10・狂った宴

意気揚々とシオンは学校に登校した。
グレーのジャケットに白いラインの制服は、シオンがデザインした物だった。
それを着て久しぶりに学校に行くのは、気分が良かった。

「お、シオンじゃん! 珍しいな!」

シオンを見つけたクラスメイトが、早速声をかけてきた。
シオンは王子ではあったが、身分にはあまりこだわっていなかった。
専制君主として、暴虐の限りを尽くせる王子の立場にいながらも、シオンはその力と権力を使う事はなかった。
そもそもそんな行いをすれば、神に王子としての身分を奪われるか、消滅させられるか、
何かしらの罰が与えられると分かっているので、しようとは思わなかった。

もしかすると、どこかの星の王子はそんな失敗をして、神の怒りに触れて
消滅しているのかもしれなかったが、それはシオンの耳には入っていない。

「サラ! お前も久しぶりだな!」
クラスメイトは親しげに、サラの肩に手を置いた。
同じ事を先程自分がされた時は何とも思わなかったシオンだが、サラに触れられた瞬間怒りを覚えた。

「これは僕の薔薇だ。勝手に触るな」
「うわ、怖いなー。もう、ちょっと挨拶しただけじゃん」
言うと少年は一足先に教室に向かって走り出した。
シオンは横にいるサラを睨むように見つめる。

「もしかして、エイジにいつも馴れ馴れしくされてるのか?」
「そんな事はないよ」
視線をそらしてサラは答えた。それがシオンは気に入らなかった。

「なんだよ、君は僕だけじゃ満足できないのか? あいつの、エイジの蜜も欲しいと思ってんの?」
「そ、そんな事、僕は……!」
「生意気な口きくつもり?」
言われてサラは口をつぐむと、すぐに頭を下げる。

「申し訳ございません」
「分かれば良いよ、さ、行くよ!」
言って歩き出したが、心は晴れなかった。サラは自分の言う事を何でもきく。すごく従順だ。
なのにどうしてこんなに、何かが胸に詰まったように感じるのか、シオンには分からなかった。

教室に入るとクラスメイトがみんな集まってきた。慕われていると言うよりは、珍しいだけだろうと思った。
それでもみんなに囲まれ、話しかけられるのは気分が良かった。

「最近、スズラン通りに新しいケーキショップが出来たの、知ってる?」
「知らない、何それ? 美味しいの?」
「ああ、そうらしいよ。でもすごく高いらしいんだ。だから今度、シオンの奢りで買ってくれよ」
「なんだよ、クルル、それじゃたかりじゃないか」
「え、ダメ?」
「別に良いけど」
「やった!」
その場が盛り上がった。
ふとシオンはサラの席を見た。すると一人の少年が、サラの机に手をついて顔を寄せていた。

サラは興味ない様子だったが、その背の高い少年スメラが、サラに気があるのは一目了然だった。
シオンの胸がチリリと痛む。

あれは僕の薔薇だ。他の誰も触る事は許さない。

「ね、サラ、最近髪を染めるのが流行っているんだよ。今度君も色を変えてみない?」
「僕は……あまりそういうのは興味がないんだ」
「そうなの? サラなら金色の髪も似合うと思うんだけどな」
「金色?」
「そう、元から髪も細いしさ……」
スメラはサラの髪をひと房掴んで持ち上げた。
シオンの胸が燃えた。殴ってやろうと思って、ふと気付いた。

サラの顔が赤く染まっている。
なんだ、あれは? 自分以外の男に触れられても、サラはあんな顔をするのか? 
いや、そもそも、サラは自分以外に触れられても嬉しいのだろうか? だからあんな顔をする?
胸がキリキリと痛んだ。

いいさ、そういう事ならそれで。
シオンは胸の中で悪態をつきながら、側にいたクルルに声をかける。

「ケーキショップの話だけど、早速明日にでも買って帰ろう。うちに招待してあげるからさ」
「え、本当に?!」
喜ぶクルルに笑みを浮かべる。

「ああ、他にも美味しい物をいっぱい食べさせてあげるよ」
シオンは言いながら、サラとスメラを見つめた。



家に帰ると、シオンはサラを連れて風呂に向かった。
腕を引っ張られて廊下を歩かされながら、サラは訊ねる。

「どうして、急にお風呂に? 手を放してよ。
僕、別にお風呂に一緒に入るの嫌でもないし、逃げないから……」
「ん、ああ。でも今日は逃げ出したくなるかもしれないからさ」
「え?」

そこでようやくサラは、シオンが何か企みを持って、風呂に誘ったのだと理解したようだった。

「君の髪を染めようと思ってね」
「え?」
二人は廊下に立ち止まって見つめあう。

シオンは学校での、サラとスメラの会話を聞いていた。
髪を金色に染めればと言われ、興味がないと答えたサラ。
王子の自分に命令されても、やはりそう言うのだろうか?
じっと見つめていると、サラは頷いた。

「良いよ、それ位」
何故かその言葉に腹が立った。
風呂場まで行くと、シオンは染め薬を取り出した。

「あの、僕、自分でやるよ……」
「いいよ、今日は僕がサービスしてやる。裸になれよ」

命令されてサラは服を脱いだ。そのまま促されて、猫足のバスタブの中に入ると、頭だけを出す。

「ふふ、なんだか楽しくなってきた」
シオンはサラの髪に液体を塗り付けて、頭をマッサージするように揉んだ。
そしてその髪をお湯で洗い流す。
染め薬だろうが何だろうが、サラに触れると、いつだって気分は高揚した。
結局そのまま、シオンも裸になってバスタブに入った。

