| 王様と僕と魔法使い | |||||
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僕はこの王国でパン屋をしている。 この国は若い王様が治めたとても平和な国で、緑も豊かで美しい国だ。 僕は毎日馴染みの人と話し、幸せに暮らしている。 そしてこの平和な国を築かれている王様を尊敬しているんだ。 「尊敬ってさーーー、それってお前、惚れてるって言わない?」 その言葉に僕はカっと頬が熱くなった。 「ば、ば、ば、バカ言うなよ!」 その言葉に目の前の男が言う。 今は3時すぎで、僕のパン屋の店内には僕の他にはこの常連客のお客しかいなかった。 「動揺しまくりじゃん。お前、王様に惚れてんだろう?」 僕はその言葉に持っていたパンを床に落としてしまった。 「わ!バカ!お前がおかしなこと言うから商品落としちゃったじゃんか!」 カウンター越しに僕はその男、ユアンを睨んだ。 そして僕は落としたパンを拾うとゴミ入れに入れようとした。 「あ、ちょっと待って!」 「何?」 僕が聞くとユアンはニッコリと微笑んで言った。 「そのパン、捨てるなら俺にくれよ」 「え、でも床に落ちたんだよ」 「ああ、でもせっかく美味いパンなのにもったいないじゃん」 「・・・・・・・・・・・・」 僕は悩んでいた。落としたパンは衛生上お客様には売れない。いつもなら捨てている。 「いーじゃん。もったいないよ。俺、腹は丈夫だからさ。それにそれウインナーパンだろう? 俺好物なんだよ。特にお前の作るそれがさ」 その言葉に僕は折れた。 「了解。いいよ。あげるよ」 そう言うとユアンは嬉しそうに微笑んだ。 そして僕がそのパンをあげると彼はその場で噛り付いた。 そして本当に美味しそうに、微笑みながら食べてくれた。 その笑みに僕はちょっと嬉しくなった。 「さっきの話に戻るけどさ・・・・・・・」 僕はギクンとした。ドキドキと心臓が鳴り出す。 「お前王様の顔に惚れてんだろう?」 僕は黙り込む。 「だってお前、王様に会ったこともないじゃん?性格知らないだろう? だったらあの人に惚れるなんて顔しか理由がないもんな!」 その言葉に僕は俯いた。 確かに僕は王様に一目ぼれだったんだ。 戴冠式の後で街をパレードした王様。 僕は遠めからそんな王様をチラリと見た。 そしてこんなに綺麗な人が世の中にいるのだと知った。 知的でクールな顔つきで、金色の髪がとてもやわらかそうだった。 僕は一目で心奪われ、好きになってしまった。 それから後は僕は王様のことばかりを考えていた。 きっと頭が良いのだろう。(だってとても知的な顔つきだった) そして政治も上手。(だってこの国は平和で戦争とかぜんぜんない) そして誠実。(この国には後宮はないんだ) 僕は顔をあげるとユアンを見つめた。 「好きだよ。いいじゃんか、憧れるくらい・・・」 すねたように僕は言った。するとカウンターに肘を付きながらユアンは言った。 「だってお前マジみたいだからさ。俺様は親切心で言ってあげてるんだよ。 王様なんて面倒くせー生き物なんかやめてこの俺様にしとけってね」 その言葉に僕はユアンを冷ややかな目で見つめる。 「魔法使いの方がよっぽど面倒臭そうじゃんか」 ユアンは驚いたように両手をバンザイして見せた。 「まあ!この美しく賢く精悍な魔法使い様を捕まえて、何をおっしゃるんでしょう?」 「・・・・・・バカは相手にしたくないんだ」 僕はそう言うとカウンターから離れようとした。 すると一瞬早くユアンが僕の腕を掴んだ。 「本当の話。俺は王宮に出入りしてる公式魔法使いだぜ。王様なんて嫌っちゅーほど会ってんだぜ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 僕は黙ってユアンを見つめる。 「王様はめっちゃ性格悪いよ。だから俺にしときな!」 そう言うとユアンは僕の腕をひっぱって唇がつきそうな位に顔を近づけた。 僕はその距離に悲鳴をあげた。 「う、うわ!」 僕はユアンの顔を殴ると調理場の方に移動した。 「あら、ビオラどうしたの?」 「ちょっと店番変わって。僕がこっちでパン焼くからさ」 「・・・・またユアン?良いわね。モテモテで。母さん面白くってしょーがないわ」 そう言って微笑む母を僕は睨んだ。 僕は魔法使いなんて眼中にない。 僕は憧れの王様一筋なんだから・・・・・・・。 