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翌朝。いつもの場所で水城に会う。 もう習慣となっていてまったく違和感を感じなくなっていた。 逆にきっと今はそこに水城の姿がなければ淋しさを感じるのだろう。 ふと気づくと水城がじっと自分を見ている。その熱い視線にドキドキと鼓動が早くなる。 「な、何?」 「真人はもう夏服なんだね。」 じっと見つめられて何かと思ったらそんな事かと思う。季節は六月に入り真夏日もたまにある位だ。 「自転車漕ぐと暑いからさ。」 言いながら真人はふと気になった。何故水城は裏門脇でいつも自分を待っているのだろう。 交通手段は?バス?電車?歩き?第一こんな朝早くから来る理由を自分はまだ聞かされていない。 自分に会う為とも考えたがだったら出会いの日、何故ここに居たのかわからない。 「水城は何通学なの?」 思い切って聞いてみた。水城はニッコリ笑顔で口を開く。 「空飛ぶ絨毯。」 サラリと言われて一瞬何だか判らなかった。またはぐらかされたのだ。 けれど水城の言い方には腹を立てる気にはなれなかった。本人が言いたくない事を無理には聞けない。 真人は無視した。 昼休みになった。また水城がやってくる。だが今度は自分は尋問される側となってしまった。 「昨日、生徒会室に来たって?」 水城が不機嫌なのは判った。 「ちょっと宗ちゃんの仕事手伝ったんだよ。」 「宗ちゃん?」 しまった。と思ったが仕方ない。もうここは開き直るしかない。 「別に水城に俺の友人関係制限する権限なんてないだろ?」 この言葉に水城は黙り込んだ。 「そうだな。..けど俺はお前を傷つけたくないだけなんだ。」 傷つく?何で?どうして?水城が何を言いたいのか判らなかった。 「まあ良いよ。俺は俺なりにお前を守るからさ。」 言って切なげな目で見つめられた。水城と出会ってだいぶたつ。 水城の自分への好意は本物だという事には気づきつつあった。 けれど自分にはそれに対する返事がまだ用意されていないのだ。 水城が帰った後、じっと様子を見つめていた桂が苦笑する。 「真人が何考えてるかわかるよ。俺からしたら贅沢な悩みだよ。」 「かもな。」 言って二人で苦笑した。 放課後。5時間の授業が終わると約束通り真人は生徒会室へと来ていた。 真人がドアをノックして開けると中には宗一郎と拓真が居た。 「お、待ってたよ。」 言って宗一郎は相変わらずのさわやかな笑顔を向けた。 見るからに誠実で熱血漢という感じの宗一郎の笑顔は水城とはまた違った魅力に満ちていた。 「昨日の残りのお菓子あるから真人君食べちゃってくれよ。」 言って拓真はコンビニの袋を広げた。真人の顔が見るからに嬉しそうな顔になる。 「やったー。超幸せ!」 そんな真人を宗一郎も嬉しそうな顔で見る。トンと机の上に500ミリペットボトルがのる。 「これは俺からの今日の差し入れ。」 「え、良いの?てか俺今日は何手伝うの?」 その真人の発言に二人は笑い出す。 「いや。今日は何もないよ。ただ俺からの真人への貢ぎ物だよ。」 その宗一郎の発言の真意は考えないで置いておいて真人はその差し入れをありがたく頂いた。 何も仕事がないと言った通り今日は本当に三人で雑談だけをしていた。 真人はそれ以来ちょくちょくと生徒会室に顔を出した。 何か仕事を手伝う事もあれば何をするでもなく話して帰るだけの日もある。 実際に会うまでは偏見を持っていて一生かかわる事なんてないと思っていた生徒会のメンバーとも今では親しくなってきていた。 それとは逆に6月に入り梅雨も始まると自転車で来る日が減った。 さすがに雨の日は真人も自転車では来ない。だから自然と朝水城に会う機会が減る。 多少寂しいと思うのは自然な事だろうと思う。別に変な意味で好きなんじゃないと真人は思う。 それに結局は毎昼休みには会っているんだから寂しいも何もないのかもしれない。 その日は晴れていて久しぶりに自転車で学園へと向かう。 いつもの場所に水城が居る。久しぶりに見る朝の水城は眩しく見えた。 水城は手に何かを持ってそれを軽く投げては受け止めるという事をしていた。 近づいて自転車を止めると真人は聞いた。 「それ、何?」 言われて水城はあわててそれをポケットにしまいこんだ。 無意識に手の中の物を弄んでいたのだろう珍しく水城が動揺していた。 「...内緒。」 また内緒?と思ったがそれ以上突っ込んで聞くのはやめた。 どうせ水城に上手くかわされてしまうのは判っていたから。 それにしても朝の水城には内緒が多いなと思う。何か秘密でもあると言うのだろうか。 先程の物は何かキーホルダーのように見えたけどそんなに隠すような物だろうかと思った。 キーホルダーと言えば鍵だが、何か特別な鍵を水城は持っているという事だろうか? それは自宅とは違う鍵?どこの?