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二人は学校近くの公園へと来ていた。 公園と言っても敷地内にグラウンドやテニスコート等がある大きな市民公園だった。 真人も初等部の頃からよく来た事がある場所だった。 その広い敷地内の道を真人はロードレーサーを走らせる。 新緑の中を走る。大きく横にのびた枝が頭のすぐ上に触れるようにおい茂っている。 新緑の独特の青臭さがする。 ロードレーサーは全力で走らせると自分の普通の自転車より10キロ以上は速いのではないかと思えた。真人は時に早く時にゆっくりと思うままペダルを漕いだ。 やがてその広い公園内を2周ばかりして真人はロードレーサーを停めた。 木陰のベンチで休んでいる宗一郎へと近づく。 「すいませんでした。なんか長々とお借りしてしまって。」 「いいよ。楽しんでもらえたみたいで俺も嬉しいし。それにゆっくり昼寝が出来て大満足だよ。」 言って宗一郎は笑った。 木漏れ日が斑に顔に影を作っていたがその美しさは少しも損なわれる事はなかった。 真人は宗一郎に促されるままベンチへと腰を下ろした。所在なげに芝生を見つめる。 真人は緊張していた。美形は水城で慣れている、とは言っても隣に居るのは今まで話した事もない人間でたいそうな学園の有名人だった。今まで生徒会の人間なんて別世界の住人だと思っていたのにその会長が隣に居るのだ。 最近どうも何か調子が狂うな、と思う。 水城と出会った事で大きく自分の人生が変わりつつあるような気がするのだ。 ふと視線を上げると目の前に覗き込む宗一郎の顔があった。ひどく動揺した。 「な、なんです?」 マジマジと宗一郎は真人を見つめた。 「...。イヤごめん。顔に木漏れ日が当たって眩しそうに見えたから。俺が日除けになれればって 思ったんだけど。」 よけいなお世話だったかな?と宗一郎は苦笑した。真人はその気遣いになんだか照れくさくなった。 「気なんか使わなくて良いですよ。俺女の子じゃないしぜんぜんガサツな奴なんで適当に ほっといて下さい。」 宗一郎は「そうか」とだけ口にした。 本当は君に見惚れていたんだよなんてとても言えないな、と思いながら。 帰り道を二人で並んで自転車で走った。偶然にも帰り道が途中まで同じ方角だった。 分かれ道で真人は一旦停車した。 「今日はありがとうございました。俺こっちなんで。じゃあ!」 言って走り去ろうとする真人に宗一郎は声をかけた。 「また、機会があったら一緒に帰ろうな!」 真人は振り返って手を振った。嬉しかった。誰かと一緒に帰ったのは本当に久しぶりだった。 同じ方向。同じ自転車通学。そんな事はこの学園では奇跡かもしれなかった。 宗一郎との出会いは奇跡だと、その時の真人はそう思っていた。 毎朝の恒例となった水城の待ち伏せ。真人は水城に会うと自転車を降りて押して歩く。 だが気が付くといつもその自転車は水城が押して歩いている。ごく自然に水城は真人に気をつかう。 女の子じゃないし自分で押すと言っても水城はそれをやめなかった。 「そーだ。昨日ある人に会ったんだぞ。俺。」 真人は宗一郎の顔を思い浮かべながら言った。二人は同じ生徒会。しかも会長と副会長だ。 もちろん知り合いのはずだ。そう思って口にした事だった。 「なんとあの!生徒会長の鳥羽宗一郎さんだよ!」 その瞬間水城は硬直した。自転車ごとその場に立ち止まる。 「会ったのか?あいつに...。」 真人は水城を振り返る。その水城の表情の硬さにドキリとする。 けれどなぜ水城がそんな顔をするのか判らない。 「ああ。良い人だよな。昨日一緒に自転車で帰ったんだ。 彼は水城と違って意地悪しないし、やさしいし...」 言いながら真人は水城のその表情の変化に言葉を失った。かつて見たことない程険悪な顔をしている。 「...もしかして仲悪いのか?」 水城は無表情に答えた。 「ああ、そうだよ。俺はあいつが大嫌いなんだよ。」 その言葉に真人も言葉を失う。 なんでだよ。いい人じゃないか。そう言いたいのに言葉が出てこない。 水城が自転車を停めて真人に近付く。そして真人の両肩を力強くつかんだ。 覗き込むように顔を近づける。 「いいか。あいつの言う言葉は一切信じるな。何を言われても無視しろ。俺の言葉以外信じるなよ。」 その真剣な表情に真人は顔を逸らす事が出来なかった。心が吸い込まれそうになる。 それに抵抗するように真人は言葉を紡ぎ出す。 「理由は?なんでだか理由を言えよ。でなきゃ納得なんて出来るわけないだろ?」 その言葉に今度は水城が言葉を失う。真人はしばらくじっと水城を見つめ言葉を待った。 けれど水城の口は開くことはなかった。 「なんだよ。言えない理由じゃ納得出来ないからな。」 そう言って真人は自転車を水城から奪い取ると駐輪場へと向かった。 水城は追いかけてこなかった。真人は追いかけてくるのではないかと期待していた自分に気がついた。強引で自己中の水城。そんな水城が嫌いじゃなかった。けど今回の宗一郎の件は納得がいかなかった。理由もなく人の言う言葉を信じるななんて納得が出来るわけがない。 