僕は毎日パンを焼いている。 この王国は平和で美しく、何の不満もなかった。 ただ、僕にとって唯一と言ってもいい悩みがユアンの存在だった。 彼は数ヶ月前から店に通うようになった、常連客の一人だった。 王室お抱え魔法使いだと、本人は豪語しているが僕はアヤシイと思っている。 王室の魔法使いがあんなに能天気なバカだろうか? 毎日店に通っては僕にセクハラをする。 そんなヤツが王宮に出入りしてるなんて考えられない。 王室の気品が汚される! 僕は常々そう思っていた。 「ビオラちゃーん、今帰り?」 僕は一人暮らしをしている家に帰る途中だった。 その声に顔をあげると石畳の道の先にユアンが立っていた。 「出たな、ストーカー」 その言葉にユアンは微笑む。 「イヤだなー、どこの国の言葉だい?この俺様は夜道を一人で帰るビオラちゃんを心配してやってきたんだよ?」 その言葉に僕は黙り込む。 正直、帰り道は誰かと一緒の方が楽しいものだ。 「でも、うち、すぐそこだしな・・・」 「でも送るよ」 ユアンはニッコリとそう言った。 ユアンは人懐こい性格で、ちょっと頭が悪そうではあったが、かなりの美形だった。 髪は青く深く、繊細な色でとてもキレイだ。 身長も高く筋肉もついてがっしりしている。 実は僕はユアンは魔法使いではなくて、騎士なのではないかと少し疑っている。 だって魔法使いよりも数段にイメージにあっている。 僕は家の前まで来ると少し考えた。 「・・・・お茶でも飲んでく?」 その言葉にユアンが驚いた顔をした。 「マジで?」 そう言うユアンに僕は頷く。 「お酒はないけど、お茶なら入れてあげるよ」 その言葉にユアンは嬉しそうに微笑んだ。 その素直な笑みに僕の胸が少し熱くなる。人が喜ぶ表情は嬉しいものだ。 そんな顔を見てしまうと、僕もついつられて嬉しくなってしまう。 「お客さんを家に入れたのは初めてだよ・・・」 テーブルに向かい僕がそう言そうと、ユアンは青い瞳でマジマジと僕を見つめた。 「それってもしかして告白?」 「違うよ!」 僕は即答した。 「なんだ・・・でも、うん、嬉しいよ。だって家にあげてくれたって事は俺の事信用してくれてるって事だろう?」 その言葉に僕はユアンを見つめる。 「つまり友達だってちゃんと思ってくれてるって事だろう?」 その言葉に僕は考えた。 友達。 そう、確かに僕はユアンに友情を抱いている。 最初はただの常連客。そして職業を聞いてその正体をちょっと疑ってみたりした。 王室の公式魔法使いというのは、実はかなりの身分だったからだ。 けれど、そんな身分に関係なく、毎日店に通ってくれたユアン。 僕はそう、そんな彼を・・・ 「うん。そうだよ。友達だと思ってるよ。君にはなんだかんだ言っても友情を抱いてるよ」 僕が答えるとユアンは笑った。 「はは、実はそこで友情より愛情って言ってもらいたかったんだけどなーーーー」 その言葉に僕は頬を熱くしながら、ユアンから目を背けた。 「また、バカ言ってんなよ」 その言葉にユアンはただ嬉しそうに微笑んでいた。 僕達はお茶を飲みながら、暫く話していた。 ユアンはバカみたいにふざけた事をすぐに言う。 僕はそれを怒ったりしながらも楽しく感じていた。 帰り際にユアンはドアの前でふと手を掲げた。 「何?」 僕はわけがわからず掲げられた手を見上げた。その瞬間。 彼の手の中に小さな花束が現れた。 「わ!」 僕は初めて見る魔法に驚いていた。 「はい。あげるよ。今日のお茶のお礼に!」 そう言うとユアンは帰っていった。 僕はうけとった花束を見ながらユアンの事を考えていた。 「魔法・・・魔法か・・・・・」 僕は彼の正体を実はまだ疑っていた。魔法使いというよりは騎士のような外見。 でも今日、初めて魔法を見せられた。 ならば彼が魔法使いと信じるしかないだろう。 「でも、これって魔法って言うよりは手品だよな?」 僕はちょっと妥協して魔法使いというのは信じてあげることにした。 でも王室お抱えっていうのは認めない。 せいぜい魔法使い見習い、位じゃないかと思ったんだ・・・・・。 その日、ユアンはいつものように店にやってくると僕のいるカウンターまでやってきた。 「ビオラの次の休みの日はいつ?良かったら遊びにいかない?」 その言葉に僕は考え込む。 ユアンの事を友人だとは思っている。 けれどユアンにはいつも口説かれている。