| 8.春樹の恋人 | |||||
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「春樹・・・愛してるよ・・・・」 そう言って微笑む鷹也に春樹は頬を染めてうなずく。 「俺も・・・アイシテル・・・・鷹也・・・・・」 そう言うと春樹は鷹也の胸に顔を埋める。 すると鷹也は春樹を抱きしめる腕に力を入れる。 その強い力に春樹は苦しくなってつい声を漏らす。 「ん・・・・・・・」 そんな春樹に鷹也は微笑むとそのまま春樹の顎を持ち上げてキスしようと顔を近づけた。 その時。 「やりすぎなんだよ!!」 航貴が鷹也に向かって廻し蹴りをした。 それを右手で跳ね除けながら鷹也は余裕の笑みを浮かべる。 「いい所を邪魔するなよ。役得ってヤツだよ」 そんな二人を無視して春樹はタムラを見つめた。 ここは放課後の理科室だった。 今この理科室にはタムラ、春樹、鷹也、航貴の四人が居た。 春樹は今のラブシーンを見てタムラが怒っているのではないかと思った。 タムラはじっと見つめる春樹に眉を顰めていた。 春樹はビクビクとしながら声をかけた。 「タ・・・タムラ、これはその演技だから・・・俺、お前以外のヤツなんて好きじゃないから・・・」 そう言う春樹にタムラは言う。 「そんなの判ってますよ。でも今のセリフは頂けませんね!」 そのぞんざいな言い方に春樹はタムラが嫉妬しているのだと思った。 けれど。 「何ですか、今の演技は?!「アイシテル」なんて特に棒読みじゃないですか?!」 「え、ええ?」 春樹は拍子抜けした。 「そんなんじゃ誰も騙せるわけないじゃないですか?!」 その言葉に春樹は叫ぶ。 「なんだよ、ちょっとは妬いてくれよ!!タムラのバカ!!」 そんな二人を見ながら鷹也は溜息をついた。 「・・・なんだかんだで結構この二人上手くいってるんだな。残念だよ」 その言葉に航貴も頷く。 「ちぇ、早く別れたら良いのに・・・」 「まったくだよ。春樹にもっと美的感覚があったらよかったんだけどな」 「ハルキさん結構、趣味が悪いんですよね。あの土産物といい、タムラといい・・・」 その言葉にタムラは振りむく。 「さっきから聞こえてるんですよ!!」 事の始まりは先日の航貴の電話だった。 『聞かれたんですよ。春樹さんの恋人について』 「そ・・・それで・・・?」 そう聞く春樹に航貴は言った。 『イヤ、それが・・・・・・・・・』 春樹はドキドキと緊張していた。 タムラと付き合っている事は例の三人と兄にしか話してはいなかった。 他人にはとても大っぴらに話せるような事ではなかったからだ。 緊張する春樹に航貴は言った。 『すいません。ハルキさんは三枝さんと付き合ってるって言っちゃいました!!』 その航貴の発言のお陰で放課後この4人が理科室に集まる事となったのだった。 「何でよりにもよって鷹也の名前出したんだよ?」 そう聞く春樹に航貴は言った。 「すみません。流石に本当の事は言えないと思って。それでじゃあ誰にしたらって考えると やっぱり学園の王様の三枝さんが良いかと思ったんですよ。三枝さんの名前を出したら この学園の生徒は一発でビビりますからね」 その言葉にはタムラも春樹も納得だった。 学園理事や校長の親戚だ。鷹也に睨まれたらまともな学園生活は送れないだろう。 そしてその航貴の発言のお陰で春樹と鷹也は恋人のフリをする羽目になったのだった。 「さあ、春樹。また練習しようか?ほら、おいで」 そう言って腕を広げる鷹也を春樹は怯えるように見つめると叫んだ。 「もう練習はいいよ!鷹也に近づくとなんかされかねない気がするもん!」 そう言う春樹に鷹也は微笑む。 「今更何を照れるんだよ。俺と春樹の仲だろう?」 その言葉に春樹は過去のアレやコレやいろいろを思い出して赤面した。 そして怒鳴ろうとしたその瞬間。 航貴が叫ぶ。 「そもそも練習なんか必要ないんですよ!ぶっつけ本番であの西野ってヤツに見せたらいいだけなんだ! これ以上三枝さんはハルキさんには触れないで下さい!」 熱く叫ぶ航貴に鷹也は溜息をつく。 「誰が春樹の彼氏なんだか・・・・」 言いながら鷹也はタムラを見た。 タムラはポーカーフェイスでその様子を見つめていた。 春樹もそんなタムラに気が付くと少し不安を感じた。 (タムラ・・・ちょっとは嫉妬してくれてる?ああ、でも嫉妬されすぎても困るけど・・・・) 春樹が考え込んでいると航貴が口を開いた。 