都野守水城。政治家の父を持つ。容姿端麗。頭脳明晰。運動神経抜群。生徒会副会長。
学園で1.2を争うアイドル。1.2?そう鳥羽宗一郎と1.2を争っているらしい。

鳥羽宗一郎の事はさすがの真人も知っていた。
知ってると言っても入学式での生徒会長による新入生歓迎のスピーチを聴いたというそれだけの事だ。
もちろん口を利いた事もないし近くで見た事すらなかった。
生徒会なんていう物もその時の真人にはまったくもって縁のない物だったし興味の対象外であった。
元々真人は金持ちコンプレックスを自負していたし、この学園にも馴染んでいないのではないかと
思っている。そんな真人にとって生徒会なんて言うのはコンプレックスの対象でしかなかった。

けれど人の人生という物は、たった一つの出会いで転がるように変化していくものだと
真人はこの後知る事となる。







新緑の中、いつものように真人は自転車を漕いでいく。
ほとんどの生徒が電車やバスを使って登校している為、道はいつもガラ空き状態だ。
しかも真人は裏門を使用している為、見渡す限りに学園の生徒はまったくいなかった。
門までの最後の曲がり角に差し掛かった。真人はスピードを落とした。
昨日あやうく水城とぶつかりそうになった場所だ。また誰が居るとも判らない。用心して角を曲がった。

キキキーッ!!
真人はブレーキを引いた。曲がった先の塀に水城が寄り掛かっている。

「おはよー。」
水城がにっこり微笑む。
「なんで居るんだよ?だいたいそんな所に突っ立ってたら危ないだろ」
真人は睨みながら言った。
「危なくなんてないよ。ちゃんと距離見て立ち位置は選んだからね。
ああ、でもまた何もない所で真人がひっくり返る可能性はあるか。悪かったな。」

完全にバカにされている!真人は無視して通りすぎる事にした。
ペダルに足を掛け漕ぎ出そうとした瞬間、水城にハンドルを押さえられた。

「一緒に行こうよ。」
またも水城はニッコリと笑った。この笑顔にはとても勝てなかった。
結局一緒に歩いて駐輪場へと向かう事となる。

「真人はずいぶんと早い時間に登校するんだな。」
歩きながら水城が話し出す。
「ああ。毎日同じ時間に起きてるんだ。朝起きて天気が悪かったら電車だから。
電車の方が時間かかるから自転車で来る日は余裕が出来るわけ。」

だから昨日のように不慮の事態が起こっても対処が出来る位の時間があるのだ。
「真人は真面目な優等生だな。普通は起きて天気が良ければ二度寝だよ。」
「そうかな?でもなんか二度寝なんて怖くて出来ないだけだから単に臆病者かも。」

水城はクスクスと笑った。それを見ながらが逆に真人が質問をした。
「じゃあ、水城はなんでこんな早い時間に居るワケ?」
「....」
水城は困惑した顔をした。おや?っと思った。けれど水城は次の瞬間にはまた微笑んだ。
「内緒!」
「なんだよ、昨日の俺のマネかよ。」
一瞬の水城の表情にその理由が気にはなったが真人は詮索しない事にした。

駐輪場に辿り着き、真人は自転車を頑丈なチェーンでガッチリとバーに固定をした。
その様子を水城はじっと見つめている。

「大切にしてるよな。」
真人はえ?っという顔で水城を振り返った。
「自転車。そう新しくもなさそうだけど?」
「ああ、中学校の入学祝いに買ってもらったんだ。
いろんな思い出もあるし、中学からずっとチャリ通だから愛着もあるしね。」

無意識にサドルを撫でながら真人は答えた。その様子を水城は目を細めるように眩しそうに見つめていた。

「真人はかわいい顔だし真面目だし物を大切にするし、おまけに勉強の成績も良い。努力家なんだろうな。」
「おいおい、なんだよそれ。だいたい勉強が出来るなんて俺言ってないだろ?」
「言われなくても知ってるよ。この俺を誰だと思ってるんだ?昨日君の事調べた時にすべて調査済みだよ。ちなみに家族構成だって言えるよ」
真人はボーゼンとする。
「な、なんでそんなに俺の事調べるんだよ。ほっとけば良いのに!」

真人は水城に詰め寄るように近づいた。そんな真人を上から見下ろし水城はまた微笑んだ。

「つまり、そんな真人に惚れちゃいそうだなって事!」

言って水城はニッコリ笑った。
瞬間、沸騰したように真人は体中が熱くなった。
きっとまた冗談だ。そう思うのに体の熱が引かない。顔を真っ赤にしながらようやく反撃の言葉を口にする。

「バカ!変な事言うなよ。俺もう行くからな!」
それだけをやっと口にすると真人は1年の校舎へと駆け足で進んでいった。


取り残された水城は黙ってその真人の後ろ姿を見つめていた。
「...けっこうマジなんだけどな。」

一陣の風が吹きブレザーの裾がはためいた。水城は真人の姿が見えなくなるまでそこで見つめていた。





昼休み。予告通り水城はまたも教室にやって来た。

「今日はタコさんウインナーないんだ」
いかにも残念という顔で水城が話しかけてくる。俯いたまま真人は答える。
「俺が作ってるワケじゃないんだから仕方ないだろ!
だいいち俺に強制的に毎日タコさんウインナー食べさせる気かよ!」