僕はそういう意味で彼と付き合う気はなかった。 だからどう返事をして良いか悩んだ。 「どう?」 にっこりとやさしい笑みで言うユアンに僕は折れた。 「いいよ。分かった」 僕達は三日後に二人で出かけた。 買い物をして、食事をしてと普通のことをした。僕が心配したような居心地の悪さはなかった。 友人となにも変わらない、そんな感じだった。 帰りにユアンは僕の家の前まで送ってくれた。 玄関の前で僕はなんとなく気になって聞いてみた。 「そう言えばユアンはどこに住んでいるの?」 僕が聞くとユアンは王宮のある方向を指差した。 「・・・・・・・・・・・・・」 僕が黙りこんでいるとユアンは言う。 「言ったじゃん。俺は王室の公式魔法使いだって。あの中に俺の家もあんだよ。 まあ、他にいくつか隠れ家みたいなのも町の中にあるけど・・・」 その言葉に僕はため息をついた。 「わかったよ、はいはい」 「信じてないな?」 そう言うとユアンは僕の腕を取った。 僕はそのユアンの行動にドギマギしながら言った。 「だって・・・本当に王室の公式だっていうなら証拠を見せて欲しいよ。それに王様と 話した事があるなんて言ってさ・・・。そうすれば僕が反応示すと思ってんだろう?」 その言葉にユアンの眉が顰められる。僕は珍しくユアンを怒られてしまった事に気付く。 「王様とか、証拠とかって言うけどさ、単にお前、俺を経由して王様に近づけないかって思ってるんじゃない?」 その言葉に僕の頬が熱くなった。 「バ!バカじゃない?!そんな事思ってるわけないじゃん!」 僕は大声で言っていた。 そんな僕に顔を近づけながらユアンは言う。 「本当かよ?お前、王様に惚れてんだろう?だったら利用できるものは何でも利用しようって 思うかもしれないよな。俺に何か頼んできてもおかしくないよな?もしかしてそれを狙って 今日も付き合ってくれたの?」 その言葉にユアンをひっぱたいてやろうと思った。 けれど僕の利き腕はユアンに捕まれたままで出来なかった。 「放せよ、バカ!」 「バカはお前だろう?話したこともない人間に惚れて、しかも相手は王様だってうんだ。 手の届かない人間に理想像を押し付けて目の前の生身の人間を見ようともしてない。 お前の方がよっぽどバカだろう?」 僕はその言葉に身体中が熱くなった。 言われた言葉が痛かった。確かにそれは事実だったから。 「良いから放せよ!!」 僕は暴れた。するとユアンはそんな僕を押さえようと僕を抱きしめた。 「!」 僕が驚いていると、そのままユアンの顔が近付いてきてキスをされた。 「ん・・・」 僕はユアンにキスされながら必死に暴れた。 そして力いっぱいユアンを突き飛ばした。 「バカ!」 僕はそう言うと部屋の中に飛び込んでいた。 僕は涙を浮かべていた。 悲しいのか悔しいのか分からなかった。 しかもこの複雑な気持ちは、キスされた事がショックだったからか、ユアンの言う事がすごくもっともだったからか 僕には判断がつかなかった。 とにかく、何もかもが、全部全部、なんだか苦しくて仕方なかったんだ。 僕はそれから数日元気が出なかった。 その間ユアンは店に来なかった。 僕はそれに安堵していた・・・かと言うとそうでもない。 実は翌日はユアンと顔を会わせる事に気まずさを感じていた。 けれどその日、ユアンは店にやってこなかった。そしてその翌日も。そしてその後も。 その頃になると、僕の胸は苦しくて仕方なくなっていた。 最初は多少怒りの感情もあった。 けれど日がたつにつれて僕は淋しさを感じだしていたんだ。 「今日もユアン君はこなかったの?」 焼きたてのパンを棚に並べながら母親が言った。 僕は唇を噛み締めながら、黙って頷いた。 「あんたがあんまりつれないから、愛想つかされちゃったのかしらね?」 その言葉に僕はビクンと大きく反応した。 母親は冗談で言ったのかも知れなかったが、その言葉に僕は傷ついた。 ユアンはもう店にはこないのだろうか? もう僕には会いたくなくなったのだろうか? そう考えて僕は気がついた。 僕は彼が王室の公式魔法使いという事だけしか知らない。 彼が住む家もまったく知らなかった事に気がついた。 僕は彼を友人だと思っていた。でもどうだろう? 友人だと言うのに、僕は彼の家も知らなければ家族構成も出身地も知らなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 僕は今までユアンの無邪気な好意に甘えていたんだと気がついた。 