「そもそもあの西野って何者なんです?やっぱ彼もハルキさんに惚れてるんですか?」 その言葉に春樹は目をパチクリとさせる。 「え、違うよ!俺好かれてなんてないよ!そんなのぜんぜん感じなかったもん!!」 その言葉に三人は黙り込む。 春樹は鈍いから死ぬ程好かれていても気付かない。 春樹の言葉を無視して鷹也が口を開く。 「彼はね・・・・うーん。実は結構な実力者がバックについてるんだよ・・・・・・・・・」 その言葉に三人は鷹也を見る。 「実力者って?」 「何か秘密でもあるの?」 そう聞く春樹と航貴に鷹也は苦笑をもらす。 「ごめん。詳しい事は内緒なんだけど。まあ、彼自身かなりの才能もあるみたいだしね。 頭もかなり良いみたいだし、運動も出来る。でなきゃこんな時期にこの学園に入れないよ。 しかも彼が直々にこの学園への転入を希望したみたいだしね」 その言葉にタムラが呟く。 「何かこの学園にどうしても来たい理由があったって事ですね・・・?」 その言葉にまた全員が春樹を見つめる。 「だから、俺知らないってば!!」 春樹は真っ赤になりながら叫んでいた・・・・・。 作戦実行の時がやってきた。 放課後、航貴は律を呼び出すと裏庭に向かった。 作戦とは単純な物だった。 呼び出した律にさりげなく春樹と鷹也のラブシーンを見せ付けて春樹を諦めさせるというものだった。 他の人間ならともかく鷹也なら普通の生徒は諦める。 でなければ安全な学園生活はままならないと誰もが知っている。 航貴達は裏庭に向かって校舎脇を歩いていた。 この角の向こうに春樹と鷹也が居る。 それを判っていて律を促す。そして角を曲がった瞬間二人の姿が目に入る。 春樹と鷹也は抱き合っていた。 航貴は後ろに居た律を窺い見た。 律は驚いたように抱き合う春樹と鷹也を見ていた。 『よし!作戦成功!!』と思った時だった。 クスクスと笑う声に航貴は驚いた。 すると驚く航貴の横を抜けて律が春樹達に向かって歩いていく。 そして堂々と声をかけた。 「よう!お二人さん!」 その言葉に抱きあっていた二人は驚いた。 「え?」 呆然とする二人に律は笑顔で言う。 「なに、わざとらしい芝居してんだよ?二人は恋人じゃないだろう?」 その言葉に春樹は引きつる。 「春樹ちゃん、動きがギコチないよ?もっと上手く演じないと」 「え・・・演技じゃ・・・・・」 春樹がそう言うと律は楽しそうに微笑んだ。 「へえ。演技じゃないんだ?じゃあキスでもしてみてくれる?」 その言葉に春樹は固まった。 出来ない。俺はタムラ以外とはもう死んでもキス出来ない。 春樹はそう思った。 けれど鷹也はするりと手を伸ばすと春樹の顎を持ち上げて上向かせた。 そして春樹にキスしようとその整った顔を近づけた。 「え?」 唇が触れる。 そう思った瞬間春樹は鷹也の顔を手で押し返していた。 「ヤダって鷹也!!!」 その春樹の行動に律は大笑いした。 「はははは・・・・やっぱり嘘なんじゃん。君達随分とおもしろい事してるね。 俺を騙してどうするつもりだったんだよ?」 律は微笑んでいたが春樹は恐怖を感じていた。 しかも律は他の誰でもなく真っ直ぐに春樹を見ていた。 流石の春樹もその事に気が付いて胸がザワつく。 それは律と初めて会った時の事を思い出させた。 あの時春樹はワケも判らず律に怯えた。それは何故だったのか・・・・・・・・・・・。 「お前こそ何でハルキさんの恋人なんて嗅ぎまわってんだよ?!」 航貴がケンカ腰で律に言う。 そんな航貴に春樹はハラハラしていた。 一応相手は上級生なのにそんな口の聞き方しちゃって良いのだろうかと思った。 すると律は微笑んで言った。 「何でって?なんでかなんて聞くまでもないだろう?簡単な事だよ」 そう言うと律は一歩足を踏み出した。 春樹の心臓がドクンと鳴った。 律は春樹の前まで来ると立ち止まり微笑みながら言った。 「春樹ちゃんに一目惚れしたんだよ」 その言葉にその場にいた三人は息を呑んだ。 律は引きつった顔の三人を満足そうに見た後で言った。 「好きな子に恋人が居るか嗅ぎまわったら悪いか?」 律はニヤリと微笑むと続ける。 「俺は春樹ちゃんが好きなの。だからさ、春樹ちゃん俺と付き合おうよ!」 そう言うと引きつった航貴と鷹也の目の前で律は春樹の手を握った。 春樹は動揺していた。 とても律の言う「好き」が本気だとは思えなかった。 |
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