| 椿の垣根で・・・ | |||||||||
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12月も半ばの事だった。 毎朝決まった時間に通る通学路。 その見慣れたはずの風景に思わず目を奪われる物があった。 ユキトは思わず立ち止まった。 いつもの通学路。毎日通ったその道。その場所に鮮やかな花が咲いていた。 赤紫色の花が咲き乱れている。 それは椿の花だった。 整形外科と看板が掲げられた建物に添って植えられた垣根。 赤というよりも蛍光ピンクに近いその鮮やかな発色の花にユキトは目を瞠った。 人間の背丈程の高さの樹に咲き乱れる花達。 正面を向いて目一杯に開いて咲く花はまるで自分を見つめているようでもあり ユキトはその光景に幻想的な物を感じた。 その時。 ユキトはその垣根の前に居る一人の少年に気づいた。 その少年は真っ直ぐにユキトを見つめていた。 白い肌に長めの茶色い髪をした少年。 美形と言っても良い位に整った顔立ちのその少年に何故かユキトは見覚えがあるような気がした。 けれど次の瞬間にはやはり知らない人物だと思い直す。 彼はユキトの知人ではない。 ユキトはゆっくり歩き出し通いなれた道をバス停へと向かって歩き出した。 少年の前を通る時にその少年が微かに微笑んだような気がしたがユキトは気づかないふりをして その前を通りすぎた。 道を歩きながらもユキトは今見た光景に心奪われていた。 咲き乱れる椿の花。赤紫の花、花、花。 そしてその花の前に居た少年。 まるで一枚の幻想絵画のようだった。 ユキトは何度も何度もその光景を思い浮かべていた。 学校に着くと親しくしている友人達にユキトは囲まれた。 その中の一人有田修二が親しげにユキトに声をかけた。 「何?ユキトってばボーっとして。何かあった?あ、バスの中で痴漢にあったとか? だから俺みたいにチャリにしたら良いんだよ。それとも俺乗っけてってやろうか?」 ユキトが返事をする間もなく修二はそう言った。そんな修二にユキトは言う。 「何で俺が痴漢にあうんだよ。なワケないだろう」 その言葉に修二はニコリと笑う。 「だってユキトならあってもおかしくないだろう。華奢だし中性的だし」 そう言う修二をユキトは軽く殴った。 せっかくの今朝の幻想的な気分に浸っていたのに修二のせいで台無しになってしまった。 ユキトはちょっとそれを不満に思った。 それに華奢で中性的と言うなら今朝見たあの少年の方だとユキトは思った。 「いいからお前はほっとけよ。それになんかお前って悩みない能天気さが なんか俺ムカつく」 その言葉に修二はちょっと顔を曇らせる。 「失礼だな。そんな事ないよ。俺だって悩み位あるんだよ・・・」 「へえ、どんな?」 その言葉に一瞬修二はつまる。けれどすぐにまた口を開いた。 「・・・・・・恋とか・・・死についてとかさ」 「死?」 ユキトは上目遣いに修二を見上げた。 「・・・・・・そう、死。なんかこの間小学校の同級生が死んだらしいんだよ。同じ年だぜ。おっかないよな」 言われた言葉があまりにも重い言葉でユキトは返す言葉をなくした。 「あ、俺の伯父さんもこの間死んだんだよ。ガンだって」 二人の間に他の友人達が混ざってきて重い話の割りには他人事といった感じで 『死』の話は繰り広げられた。 高校生の男の子にとって死とはそれ位自分達とはかけ離れた他人事であった。 修二とユキトは小学校からの友人だった。 修二は活発で明るく面倒見も良かったので自分の世界に浸りがちになるユキトからすると 外の世界との接点のような存在だった。 二人の家はバス停で二つ離れた場所にあった。 通学形態事態が違うので普段一緒に登下校する事はあまりなかった。 けれどユキトは誰と1番親しい友人かと聞かれたら間違いなく修二と答えるだろう。 翌日ユキトは同じ時刻に家を出た。 ユキトは高校に入学してからの二年間ほぼ規則正しい生活を送っていた。 元々根がマジメな性格のため時間にはかなり正確だ。 ユキトは少し緊張していた。 胸がドキドキとザワついた。昨日見たあの椿の花を思い浮かべる。 赤紫の幻想的な花。そしてその前に居た儚げな美しい少年。 ユキトは高校入学からずっとこの道を通っていた。 なのに去年まではあんな所にあんなに見事に椿の花が咲いている事にまったく気づかなかった。 その事がとても不思議だった。 