彼がいつでも会いに来てくれるから、僕は自分から彼に会いにいく事もなかった。 僕は何の努力もなくユアンという友人を手に入れた気でいたんだ・・・・。 「母さん、ごめん、僕ちょっと出かける!」 僕はそう言うと店を飛び出していた。 僕は考えていた。 どうしたらユアンにまた会えるだろう? 僕は魔法使いに関連のある場所を探しに行こうと考えた。 魔法使いならば必ず行く場所?それって、それって? 僕は街中を彷徨った。 最初に調べてから出かければ良かったのだが、僕は衝動で店を飛び出してしまった。 だから僕は苦労してその場所にたどり着いた。 そこは並木の道沿いに立つ、レンガ調の建物だった。 入り口前の短い階段を、手すりに捕まりながら僕は上った。 そこは魔法使い斡旋センターだった。 魔法使いに用のある人間は、この受付センターで登録されている魔法使いに仕事を依頼する事が出来る。 僕は初めて訪れた場所に緊張しながら、カウンターに向かった。 「すみません、人を探してるんです」 その言葉に中にいた、いかにも真面目そうな男がチラリと僕を見た。 僕はその冷たい視線に不快な気持ちになりながら目的を話した。 「あの、その人は魔法使いで、だからその、その人の住所を教えてほしいんです!」 僕は受付の人に言った。けれどそこでの対応は予想以上に冷たかった。 「ダメですよ。そういう個人情報はお教えできないシステムとなっています。ここは魔法使い斡旋所であって 人探しの場所じゃないんですから!」 僕はその言葉に黙って引き下がった。 確かにペラペラと個人情報をここの人間が話すとは思えなかった。 僕は肩を落としてその場を立ち去った。 そしてドアを開けて階段を下る途中、一人の人物とすれ違った。 その人は黒い長い髪で神秘的な緑色の眼をしていた。 僕は彼をその雰囲気で魔法使いだと思った。 この斡旋センターに魔法使いは出入りをしている。だから彼はそういう魔法使いの一人だと思った。 彼にユアンのことを尋ねてみようか?そう思ったが僕は結局声をかけられずにおずおずと家に帰った。 その翌日、店に現れた人物に僕は視線を奪われていた。 その人物は黒い長い髪の男だった。 僕は彼に視線を奪われたまま息を止めていた。 彼は店の中を軽く物色したあとで、僕の方に向かって歩いてきた。 正面から顔を見る。間違いない。 彼は昨日魔法使い斡旋センターですれ違った、あの人だ・・・・・・・・。 彼は店番をしている僕の前まで来ると、ニコリと微笑みながらお辞儀をした。 「え?」 僕が何がなんだか分からずにいると、彼は話し出した。 「昨日貴方は魔法使い斡旋センターに行きましたね?」 「あ、はい・・・・・」 そう言うと彼はニコリと微笑んだ。 「実はあの時、貴方に一目惚れしてしまった人間がいるんですよ」 「え?」 僕は予想外の言葉に瞬きをした。 「ああ、心配しないで下さい。これはおかしな話じゃないんです。とても喜ばしいことなんですよ」 僕は何も口を挟めずただ黙って聞いている。 「実はその方はとても高貴な方なんです。昨日はお忍びであそこに来ていた。そして偶然 貴方をお見かけしたというわけです。そしてその方の依頼で私が貴方の事を調べてここまでやって きたとそういうわけなんですよ。そしてその方はぜひとも貴方にお会いしたいとおっしゃってるんです」 その言葉に僕は思わず手を押し出して言う。 「ちょ、ちょっと待って下さいよ!僕、困ります、その・・・」 そう言う僕に彼は微笑んだ。 「大丈夫、悪い話ではありません。だってその方には貴方も好意を抱いているんですから」 「僕が?!」 意味がわからなかった。驚いている僕に彼は言った。 「ええ、実は貴方の事を調べさせて頂きました。貴方は王様に恋していらっしゃるとか?」 「ええ!それってまさか・・・その高貴な方って・・・・王様・・・・?」 僕の言葉に彼はニッコリと微笑んだ。 「はい。そうです。あ、申し送れました。私は王様の側近のナガラと申します」 僕はその言葉に呆然としていた・・・・・・・。 ナガラさんはその日はそのまま帰っていった。 けれど次の日も彼はやってきた。 そしてそのまた次の日も・・・。 |
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