テーブルに片手を付いて水城が覗き込んでくる。真人はそれだけで真っ赤になる顔を意識する。
「なんか真人機嫌悪いな。」

お前のせいだろうと言ってやりたくなるのを押さえる。隣には何も知らない桂がいる。
下手に今朝の事には触れたくなかった。どんな突っ込みを受けるか判らない。
「なんだよ、今朝の事気にしてるのか?」

真人は大きく脱力する。ちょっとは周りとか俺に気を使ってくれよと思う。
ただでさえ水城がこの教室に居るというだけでかなりの注目を浴びているというのに。

「何?今朝って何かあったの?」
「な、なんでもないよ!」
言って水城をニラむ。朝一緒に登校してきた事を桂には話していなかった。

「言っておくけど今朝のあれ、別に俺嘘言ったりしてないからな。」

水城に真剣に見つめられて不覚にも真人はドキリとしてしまった。
あわててそんな感情を訂正しようと考える。
こんなキレイな顔でそんな事言われたら普通何とも思ってなくてもドキドキ位するだろう。するよな?
結局真人は水城の言葉を無視した。その間も水城は気にするでもなく真人に話しかけていた。

「今日はなんか真人機嫌悪くて悲しいな。ま、そんな日もあるか。」
水城は勝手に納得している。
「じゃあ、また明日な。」
またも勝手に明日の約束をして水城は教室を出ていった。
そんな二人の様子をずっと伺っていた桂が話しかけてくる。

「なんか真人ずいぶんと気に入られたみたいだな。」
「変わってやろうか?」
その返答に桂は硬直する。

「遠慮いたします。」






結局それからも毎日水城の朝の待ち伏せと昼休みの押し掛けは続いた。
さすがの真人もそんな水城の行動にだんだんとなれていった。

そんな日々が続いたある日。
真人は駐輪場へと向かって歩いていた。自転車通学の生徒は少なく真人はいつも一人で帰宅している。
今日も一人でいつもの道を歩く。多少の淋しさは拭い得ない。

ふと考えてみたら毎日自分に会いにやってくる水城も帰りまで一緒に帰ろうとはしない。
通学形態が違うのだから仕方ないのだけれど。
そもそも考えてみればなんで水城がこんなに自分にかまってくるのか判らない。
まさか本当に惚れたワケでもないだろうと思う。男同士だし。
しかも水城のあの美貌なら相手なんて腐る程いるのだろうから自分である必要性も考えられなかった。

ただ水城の事を好きか嫌いかと聞かれると好きだという事は自覚しないではいられなかった。
もちろん人間性でだ。恋愛感情では断じてない。
ただあの不思議なキャラクターに惹かれているのは確かだった。


考えているうちに駐輪場へと辿り着く。広い駐輪場に自転車は10台弱しか停められていない。
この学園で自転車通学なんて本当に珍しいと言える。

ふと一台の自転車に目が止まった。無意識に近づく。
ピカピカの真新しいロードレーサーだった。
普通の自転車と違いスピード重視の機動力の高いスポーツ用自転車だ。
真人はその美しいボディに見惚れた。
「すげーロードレーサーだ!カックイー」 

真人は更に近づき立ったり座ったり端から端まで眺める。
確か新車では20から25万位するはずだ。さすが金持ち学校だ、などと思っている時だった。

「俺の自転車になんか用でもあるの?」
ドキリと心臓が跳ねた。あわてて相手を確認するでもなく真人は謝った。
「スイマセン。別に怪しい者じゃないんです。
別にいたずらしようとか盗もうとしたワケでもなくて。えっと..。」

動揺した真人は変な言い訳を次から次へと言ってしまった。これじゃ疑ってくれと言わんがばかりである。
と、クスクスと相手の方は笑い出してしまっていた。真人は呆然と笑う少年を見つめていた。
ようやく笑い終わると少年は改めて真人に向き直った。

「ごめんごめん。別に君を疑ったワケじゃないんだ。」

その時真人はその顔に見覚えがある事に気がついた。
強い意志を持つかのような瞳、艶やかな黒髪、引き締まった体躯。水城の美貌に負けない位のその美貌。


「せ、生徒会長?」
動揺の中やっと真人はそれだけを口にする事が出来た。
トバ シュウイチロウ。
過去に一度、遠目で見た事があるだけだったがそのオーラに、やはり噂のその人だと思わせるモノがある。

「ああ。なんだ、俺のこと知ってるんだ。君は確か羽路真人君、だよね?」
「な、なんで俺なんかの事知ってるんですか?」

こんな学園の有名人が何で自分の事なんか知っているのか判らない。

「ああ、だって君有名人だもの。あの水城が毎昼休みに会いに行ってる相手なんだから」
水城の野郎!怒りが沸々とわいてくる。

「君、ロードレーサーに興味あるの?」
え?っと真人は宗一郎を見つめる。

「乗せてあげようか?」
そう言って宗一郎は魅力的に笑った。