やがてユキトは椿の垣根までやってきた。 今日は椿の花よりも先にその前に佇む少年に視線を奪われた。 ドクン。 ユキトの胸は不自然に脈打った。 ドクン。ドクン。 ゆっくりとユキトはその路地を歩いた。 気づかれない程度にユキトはその少年を盗み見た。 年は自分とそう変わらなく見えた。 けれど制服は着ていない。コートの下から出ている足はジーンズだ。 白い肌に長い手足。茶色い髪それによく見ると耳にピアスをしていた。 少年は何故か真っ直ぐに自分を見ているように思えた。 ユキトはそれに気づかないフリをして少年の前を歩いた。 今日もまた瞳の中にその少年の姿は焼きついた。 緑の垣根に浮かぶ赤い花。その中に埋もれるように立つ美しい少年。 学校に着いてからもやはり意識はあの少年にばかり向かってしまっていた。 絵画。 そう、やはりその言葉が一番似会う気がした。あれは一枚の幻想絵画だと。 「・・・・なんかさ、昨日からユキト変じゃない?」 その修二の言葉にユキトは今気がついたというように目の前に居る修二を見つめた。 「何が?」 その言葉に修二は頬を指先でかく。 「うーーーん。何がって言うか・・・・・・。何か恋でもしてるのか・・・」 「恋?!」 ユキトは素っ頓狂な声をあげた。そんなユキトに付け足すように修二は言う。 「あ、イヤ。じゃなかったら何か幽霊にでも取り憑かれてるみたいにボーっとしてるからさ」 その言葉にユキトは黙り込む。 恋も幽霊もちゃんちゃらおかしいと思ったが「取り憑かれている」という表現はあっているように感じた。 実際昨日から何故か彼の事ばかりを考えていた。 放課後。帰宅部のユキトは真っ直ぐ家路についた。 一人でバスに乗るといつもの停留所で降りる。 そして朝見た椿に思いを馳せる。 昨日の夕方も垣根の前でちょっと不自然かなと思う位に花を見つめた。 今日も出来たらそうしたいと思っていた。 花の盛りは思った以上に短いものだから、美しい花を美しい期間にじっと見つめたいと思った。 ドキドキとしながらユキトは路地を歩いた。 そして椿の垣根が見えた時。 ユキトは息を呑んだ。 そこには今朝と同じようにあの少年が立っていた。 朝と同じ場所に変わらない姿で立っている。 ユキトは彼の姿に目を奪われると路地に止めてあったバイクに思わずぶつかりそうになって慌ててよけた。 よろけて赤面しながらユキトは歩いた。 やはり少年は自分を観察しているように感じてユキトはすっかり緊張してしまっていた。 そこでチラと少年を見ながら歩きすぎようとした時だった。 「佐伯行人君?」 ユキトは名前を呼ばれて驚いて少年を見つめた。 椿の垣根の前で少年はニッコリと笑った。 「ユキト君だろう?はじめましてってヘンかな。何度か会ってるし」 そう言って親しげに話しかける少年にユキトは面食らっていた。 「・・・・・・・・・・どうして、名前・・・・・・」 そう聞くと少年は微笑んだ。 「うん・・・・まあね・・・・・」 ぜんぜん答えになっていない回答だった。 少年は立ち止まっていたユキトに向かってゆっくりと歩いてくる。 椿の垣根と一体化しているように感じていた少年が垣根から離れて歩いてくる様子を見つめて ユキトは不思議な気持ちになった。 (そうだよな。絵画じゃないんだ。当たり前じゃないか。) 目の前に立った少年にユキトは見惚れた。 思った以上に美しい少年だと思った。背は自分よりも高いし大人びている。 けれど白い肌は透き通るようで病的な位だった。 髪の色は生まれつきなのか染めているのか茶色のやわらかそうな髪だった。 瞳の色も黒というより茶色がかって見える。 ユキトがじっくり少年を観察している間も少年は気にした様子もなく微笑んでいた。 「ね、今から遊びに行かない?」 その言葉にユキトは驚いた。 「え?」 呆然とするユキトにかまわず少年は言う。 「友達になろうよ。ああ、僕の名前はタカシ。よろしくね」 そう言うとタカシはユキトの腕を掴んで歩きだした。 「一緒に行きたい所があるんだ。ね、つきあってよ」 ユキトは断る間もなくタカシに引きづられて歩き出していた。 タカシは住宅街の路地をどんどん進んだ。 住宅街は碁盤の目のようになっていて慣れない人間は角を一つ曲がるだけで方向感覚がなくなる。 ユキトからしたらこの辺りは地元も地元でそれらの道は熟知していた。 バス停までの道にしても高校に入学してから最短コースを探してこの近辺を何度も探検して見極めたルートだった。 そんな道をタカシは迷う事なく進む。 その事にユキトはタカシがこの近辺に住んでいるのではないかと思った。 昨日ふとタカシの顔に見覚えがあるような気がしたがあるいは過去にこの近所で 遊んだ事があったのではないかとユキトは考えた。 その頃の面影が残っていて覚えていたのではないかと。 そうだとすればタカシが自分の名前を知っている事も頷ける。 |
