息を止めた。そんなユアンに僕は言う。
「いつの間にかお前のことばかり考えていた。気になっていた。いつのまにか王様じゃなくて
ユアンのことを好きになってたんだ・・・・・・・・・・」

「はー、ロマンチックだねー」
その言葉に僕はソファにいた王様の存在を思い出した。
急に恥ずかしくなった。

「どうやら俺はお邪魔みたいだね。退散するよ。あ、ユアン、ここの部屋の支払いよろしくね」
そう言うと王様はヒラヒラと手を振って部屋から出ていった。


僕とユアンは暫く無言で見つめあった。
なんだか恥ずかしかった。そして・・・・・
僕は気がつくとユアンに抱きしめられていた。

「なんだよ、お前、俺の事好きだったのかよ?」
「うん・・・・・・そうみたい・・・・・・・」
「なんだよ、みたいって」
「ごめん、嘘だよ、好きだよ」
そう言って僕はユアンとキスをした。
そして僕はそのままさっきいたソファに押し倒された。

「ちょ、ちょっと待って!」
僕の鎖骨に口付けるユアンに僕は言った。
「なんだよ、今更嫌だって言ったってダメだからな」
「そ、そうじゃなくて、向こうにベッドルームがあるんじゃない?」
僕は出入り口とは違うドアを指差した。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ダメだ」
「え?」
ユアンは上から俺を見下ろしながら言う。
「移動してる間にお前の気が変わるかもしれないからな、ここでやっちまう」
「ええ?」
なんかがっついてない?
そう思ったが息を荒くして僕を見つめるユアンに僕の胸が熱くなった。

ユアンは僕のモノをやさしく撫でさする。
恥ずかしいけれど、でもなんて気持が良いんだろう?
「あ・・・はあ・・・・・」
僕の体の隅々までをユアンが舐めて触れてく。
僕はユアンに時間をかけて解されていった。

そうして僕達は一つになった・・・・・・・・・・・・・・・・。




翌朝、僕はユアンより先に起きると服を着た。
そして眠るユアンの顔を覗き込んでみた。
ユアンの整ったキレイな顔に僕はドキンとした。
長い睫が気になってその睫に向かって指を伸ばしたら、ユアンが目を開いた。
「わ!」
驚く僕にユアンは半身を起こしながら言う。
「おはよ。なんか俺にやらしーイタズラしようとしてた?」
「しないよ!!」
僕は顔を熱くしながら叫んだ。

ユアンは起き上がると服を着だした。そして意外な事を言い出した。
「なー、このパンってお前の焼いたパンだろう?」
言われて僕はテーブルを見た。
そこには昨日僕が王様にあげたパンがそのまんま置いてあった。
僕はそのパンに目を細めた。
せっかく作ったパン。でもそのパンを王様には食べてもらえなかった。
そう思うと僕は少し淋しくなった。
(一生懸命作ったパンなのに・・・・・・)
僕がそう思っていたらユアンはそのパンを手にとった。
そして僕に向き直ると笑顔で言った。

「なー、このパン俺が食べてもいい?」
「え?」
僕は驚いた。だってそのパンは時間がたって固くなっているはずだ。
「ダメだよ!だって、今食べてもマズイと思うよ」
僕がそう言ってもユアンは笑っていた。
「いーじゃん、俺、お腹が空いたんだよ」
「で、でも・・・・・・・」
僕が困ったように言うと、ユアンは明かりの差し込む窓をバックに眩しい笑顔で言った。

「俺、お前の作ったパン大好きだからさ。一個だってもったいないから無駄にしたくないよ」

その言葉に僕の胸がキュンと甘く詰まった。
「分かったよ・・・じゃあ、食べて」
僕がそう言うとユアンは美味しそうにそれを食べてくれた。
僕はなんだか恥ずかしいような嬉しいような気持ちだった。
パンが好きだって言われたのに、自分の事をすごく好きだと言われたみたいに感じてしまったんだ。

僕はパンを食べるユアンを、テレながら微笑んで見つめた。
きっと彼以上に僕のパンを美味しそうに食べてくれる人は居ないと思った。
そして僕は気がついた。
きっと最初にユアンに惹かれたのは、美味しそうに食べるこの顔だったんだなと。


僕達は会計をすませてホテルを出た。
そしてゆっくりと石畳の小道を二人で歩く。

「ねー、昨日変身魔法が得意だって言ってたけど、今のその姿は本当の姿なの?」
僕は疑問に思っている事を聞いた。
するとユアンは目を細めて微笑む。
「ああ、これは本来の俺の姿。だって好きな子に会うのに他の姿で会っても意味ないじゃん」
その言葉に僕の頬が熱くなった。
僕は顔を手で仰ぐようにして顔を冷やした。
するとそんな僕に顔を寄せて、耳元で意地悪気にユアンが言う。

「でも変身魔法があるからHがマンネリ化したら、変身して違う男に抱かれる気分なんてーのも
味あわせてあげられるよ?」
その言葉に僕はユアンにパンチを入れた。

「しないよ!バカ!!」

言いながら、いつかしちゃったらどうしようか?なんて僕はヘンな心配をしてしまっていた。


僕は王様ではなくて、このバカな魔法使いと恋に落ちてしまった。
でも、それで良かったと僕は思った。

僕が好きなのは王様とか、魔法使いとかそういう職業の人ではなくて、
ただ美味しそうにパンを食べてくれる、ユアンというただの人なのだから!







おわり
2006.7.8  RIYO
ちょっと前に書いて40万ヒット記念にアップしました。
珍しくフェンタジーです。(世間様のファンタジーとはかなり違いますが)
書く時には単純な内容で、こんなでいいかすっごく悩んだのですが
たまにはこんなおも有りかしらと開き直っています。
ちょっとでも楽しんで頂けたら嬉しい感じです。


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