「宗は頭が良いよ。本当に。どうやったら君が熱くなるか判ってるみたいだよ。
今日もついさっきまで真人君とここに居たのに6時間目の鐘と共に帰ったからね。
君の授業が一つ多いのを使った良い作戦だね。」
俯いて黙ってそれを聞いていた水城が顔を上げて不適に微笑んだ。

「今の今までここに居たって事だな?」
「そうだけど。まさか追いかける気?あの二人自転車だからとても間に合わないよ。」
そう言う拓真の言葉半分に水城は廊下へと走り出していった。
唖然とする拓真の前で再びドアが開く。今度は和志が立っていた。

「水城もう来た?」
その発言に拓真が苦笑する。
「君が水城を焚き付けたの?お陰でドロドロ三角関係になりつつあるよ。僕は宗を応援してたのにな。」
「へえ、でも残念。僕じゃないよ。宗が昼休みに水城に絡んでたからね。でもそうだな、君が宗を応援するなら僕は水城の応援でもしようかな?」
言って二人で笑った。そしてその後、二人で真剣な顔をする。
「真人君良い子だよね。彼の事であの二人上手くいくようになると良いんだけどね。」

6月の青空を窓越しに眺めながら和志が呟く。
「まったくだよ...。」






真人は爽快に自転車を漕ぐ。瑞々しい緑の木々と青空を背景に2台の二輪車は進む。
ロードレーサーを漕ぐ宗一郎を追いかけるように真人は風を切る。
振り向いて宗一郎が言う。

「公園寄ってくよ」
返事もしないうちに宗一郎は公園へと向かう道に入る。真人は何も言わずそれに続く。

そしていつもの木陰のベンチにジュース片手に座る。
今日の宗一郎は放課後に生徒会室で会った時からやけに寡黙だった。
公園に来てからも何も言わずにずっと何事か考えていたようだったが急に話しだした。

「なんか俺ってさ、学園のアイドルなんて言われてる割に格好悪いだろ?」
急にそんな事を言いだした宗一郎に真人は驚く。
「そんな事...」
「いや良いんだ。君には初めに正直に言った通りだよ。俺は水城にコンプレックスを持ってるんだ。」


真剣に語る宗一郎の顔を真人はじっと見つめた。
完璧に思える学園の生徒会長がコンプレックスに悩み傷ついている。

「何かを一生懸命努力して、あいつにも手を抜かずに努力してもらって、それで俺があいつに勝てたら俺はこのコンプレックスを克服出来るんじゃないかって思ってるんだ。」
その宗一郎の話に真人も納得する。そうかもしれない。

「だから君には水城じゃなくて俺を選んでほしいんだ。」


その言葉に真人は一瞬何を言われたか判らなかった。
宗一郎の顔を見ると真剣な瞳で見つめられた。鼓動が早くなる。


「俺、真剣に真人の事が好きだよ。だから水城じゃなくて俺を選んでほしいんだ。」


その告白に体が硬直する。逃げ出したいのに宗一郎の強い瞳に絡み取られて動けない。
以前の告白は冗談交じりだったが今回は宗一郎はニコリともしなかった。
そのまま宗一郎の顔が近づいてくる。手に持っていたジュースが転がり落ちて地面に流れ出る。

一瞬キスされるのではないかと真人は身構えたが宗一郎はそんな真人をやさしく強く抱きしめた。
真人は何も言えずにただ抱きしめられていた。




タイミングが悪い事に後から二人を追いかけて学園を出た水城は抱き合う二人を遠目から発見する事となった。

何がどうなってこんな事になっているのか判らない。
けれど事実として目の前で真人が宗一郎に抱きしめられている。水城の胸は潰れそうに痛んだ。
悔しくて情けなくて泣きたいような気持ちになった。
水城は深い後悔と絶望を抱えたままそっとその場を立ち去った。









翌朝。いつもの場所で真人は水城と会う。
宗一郎には「返事はいつでも良いから」と言われていた。だからじっくり考えるつもりでいた。
取りあえずは今まで通りの関係を維持するつもりで宗一郎とも水城とも同じように接しようと考えていた。
昨日一晩考えた結果がこれだった。だからいつものように明るく水城に声をかける。