誰の家の・・・・・? 誰・・・・?恋人の・・・家の・・・・だから朝早く学校に居るのか?恋人宅からの通学? 考えた途端ズキリと何故だか胸が痛んだ。 けれど結局はすべてが憶測でしかない。真人はこれ以上考える事をやめた。 横目で見ると水城はすでに何事もなかったように自転車を押して歩いていた。 昼休みに真人は生徒会の人間の事を桂に話していた。 誠実でやさしい宗一郎。クールで冷静沈着な拓真。人当たりの良い和志。 それに本来はここに水城が加わるのだ。今まで一度も生徒会室で会った事はないけれど。 「それにしても意外だよ。だって真人って金持ちコンプレックスだっただろ。それが金持ちの代表ていうか、学園の代表の生徒会の人達と仲良くなるなんてさ。」 その言葉に真人は赤面する。そう、偏見を持っていた自分が恥ずかしい。 「だって仕方ないじゃん。付き合ってみたらみんないい人なんだから。そうだ。今度は桂も生徒会室に遊びにおいでよ。そしたら俺の心境の変化も判るよ。それに何げに和志さんて漫画とか好きだから桂と話合うと思うよ!」 机の向きを変えながら真人は桂に言った。水城はまだ来ていない。 「そうだね。真人の話を聞くと思ったより親しみやすそうな人達だよね。今度行こうかな?」 「なんの話?」 急に水城が現れて真人はドキリとする。 水城の忠告を無視して秀一郎に会っている手前あまり水城の前では生徒会の話をしないようにしていた。水城もあの時以来真人の友人関係には干渉しない。 けれどよくよく考えてみたら水城は立派な生徒会役員。しかも副会長だ。 そこまで生徒会の会話に触れないのもおかしな気がした。 だから思い切って言ってみた。 「生徒会のメンバーの話。だいたい水城副会長なんだからたまには顔とか出したら?」 水城は考えるような表情をした。 「俺、宗一郎にはあんまり会いたくないんだよな。すぐケンカになるし。あいつガキだから。でも真人が誘うんならたまには行ってもいいかな」 覗き込むように顔を近づけて見つめられてドキリとする。こいつの真顔は心臓に悪いと思う。 昼休みが終わり水城が教室に戻ると一番会いたくない人物がそこにで待っていた。 「久しぶり。最近まったく生徒会室にも顔出さないからどうしてるかと思ったよ。」 宗一郎の発言に水城は平静さを装って答える。 「別に。俺も忙しい体だからさ。それにお前と違って俺は自信があるからいちいちお前らの行動チェックしなくても構わないんだよ。」 内心「お前と真人が仲良く話してる所なんて見たくないんだよ。」と思うが口に出しては言わなかった。 だから宗一郎は水城の言った表面の言葉をそのまま受け取る。 またも自分は空回っているのだろうか?そう思うと宗一郎を焦らせた。 「相変わらず余裕なんだな。でもその余裕ももう終わりだよ。俺はそろそろ勝負に出るよ。」 その言葉に水城はかつてない衝撃を受けた。 こんなに性急に宗一郎が事を進めるなんて思っていなかった。 もう真人の心は自分にあると確信しているのだろうか? 水城は全身に冷や汗をかいた。 チャイムが鳴り宗一郎が立ち去っても水城はそこに立ちつくしていた。 放課後。真人はいつものように生徒会室へと向かった。ノックしてドアを開ける。 中には宗一郎と拓真が居た。 「ねえ、今度俺の友達の桂を連れて来ても良い?」 真人が言うと宗一郎も拓真も歓迎するよと言ってくれた。それだけで真人は嬉しくなった。 「そうだ。水城の奴にもたまにはここに顔出すように言っておいたよ。」 一瞬宗一郎の顔が曇るが何も言わなかった。変わりに拓真が答える。 「わざわざすまないね。ウチの副会長がお手数をおかけして。」 その後も真人と拓真の会話は弾んだが宗一郎は考え事でもしているようで あまり会話に参加してこなかった。 キーンコーン。 6時間目の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。と、宗一郎が立ち上がった。 「真人、そろそろ帰ろう。」 特に断る理由もないので言われるまま真人も鞄を掴む。 「あ、じゃあ拓真さんまた!」 言って真人はお辞儀をして部屋を出る。拓真は片手を上げてそれを見送る。 そのままドアが閉まってから約一分間位拓真はドアをじっと見つめていた。と、ドアが勢いよく開く。 「真人は居るか?!」 叫びながら入って来たのは水城だ。 「残念。あと一歩だったね。」 拓真がクールな顔に笑みを浮かべながら言う。水城は悔しげな顔をする。 「やっぱ、あいつ来てたのか?」 「うん。彼はおもしろい子だね。君達が気に入るのもわかるよ。」 その発言に水城が睨む。 「大丈夫だよ。僕は見て楽しんでるだけだから。君達の問題に口挟む気もないしね。」 その発言を水城は黙って無視する。 |
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