| 木の下に埋める | |||||
|
最初は確か猫だった。 隼人が飼っていたミケネコ。 隼人はとてもその猫をかわいがっていた。 それが小学校から帰ってくると車にひかれて死んでしまっていた。 隼人は泣きながら市民公園の木の下に穴を掘りその猫を埋めた。 僕もそれを手伝った。 猫は目を薄く開いて硬直していた。流れ出た血も固まりついてそれはとてもグロテスクだった。 けれどそんな猫を隼人は抱きしめて泣いていた。 いつも強気で学校では決して泣かない隼人が人目も気にせずに泣いている。 その時に僕は隼人に特別な感情を抱いたのかもしれない。 その次も確か猫だった。黒いブチのやっぱり雑種だった。 その猫は病気で死んだ。やはり隼人は号泣した。ぜんぜん泣かない両親を責め立てていた。 大人は猫一匹で泣いたりしない。けれど隼人はこの世の終わりという位に泣いていた。 また僕は穴を掘るのを手伝った。 2回目ともなれば手慣れてきていた。 穴を掘りタオルケットで包んだ猫をそこに埋めた。 その次は金魚だった。 祭の縁日で買った。確か買った日から一週間位というあっという間に死んだんだ。 僕はまた隼人に呼び出された。 さすがに今度は泣いていなかった。たかが金魚だ。 けれど僕達はまたあの木の下に向かった。 穴を掘りそれを埋めた。僕はその時隼人が流す一筋の涙に気がついた。 僕なら金魚が死んだらゴミ箱へ捨てるだろうと思った。 涙を流す隼人が不思議な生き物に見えた。 その次は鳥だった。何の鳥だったかは忘れた。 その時には僕達はすでに中学生になっていた。 隼人は大の猫好きで鳥なんて飼ってはいなかった。なのに僕達は鳥を埋めた。 隼人は道でケガをした鳥を拾ったんだ。 小鳥ではない。鳩よりも大きい位のあまりかわいげもない鳥だった。 その鳥を拾うと隼人は一晩眠らずに看病した。 けれど翌朝鳥は死んだ。 隼人の父は焼き鳥に出来ないか?と言いだし隼人を激怒させていた。 その頃には僕は穴掘りの名人になっていた。 木の下で隼人は助けてやれなかったと言いまた泣いた。 僕は泣いただろうか?覚えていない。 たぶん泣いていない。 桜の季節だ。 僕達はすでに高校生になっていた。 僕は隼人と花見に来た。公園の中をくまなく散歩する。 僕は一本の桜に目をやる。 それは見事に花を咲かせていた。 薄いピンクの花弁。 その木が他の木よりも豪華に咲き誇って見えるのは その下に埋まった死体の数を知っているからだろうか? 「なあ、夕樹、昔よくここに死体を埋めにきたよな?」 隼人は桜を見ながら言った。僕は何も答えなかったが隼人は続けた。 「またウチの子が死んだら一緒に来てくれるだろ?」 隼人はまだ猫を飼っている。今度はチンチラだ。 あれだけ死なれても彼は動物を飼う事をやめない。 それは愛する事を諦めないという事だ。 だから僕はそんな隼人を好きなんだろう。 「じゃあ僕が死んだら...隼人は僕もここに埋めてくれるかい?」 僕は隼人に聞いた。 僕は隼人にあんな風に泣いてもらいたかった。あんな風に想われたかった。 隼人はマジマジと僕を見つめた後に笑った。 「ダメだね。だって穴を掘る人がいないじゃないか」 僕も笑った。 そうだな。僕達はそうやって二人で穴を掘り死体を埋め続けるんだ。 それが僕達の思い出と絆なんだから。 そして春ごとにここに来よう。 花を見ながら思いを再確認しよう。 僕はそんな隼人だから好きなんだと。 風が吹いた。 綺麗な花吹雪が僕達を包む。 僕は降りそそぐ花弁を見て満足した。 |
|||||
| もどる | |||||