「おはよう」
「...ああ」

いつもと違いそっけない水城の返事。
真人の頭の中に疑問が浮かぶがそのまま習慣通りに自転車を降りる。
なんだかいつもよりも真剣な顔の水城にドキリとする。
ヘタに顔がキレイな分真顔で見つめられると怖い位だ。


ほとんど会話らしい会話をしないまま駐輪場に辿り着く。
自転車にチェーンをつけ終えると真剣な水城の瞳とまた出会う。

「何?なんか水城ヘンだな。俺に何か言いたい事でもある?」

その言葉に水城の唇が開く。そんな小さな動きでもキレイだよな。こいつって。
そう思ってその唇から目が離せずにいた。
だからその唇が近づいて来ても実際にその唇が自分のそれに重ねられた時も何が起おこったのか理解出来ずにいた。数秒後、我に返った真人は水城を突き飛ばす。

「わ、な..今キス..した?」

真っ赤になって真人は右手の甲を唇に当てた。心臓が破裂しそうにドキドキする。

「うん。そうキスだよ。」
言って水城は軽く笑った。
「バカ!キスだよじゃねーよ。何ふざけた事してんだよ。冗談にもならないよ!」

怒る真人の右手を水城は掴んだ。そのまま至近距離まで再び顔を近づける。
「ふざけてもないし、冗談でもない。」
真剣な水城の瞳から目が離せなかった。


「好きだよ。」


今まで見た事がない位、切なげな瞳で見つめられた。

「本気で好きだよ。だから俺の物になって。他の奴になんか傾かないでよ。」
真人は硬直したように体が動かなかった。
水城の真剣な目を見つめていると何も考えずについ頷きたいような気持ちになってくる。

「わ、ワケわかんないよ。バカ水城!」

そのまま思いっきり腕を引き水城を振り切り真人は校舎へと走った。
心臓が早鐘を打つ。いつもふざけたように話す水城の真顔での告白。
今までの軽い口説きとはワケが違う。真剣な告白だった。
自分はどうしたいんだろう?
水城の事をどう思っているんだろう。真剣に考えなければいけないと思った。
昨日の宗一郎の告白も。二人の事を。真剣に。






午前中の授業はまったく頭に入らなかった。
昼休みにはまた水城が来てしまう。そう思うと今朝のキスを思いだして顔が赤くなった。
どんな顔をして会えばいいんだろう。何を話したらいいのかも判らなかった。

だが昼休みにいくら待っても水城は来なかった。
お弁当に手をつける事なく待っていた真人に桂が声をかける。

「真人、もうお弁当食べよう。今からでも食べないとお昼休み終わっちゃうよ?」

その言葉に真人は我に返る。本当は水城が来るまで待っていたかったが
同じようにお弁当に手をつけずにいる桂を見て真人は諦めをつける。
桂まで付き合わせるわけにはいかない。


放課後。真人は2年の教室に向かう。そっと廊下から水城の教室を覗き見る。
水城は数人の生徒と窓際で会話をしていた。
水城は選択教科が多いから自分よりも1時間分授業が多い。
どうしようか考えていると後ろから声をかけられた。

「真人君?」
振り向くと和志が立っていた。

「ああ、水城はまだ授業あるから帰れないよ。なんて僕もだけど。」
相変わらず人の良い笑顔を和志は浮かべていた。
「そーだ。生徒会室で待ってなよ。どうせまた水城も帰りにあそこに寄るはずだからさ。」
そう言うと和志は生徒会室の鍵を取り出した。

「今日は僕たち2年は全員6時間授業の日だからまだ誰も行ってないと思うから。鍵開けて入っててね。」

そう言うと和志は水城の隣の教室へと消えて行った。
真人はじっと鍵を見つめた。
俺は水城に会ってなんて言うつもりなんだろう?



真人は自分自身に問いかけていた・・・・・・・・。
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