たっぷりと蜜を与えあい、髪を染め上げてから風呂からあがった。

「うん、やっぱりこの髪も似合うね」
金色に変わったサラの髪を見ながら、シオンは部屋で満足そうに頷いた。

「僕の薔薇は、やっぱりどんな髪の色でも美しい……」
言いながらシオンはサラに口づけ、そのままベッドに組み敷いた。

「ねぇ、サラ、君は僕の事が好き?」
サラの体をまさぐりながら、シオンは訊ねる。
「好き……だよ。もちろん……あっ」
太股の内側を撫でると、サラは甘い声を漏らした。

「そう、じゃあ、僕が何をしても、君は僕の事が好き?」
サラはもう口は開かず、黙って頷いた。その瞳が欲情に濡れている。
シオンはサラの股間を触れるか触れないかの、微妙な指先で煽る。

「僕が何をしても、好きなの?」
「……っ……あぁ……」
感じ入ったようにサラは瞼を閉じて頷いた。
シオンはサラの手を握りしめながら、首筋に口づけた。
それが本当なのか、確かめる。シオンはそう心に決めながら、サラの蜜を味わった。



翌日、学校に現れたサラを見て、友人達はみな驚いていた。
金髪をすすめていたスメラも、サラの予想以上の美しさに溜息をもらしていた。

「まさか、こんなに似合うなんて思わなかった」
「なんか、サラの方が王子様みたいだね」
よけいな一言を呟いたクルルの頭を、シオンは殴った。


放課後、スズラン通りでケーキを買うと、シオンは友人を連れて家に帰った。
その場にいたのはケーキをねだったクルルと、サラに興味がありそうだったエイジとスメラだった。

買ってきたケーキと紅茶を用意すると、五人はサンルームの椅子で暫く話し込んでいた。

「やっぱり、ケーキ美味しいね! シオンの奢りだから、倍増して美味しいよ!」
ご機嫌な様子のクルルにシオンは苦笑する。

「俺はこの紅茶もかなりの物だと思うな。流石はシオン。高い店の紅茶飲んでるんだなって感じ。
それにプラスしてこのカップ。これ一客いくらだよ?」
カップを持ち上げて感嘆の声をもらすエイジの横で、スメラが同じくカップを持って言う。

「これを淹れた、サラの腕も良いと思うよ。絶妙の味だよ」
あくまでサラを褒めるんだな、こつは。そう思いながら、シオンはサラに声をかける。

「サラ、食べさせて」
その一言に、友人達の視線がシオンに注がれる。
サラは動揺した様子もなく、いつものようにフォークでケーキをすくうと、それをシオンの口に寄せた。

「違うよ、サラ、そうじゃないだろう?」
流石のサラも一瞬動きを止めた。
けれどすぐにサラはケーキを唇に挟むと、シオンの口元に持っていった。
「ん……」
シオンはサラの髪を掴んで、引きよせた。
「わ!」
クルルが顔を赤くして声をあげる。逆にスメラは青くなって立ち上がった。
「逃げるなよ」
シオンがクールな声で言うと、スメラは立ち止まった。

「俺はそんな悪趣味なモノ、見たくないんだよ」
「悪趣味ね、お前にも味見させてやるって言ったら?」
「え?」
スメラの動きが完全に止まるのを見て、シオンはニヤリと笑う。

「サラは僕の薔薇だ。他の人間は味わう事は許されない。
だけど、今日は特別だ。せっかくのホームパーティーだからな」

スメラが、そしてエイジが、ごくりと唾を飲み込むのが分かった。

「そ、そんなのサラがかわいそうじゃん!」
クルルが拳を握りしめて言った。
「良いんだよ。サラは僕の言う事ならなんでも言う事聞くんだから。ね、そうでしょう?」
シオンはサラの髪をかきあげながら訊ねた。サラは暫く黙っていたが、やがて頷いた。
その事にシオンの胸がチクリと痛む。けれど普段と変わらぬ様子で友人達を見る。

「ほら、サラも良いって言ってるだろ? 誰から味わう?」
「バカな……」
スメラが言いかけた時、エイジが身を乗り出した

「俺から!」
言うとエイジはサラに口づけていた。
「ん……」
抵抗しないサラに夢中になり、エイジはサラの胸や尻を揉みしだく。

「乱暴に扱うなよ。それは僕のモノなんだから」
シオンはソファに横になりながら、その様子を眺めていた。

「ん……はぁ……」
エイジはサラの服を脱がしながら、股間に手を伸ばす。
そこから溢れる蜜を指先ですくうように触れる。
その様子に堪らなくなったのか、スメラが割って入り、サラに口づける。ちゅくちゅくと水音が響いた。

「そんなに美味しいのかな?」
オロオロとしていたクルルが呟いた。

「お前も味見すれば良いだろう」
シオンが言うと覚悟を決めたのか、クルルもそっとサラに口づけた。
「ん、本当だ、甘いね」
陶酔したようにクルルは呟いた。

シオンは複雑な気持ちで、友人達に蜜を与えるサラを見ていた。

(サラは僕じゃなくても、あんな顔するんだ……ムカつく!)

シオンは立ち上がるとサラの元に行き、友人達を押しのけて後ろから羽交い絞めにした。
「こうしないと、もっと甘い蜜は出ないよ」
シオンはサラの中に指を入れた。ぐちゅぐちゅと指をかき混ぜると、蜜が溢れだす。
その指先を伝う蜜を友人達に与えた。

夢の中にいるような、狂った宴だった。


その翌日だった。サラがシオンの前からいなくなったのは。
目が覚めた時、シオンのベッドにサラの姿はなく、微かな薔薇の気配を追って、
シオンは別の星、ミチルのいる星へとやってきたのだった。
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