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タカシはどんどん道を歩いた。途中から急な坂道をどんどん上っていく。 「お、あった。あそこあそこ!」 坂を上りきると急に風景が開けた。そこは丘の上にある公園だった。 目の前に町を見下ろせる。 数々の民家の屋根。ビルの屋上。それらが北側の斜面の下に見える。 ユキトはその光景にしばし見入った。 もちろんユキトはここの公園に来るのは初めてではなかった。 近所にある公園なので子供の頃にいろいろ探検済みだった。 最近は来る事がなかったので昔見た光景よりも高層マンションやビルが多く目についた。 その同じ光景をタカシは黙ってじっと見つめていた。 ユキトはふと思って声をかけた。 「もしかして俺達、過去にここで会ってたりする?」 ユキトがそう聞くとタカシは驚いたようにユキトを見つめてそして微笑んだ。 「イヤ、ないと思うよ」 その言葉にユキトは拍子抜けした。 てっきり子供の頃にここで遊んだ事があるのだと思ったのに違うと言う。 では自分達の接点は何だったのだろう?ユキトは考え込んだ。 そんなユキトにタカシは言う。 「あそこにローラースライダーがあんじゃん。あれに乗らない?」 見るとそこには確かにそれがあった。それは斜面を利用して作られた長い滑り台だ。 滑る部分がローラーになっているので確かにローラースライダーという名称だと思うが ユキトは単に滑り台と呼ぶ事にした。 「へえ、こんな近代的な滑り台、俺が子供の頃にはなかったのに・・・」 言いながらユキトはその滑り台に近づいた。 「いいね。楽しそう」 「だろう!」 そう言うとタカシはニコリと笑った。今までの美しい静かな笑みではなくいたずらする子供の ような笑顔だった。そんな素直な表情にユキトは今までとちょっと違う意味で見惚れてしまった。 「よーし!いくぞ!」 言うとタカシは滑り台に乗り込んだ。 ユキトもつられて後を追う。 滑り台は思った程はよく滑らなかった。危険防止のためにそういう作りなのかもしれない。 そこでユキトは途中で腕で勢いをつけてみた。すると上手く滑り出した。 だが勢いがつきすぎユキトは思わずタカシを蹴り倒してしまった。 「うわーーーーーー」 二人で悲鳴を上げながら下りきった。 地面に降り立つとタカシがよろけていた。 「ごめん!大丈夫?」 ユキトが聞くとタカシは顔をしかめながら答えた。 「・・・・・・・・ユキトに蹴られるとは思わなかった」 「な、何で?」 「イヤ、ニブそうだと思ってたから・・・・・」 「失礼だな!」 言いながらもユキトはふきだしてしまった。それを見てタカシも微笑む。 二人は調子にのって滑り台を2回。 更に公園にあったシーソーやブランコというあらゆる遊具で遊んだ。 日が暮れる頃タカシはユキトを見つめて言った。 「また、会おうよ」 そう言ったタカシに何故?と聞き返す事もなくユキトは頷いた。 するとタカシはまた見惚れる程の美しい笑顔を見せた。 「じゃあ、また椿の垣根の前で待ってるよ」 翌朝。 椿の垣根の前にタカシはいた。相変わらずの美貌と白い肌だった。 「おはよう」 「・・・・・・おはよう」 なんだか少し恥ずかしいようなそんな気持ちでユキトも挨拶する。 「今から出かける・・・とかじゃないよね?」 そう聞くユキトにタカシは微笑む。 「ユキトに学校サボらせるワケにはいかないからね」 「・・・・うん」 「じゃあ、行ってらっしゃい」 そう言うタカシに手を振りユキトはバス停へと向かった。 それにしてもタカシは今日も制服ではなかった。彼自身学校には行っているのだろうか? ユキトは疑問に思った。あるいは大学生なのかもしれない。 それなら制服ではないのも時間に追われていなそうな様子も納得できる。 次に会った時にはその事を聞いてみようとユキトは思った。 学校が終わるとユキトは急ぐように帰途についた。 