その言葉に真人は赤面して硬直する。実は水城の本気が痛い位に伝わってきていた。
そんな真人の様子をじっと見ていた宗一郎がすっと身をかがめる。
そして真人のすぐ目の前にその顔を近づける。
そのあまりの至近距離に驚いて逃げようとする真人に宗一郎は言う。

「もう水城の事が好き?もう俺の事好きにはなってもらえない?」
その告白に真人は驚き硬直してしまった。

「そんなにビックリしないでよ。そうだ。ねえ、まずは友達になろう。友達にはなってくれるよね?」
その告白は本気なのか冗談なのか判断がつかなかった。
「友達にもなってもらえない?」
判断のつかないまま真人はそうやく首を振る。
「よし!じゃあまずは明日。放課後に図書室の前で待ってるから!」
「え?」
宗一郎は言いたい事だけ言うとロードレーサーへと向かって歩き出した。
「じゃあ明日!」
真人が断る間もなく宗一郎は颯爽とロードレーサーに跨り走り去っていった。






翌朝。いつもの場所に水城が待っている。
昨日の事を言おうか悩んだが結局真人は水城に言い出す事が出来なかった。
昼休みにそれとなく探りを入れてみる事にした。
「水城はなんで宗..鳥羽さんの事嫌いなの?」
「....。」
「何で?」
覗き込んで真人が聞く。桂は黙ってそれを見つめている。
「...あいつウザイんだよ。すべてにおいて俺と争って勝たないと気が済まないんだよ。」
その言葉は何故か真人の心に引っかかった。


ライバルと噂される二人の男の葛藤。宗一郎は水城が自分の事をライバルとも思っていないと言った。
けど実際水城は宗一郎を意識しているんではないだろうか?

そう考える真人に次の瞬間水城はニッコリ笑顔を向ける。
「まあ、あんな奴、俺はまったく相手になんかしてないけどな。一人で勝手に空回ってれば良いんだよ。」

その水城の言葉にますます昨日会った事、今日の待ち合わせの事を言いにくくなってしまった。
それに考えてみれば水城が宗一郎の事を嫌いだろうがそれで自分が宗一郎の事を嫌ったり友人付き合いやめるっていうのもおかしい。

自分でその人物を見てつき合うかどうかの判断をする物だ。
例えば水城が桂を嫌いだと言ったからといって俺は桂との付き合いをやめたりはしない。
宗一郎に関してもそうだ。

考えを再確認した真人はそのまま水城には何も言わずにいた。
やがて昼休みは終わり水城は2年の教室へと戻って行った。






放課後。真人が図書室へ行くとドアの前に宗一郎は立っていた。
「良かったよ。君が来てくれて。」
ニッコリ笑顔で言われた。さすがに昨日の誘いは強引だったと思っていたようだ。
「誘っておいてあれなんだけど、俺今日ちょっと生徒会の仕事が残っていて
手伝ってもらっても良いかな?」
「え?」
言いながらも宗一郎は真人に有無を言わせず引っぱるように歩き出した。


廊下を歩き、生徒会室と札のついた部屋の前まで辿り着く。
もちろん真人にとっては生徒会室なんて未だかつて一度だって来た事がないような所だ。
そもそも金持ちコンプレックスなのだから金持ちの代表のような生徒会には関わりたいとも
思っていなかった。
漫画やドラマで見るような恐ろしく意地の悪い嫌味な人間が居るのではないかと内心考えていた。
真人は緊張の面もちで中に入る事になる。


宗一郎がドアを開けると中には会議机が真ん中にでんと置かれていた。
その奥の窓際に美貌の少年が立っている。

「誰?」
「羽路真人君。」
「ああ。」
少年は納得すると微笑んだ。氷のようにクールな美貌の少年だった。

「こいつは生徒会会計の冴木拓真。他に書記が一人いる。あとは副会長の水城と会長の俺。
いつもこのメンバーしかいないから真人も暇な時はいつでも遊びにおいでよ。」

宗一郎はニッコリと微笑んだ。
真人は横にいる拓真とそして今この場にいない水城の顔を思い浮かべる。
なんて美形ばかりなんだと気が引けてくる。
今まで生徒会に興味がなかったのでメンバーの顔すら覚えていなかったのだ。

「なんかヤケに生徒会ってカッコイイ人ばかりなんですね。」
「この学園の高等部の生徒会は役員推薦の投票制だからね、事実上の人気投票なわけだよ。
だから集まるメンツもこんな感じなわけ。」

拓真の説明に真人は納得する。これじゃまだ見ていない書記もかなりなものなんだろうと予想が着く。
「まあ、来年は間違いなくこの中に真人が加わると俺は思うね。」

言って宗一郎は真人の顔を覗き込んだ。真人は一歩後ずさる。
この中に自分が居るなんていうのは場違いな気がする。勘弁してほしい。

「もし選ばれた場合辞退とか出来ないんですか?」
その言葉に一瞬宗一郎の顔が曇る。それを横目で見ながら拓真が答える。
「基本的には出来ないよ。ただ裏工作する事は出来るけどね。」

拓真の説明に真人は裏工作?と考える。相変わらず宗一郎は暗い顔をしている。
それを拓真は無視して話す。
「要は推薦された時点で当の本人が自分に投票するなって周りに言うわけだよ。
たいていの人間は本人の意思を重視して他の人間に投票するよね。」
言われて真人は納得した。