自分はこれでも人を見る目はちゃんとあると信じている。 ただ自分が嫌いだからってだけでそんな事を言う水城の方がおかしいと思う。 「って水城の事良い奴だと思ってた俺の人を見る目が間違ってるのか?」 その真人の独り言は5月の空に吸い込まれていった。 昼休みになった。教室の生徒のほとんどが食堂へと消えていく。 残った数人が適当にお弁当箱を広げている。いつもの風景だ。 真人と桂はいつものように机をつけて食事をしている。けれど真人の心は落ち着かないでいた。 いつもならとっくに来ているはずの水城が来ない。 今朝ケンカ?をしてしまったから来ないつもりなんだろうか。 いつも必ずいる水城の姿がない事で真人はひどく不安になっていた。 「どうかした真人。浮かない顔して」 桂に訪ねられた。 「あ、イヤ何でもないけどさ。なんか水城の奴遅くないか?」 「え、いつもこれ位の時間には来てたっけ?すぐ来るんじゃないの。まだ昼休み半分以上残ってるよ。」 桂に言われて気がついた。そうだ。水城はいつもちゃんと食事を済ませてからここへ来ている。 たまたま今日は食堂が混んでいるのかもしれない。 けれど今朝の真剣な水城の表情を思い出すと今日はもう来ないのではないかと思える。 自分は水城を怒らせたんだと暗い気持ちになる。 「いつもはさ、このお弁当箱のご飯のここ!まで食べた頃にあいつ来るのにさ、今日はもう半分食べ終わったんだよ。やっぱもう今日は来ないんじゃないかな。」 真人は箸でご飯を指しながら力説した。 「おもしろい時間の測り方だね。」 真人は真剣に話したつもりだったが桂には伝わらなかったようだった。 ガララ・・・・。その時教室のドアが開いた。 「ごめんね、真人遅くなってさ。」 今朝の事など何もなかったような顔をして水城が目の前の椅子に腰を下ろした。 ニコニコ顔で真人を覗き込む。 「寂しかった?」 カーっと顔が赤くなった。作戦だったとでもいうのかよ?そう思いながらも黙っておく。 「寂しいわけないだろ!バカ水城!」 真っ赤な顔で言っても説得力がなかった。 隣で桂が笑っていた。 「どーだった桂君。」 「いやもうご想像の通りですよ。水城さんが来るまで心ここにあらずって感じでしたよ。」 「そっか。良かった。」 言って水城は笑った。その笑顔に真人はほっとした。暖かい気持ちが湧いてきた。 さっきまで水城とケンカをした、怒らせたと思って沈んでいた心がスーっと軽くなった。 こいつの笑顔には心を溶かす魔法があるみたいだと真人は思った。 「いつも水城って食堂行ってるの? 」 「イヤお弁当だよ。でなきゃこんな時間にここには来れないよ。 食堂なんて行ったら時間かかって仕方ない。」 食堂は広く清潔でほとんどの生徒が使用している。けれど確かに食堂を利用すると移動時間、いくつかのメニューから選び席まで運ぶととにかく時間がかかる。 「でもお弁当にしてもここに来るのやけに早くない?」 真人の問いにニッコリ笑顔で水城は答える。 「だって少しでも早く真人に会いたいし長く一緒に居たいからね、 味わう事もなくダッシュで食べて来てるよ。」 その言葉に一緒にいた桂と二人して赤面してしまった。 「真人、愛されてるな。俺すごい邪魔かも」 「何言ってるんだよ桂!お前がいなきゃ俺イヤだからな!」 桂は俺の心のオアシスなんだからと言う真人に水城は微笑む。 そんな水城と目があってまた真人は真っ赤になる。 「水城もさ、そんなにあわててお弁当食べるなよ。せっかくお母さんが作ってくれたのに味わって食べなきゃかわいそうだろ!」 「あ、それは大丈夫。うちは家政婦さんが作ったお弁当だからさ。」 そのセリフに真人がニラむ。 「家政婦さんだって一生懸命作ってくれてるわけだろ。同じだよ。 ちゃんと味わって食べてあげないとかわいそうだろ!」 その言葉に水城は衝撃を受けた。そんな風に考えた事は1度だってなかった。 ゆっくりと湧き出るように水城は微笑んだ。 「お前って最高。」 その笑顔とセリフに今度は真人が当惑する。なんだよ、下手に笑うなよ、ただでさえその顔にその笑顔は反則なんだよ!そう思うが口にしたのは別の言葉だった。 「ここまで持ってきて一緒に食べれば良いのになんで水城食べてくるの?」 真人からしたらずっと思っていた事だった。一緒に食べれば良いのにと。 「え、良いの」 「良いのって?」 真人は聞き返す。 「だってそこまでしたら悪いかなとか、邪魔かなとか思って遠慮してたんだけど。」 その言葉に真人は脱力した。今更何言ってるんだと思う。いつもいつも強引なくせに。 変な所を気遣うんだなと笑みがこぼれた。 「なんか、真人に笑われた。なんとなく不本意だな」 そのセリフに真人も桂も笑い出してしまった。 真人はすっかり今朝の出来事を忘れ去ってしまっていた。 なんでこの日水城が遅く来たのかという事も詮索する事もなく。 すべて自分と関係がある事だったのだという事は後々になって知る事となる。 |
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