タカシに会えるのだと思うと何故かわくわくとした気持ちになった。 けれど椿の垣根の近くに来るとユキトは緊張してきた。 もしも今日はタカシが居なかったらどうしようと思った。 今日という約束は特にはしていない。 それになんとなくタカシの普通の人間とは違う独特の雰囲気がユキトを不安にさせた。 一瞬の幻のように消えてしまいそうなそんな不安定な存在に思えた。 ユキトは緊張しながら前方を見つめた。すると椿の垣根の前にタカシは居た。 近づくとタカシは微笑む。その笑顔にユキトの胸は何故か熱くなり安堵した。 「お帰り」 屈託なく笑うタカシにユキトはついつられて同じように微笑み返していた。 「さ、行こうぜ。早くしないとあっという間に暗くなるからな。知ってる?明後日って 冬至なんだって。一年で一番夜が長いんだよ」 そう言うタカシに引きづられるようにユキトは早足で歩き出していた。 この日は昨日と違う道をタカシは進んだ。途中でユキトはひどく懐かしい気持ちになった。 そしてそれが何故だか判った。ここは小学校の頃の通学路だった。 「あの右手の学校ってユキトの学校だろう?」 聞かれてユキトは頷いた。 「そうだけど。何で知ってんの?タカシもあそこに通ってた?」 そう聞くとタカシは複雑な顔をした。 「うーーん。通ってたような、なかったような・・・」 なんだかハッキリしない答えだった。 やがて二人は昨日と同じ公園に辿りついた。 今日はタカシはまっすぐ東屋のベンチに向かい二人で腰を下ろした。 「やっぱじっとしてると寒いな。何か飲む?」 タカシは自販機を見ながら聞いた。それに対してユキトは「ココア」と答えた。 ココアの缶を買ってくるとタカシはユキトにそれを渡した。 ユキトはその缶の暖かさが嬉しくなった。缶が暖かいというよりタカシの心を暖かく感じていた。 横に座ったタカシを見るとコーヒーの缶を開けて飲んでいた。 タカシは見惚れる程の横顔で暮れてきた空を見つめていた。 「日が暮れたら民家の明かりが見えてけっこうキレイなんだよ」 そう言うタカシにユキトはやはりタカシがこの近所に住んでいるのだと思った。 その事を聞こうとした時だった。 「知ってる?日本の若者の死亡原因の多い順番」 急にタカシが言い出した。 「・・・わかんない。自殺とか?」 そういうユキトにタカシは首を振る。 「1番が交通事故で2番目が白血病だって」 「白血病?意外かも・・・・・・」 「・・・・そうだよな・・・・・・・・」 そう言うとタカシは黙り込んだ。そして。 「あ、ほらあそこに星が出たよ」 そう言うタカシにつられて見上げると星が一つ浮かんでいた。 「本当だ。あれって1番星?」 「イヤ・・・・どうかな?俺くわしくないもん」 そんな答えにユキトは笑った。 そのユキトの笑顔をタカシは眩しそうに見つめてから再び空を見上げた。 「死んだ後に、ああいう星になったらこの民家の夜景ももっと高くから見おろせそうだな。 そしたら淋しくもないし良いよな。俺もやっぱここ・・・好きだな・・・・・・・」 言われて斜面の下を見ると民家に明かりが灯っていてとてもキレイにそれが見えた。 俺も、好き。誰と同じだというのだろう。思ったがユキトは聞けずに町を見下ろした。 しばらく二人でその光景をじっと眺めていた。 キレイな光景だったが風景が夜景に変わるとかなり冷え込んでいた。 ユキトはココアも飲みきり少し指先が冷たく感じた。 つい指先に息をあてて温まっているとそれを見ていたタカシが声をかけた。 「寒い?そうだ!くっ付こうよ!」 そう言うとタカシはユキトにぴったりとくっ付いて座った。 その行動に何故だかユキトはドキドキと緊張した。別に肌が直接触れ合ってるワケではない。 ただ少し距離が縮まっただけだ。なのにおかしな位胸が高鳴っていた。 「あんま、あったかくない?」 そう言うとタカシはユキトの左手を掴んだ。 「うわっ冷えてんなー」 そう言いながらタカシはユキトの手をそのまま自分のコートのポケットへとしまった。 ユキトは顔から火が出る位に熱くなってしまった。 そんなユキトにタカシは気がつくとクスリと微笑した。 「うわーユキト真っ赤だ。かわいいな」 その言葉に更にユキトは真っ赤になった。もう寒さは感じなかった。 |
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