「だから俺が会長で水城が副会長なんたよ。」

今まで黙っていた宗一郎が口を開いた。その言葉に真人は衝撃を受ける。

水城は会長を辞退したって事か。でもそれってどうなんだ?
正々堂々と勝負して選ばれた会長、副会長じゃないなんて。
そんなの宗ちゃんからしたらおもしろいワケないよな。


真人は昨日宗一郎が言っていた話を思い出した。自分とほぼ何もかも互角でありながら実際は水城の方が一歩上をいっている。そしてその余裕ぶりで会長を辞退したりする。

これはいざ自分がされたらかなりキツイなと思う。たいがいの人間はプライドはズタズタになるだろう。
宗一郎と水城の確執は深い物なのだと想像がつく。
けれど宗一郎が水城を嫌っていないで水城が宗一郎を嫌いだと言うのは何故なんだろう?
普通は逆じゃないか?真人は考えこんでしまった。
そんな真人の手を宗一郎はいきなり掴んだ。

「この中初めてだろう?案内するよ。」
言って宗一郎は左側手前のドアを開けた。
「ここは資料室。」
中にはたくさんの本やアルバム等がキレイに書棚にしまわれていた。そして宗一郎は次のドアを開ける。
「ここは俺、会長の執務室。一応俺専用の仕事場だから俺と二人っきりになりたかったらここにおいでね。」
真人ならいつでも大歓迎だよ、という宗一郎にどこまで本気なんだかと思う。
部屋をグルリと見渡す。会長用の机と本棚位しかないシンプルな部屋だった。

「で、ここがさっきの入り口の部屋。まあ見た通り会議室兼作業室。で、こっちが...。」
残る最後のドアを宗一郎は開けた。そこは思いもよらない部屋だった。
「ここは放送室と繋がっているんだ。」

中にはあまり見た事がない機械等が並んでいた。
ガラス窓のある防音室が更に奥にあるのが見える。あと廊下側から入る為のドアも目に入る。

「生徒会と言えば学園内テレビ放送とかもあるからな。」
真人はまだそれを見た経験はなかったが確かに高等部にはそれがあると噂には聞いていた。
なるほど放送室かと納得した。物珍しい部屋の連続に真人はすっかり興奮していた。

「で、今日の俺のお仕事はこのプリントのコピー作成なんだけど真人手伝ってくれる?」
先ほどの会議室の机の上に拓真がプリントを並べている。
「って雑用なの?生徒会長がわざわざ?」
宗一郎は苦笑した。
「そういう物だよ。会長なんて。」
「他の人は?水城とか。」
「水城なんてよっぽどの事がないと来ないよ。最近特に放課後なんてまったく来ないね。何やってんだか知らないけど。あ、書記の橘和志は後で来ると思うけどね。」

真人は作業を手伝う事にした。まったく水城って要領がいいんだなと本当に思う。
雑用は上手くかわしてそれでいてみんなに好かれているんだから得な性格と言える。
逆に宗一郎は真っ正直すぎてこんなところ不器用で損しているな、と思う。
だがそれが宗一郎の魅力かもしれない。


作業は黙々と一時間位続いたが意外と楽しいものだった。紙を束ねてホチキスで閉じるとう単純作業。
こういう工場作業を自分はけっこう好きなんだなと自覚した。
途中で書記の橘和志が加わったが彼は思ったより普通のルックスでその変わりとても人当たりの良い人なつこい性格の人間だった。

「はい。お疲れさまでしたー。」
和志は言って目の前の会議机にコンビニの袋をドサリと置く。
中からはジュースとお菓子がたくさん出てくる。
「今日は真人君が手伝ってくれたから会長が大奮発だよ!」
「まあな。後で経費で落とすけど。」
そう言う宗一郎に拓真が釘をさす。
「公金横領は許しませんから。」

部屋中から笑いが起こった。真人は居心地の良さを感じていた。
思っていたよりも生徒会の人間は感じが良くて一緒にいて楽しい人達だと思った。
そして変な想像をして別世界の人達だなんて偏見を持っていた自分を恥ずかしく思った。





帰りは宗一郎と一緒に自転車で帰った。
あの後もお菓子を食べながら雑談してしまいすっかり遅くなってしまっていた。
辺りはすっかり暗くなって空には微かに星が瞬いていた。

「遅くまで付き合わせて悪かったな。」
ロードレーサーを漕ぎながら宗一郎は言う。
「いえ。すごく楽しかったです。」
本心から真人はそう思っていた。
「良かったよ。じゃあまた生徒会室にいつでも遊びにおいでよ。俺が個人的にお菓子用意して待ってるからさ。それにそうしたら帰りは一緒に帰れるだろ?」

その言葉に真人は微笑んだ。それも悪くないと思っている。
水城には近づくなと言われたが宗一郎も他の役員もすごく魅力的な人達だと思う。
自然とそんな人達に惹かれてしまうのは仕方ないだろう。

「じゃあ、また明日でもお邪魔します。それじゃあ。」
言って真人は宗一郎と分かれ道で別れた。


宗一郎はそんな真人の姿を見えなくなるまでロードレーサーに跨ったまま見つめていた。

「賭には俺が勝つよ。絶対。」

宗一郎は険しい顔でポツリと呟いた。その言葉は誰にも聞こえる事なく夜の闇に解けて消えていった。