9・従順な薔薇と嗜虐的な王子
ミチルは黙々と真郷の作ったケーキを食べた。相変わらず本当に美味しい。
パウンドケーキなどボソボソした触感の物も多いのに、真郷が作るとしっとりしている。
「それにラムの良い香り」
「え、何?」
ミチルの独り言にシオンが反応する。
「ああ、うん、これラムケーキ美味しいよなって」
「なんだ、お菓子の事か」
言いながらシオンもケーキを口に運ぶ。
「だいたいさ、お菓子作りが上手い王子ッてどうなのさ?」
シオンはスルガに向かって言った。
「お菓子なんか、薔薇に作らせれば良いじゃん。王子はこうやって、ソファにのんびり構えて、
薔薇を傅かせて、口にケーキを運ばせれば良いんだよ」
「お前は本当に嫌な奴だな。お前の薔薇はお前がそんなだから、逃げ出したんだろう」
「ちょっと、失礼な事言うなよ!」
シオンはムキになって身を乗り出した。ミチルはそんな二人を見て口を開く。
「でも、理由はあったんでしょ?」
「は?」
「だから、君の所から薔薇が逃げ出した原因」
「知らないよ、そんなの!」
シオンは言い捨てる。
「無自覚なのか、最悪だな」
「スルガ、黙れ」
険悪な二人の様子を見ながら、ミチルは淡々と言う。
「じゃあさ、シオンとその薔薇、えっとサラだっけ? がどんな風に生活していたのか教えてよ。
自分じゃ気付かないのかもしれないけど、客観的に聞いたら分かると思うからさ」
シオンはフォークを銜えたまま首を傾けた。
「ふーん、話ね。ま、僕がどれだか薔薇に愛されていたか、教えてあげなくもないけどさ」
シオンはフフンと笑うと、フォークを皿に置いた。
「じゃあ、まぁ、思いで話でもしてあげるよ」
シオンは星の王子として生まれた。
星自体は神が創った物だが、そこに生まれた王子は星で育ち、やがて星を治める事になる。
シオンの薔薇の名前はサラといった。
シオンがサラと出会ったのは、まだ小さな時だった。
たくさんの薔薇候補の中から、一人の少年を選び、自分の薔薇とした。
王子は生涯のパートナーとして薔薇を選び育てる。薔薇をかえる事は禁止されていない。
けれど実際に薔薇を変えた王子の話は、どこの星でも聞かないし、シオンもかえたいと思った事はなかった。
シオンは時折、薔薇をかえてやると言って、意地悪をしてはサラを悲しませた。
サラはいつもシオンの我が侭や意地悪に耐えていた。
時がすぎ、シオンもサラも美しい少年に成長した。
シオンはサラの清楚な顔が好きだった。
細身で小柄な体はシオンよりひとまわり小さく、その抱き心地の良さも気に入っていた。
いや、気に入っていたのはそれだけではない。
美しい声も、甘い唇も、不器用な所もすべて気に入っていた。
そして何より、サラは従順だった。
「ねぇ、サラ、ケーキが食べたい」
シオンは金華山織りのソファに深く腰掛け、乱暴に足を投げ出しなら言った。
「はい、用意しますね。何が良いですか?」
「うーん、そうだなーレアチーズ」
「わかりました」
サラは歩きだそうとした。
「あ、やっぱ違うのが良い。そうだな、チョコケーキ」
「はい。では作ってきます」
サラは静かに部屋を出ていった。
それから数分後。シオンは勢いよくソファから立ち上がると、調理室へ向かう。
ドアが開いたので振り返ったサラに、シオンは抱きつく。
「シオン?」
「暇だ。遊べ」
「でも今、僕はケーキを作っているんだけど?」
「ケーキを作りながら、僕と遊べ」
「……何をして遊んだら良いの?」
訊ねるサラの髪の中に、シオンは指を入れる。
「そうだな、まずは……」
シオンはサラに口づけた。
「僕の事は無視して、お菓子作り、続けて良いよ」
シオンはニヤリと笑った。そしてサラの体を手でなぞっていく。
「ん……」
後ろから乳首を摘ままれて、サラは目を細める。
シオンは気を良くしながら、サラの下半身に手を伸ばす。
「や……ダメ……です」
「ダメじゃないよ。ほら手を動かして作業はしてよ、僕、ケーキも食べたいからさ」
シオンはサラの首筋を舐めると、ズボンの中に手を侵入させた。
「あ……」
直接握りこまれ、サラは甘い声をもらす。
「ん……ぁ……」
「そんなに気持ち良さそうな声、出さないでよ」
「だ、だって……」
「僕も堪らなくなるだろう……」
サラの中を指で解すと、シオンは自分の前をくつろげる。
「もう蜜が溢れているね。僕の事そんなに欲しいんだ?」
「シオン……」
振り返って潤んだ瞳でサラが見た。シオンはゾクリとした。
「もう、こんなに蜜が溢れてるんだから良いよね」
訊ねるように言いながら、答えは聞いていなかった。シオンは後ろからサラの中に侵入する。
「あ……!」
サラは堪え切れずに、シンクに手を付く。
「こんな場所でするなんて、おかしいよね。僕は王子なのに……」
言いながら楽しそうにシオンは笑う。
「あー本当に気持ち良い。君は本当に最高の僕の薔薇だよ」
シオンは強くサラを抱きしめると、その中に自分の蜜を放った。
行為が終ると、シオンは身を引いた。
サラが放った蜜が手に入ったので、その手を舐めて味わう。
「ん……ケーキとはまた違った甘さだよね」
指まで綺麗に舐めるシオンを、サラは床に座り込みながら見つめていた。
その目はまだとろりとして、正気がない。
「なに? 自分の蜜を舐めたい?」
シオンが訊ねると、サラは首を振った。
「そう、君は自分のより、王子の僕の蜜が良いんだもんね」
シオンが促すと、サラは膝をついたまま進み、シオンのモノを口にする。
「サラは本当にかわいいね」
やさしく髪を撫で、更に指先で頬をくすぐる。
サラは気持良さそうに目を閉じた。シオンもうっとりするようにサラを見つめる。
「ああ、これもすごく良いね、気持ち良いよ、ん……」
シオンは自分の美しい薔薇が蜜を味わうのを見つめ、興奮した。
一回サラの口から、自分のモノを抜くと、唇に先端をわざと押しつける。
「ん……」
そのまま頬に擦りつけた。
「ほら、ちゃんと口にしないよ」
自分でしておきながら文句をつける。
けれどサラは従順に従い、手で必死に掴むと再び口に入れる。
「はっ……」
なんでも言う事を聞くサラ。そんなサラを見ると嗜虐的な気持ちがわいてくる。
「もっと一生懸命しゃぶってよ。でないと、大好きな蜜をだしてあげないよ」
意地悪に言うと、サラは頷いて、必死に口と舌を動かした。
「はぁ、気持ち良い……」
シオンはブルリと震えると、サラの中に蜜を放った。サラは黙ってそのまま蜜を飲み込む。
息を整えたシオンが身を引こうとすると、サラが追いかけるように手を伸ばした。
それを見てシオンはクスリと笑う。
「なんだよ、まだ欲しいの? サラは欲張りだな」
「あ……」
我に返ったようで、サラは赤くなった。
シオンは近くにあったペーパーで自分のモノを拭くと、ゴミを乱暴に放り投げた。
「じゃ、ケーキちゃんと作って持ってきてよね」
シオンはまだ半裸のサラを置いて、一人で部屋に戻った。
先程と同じように、ソファに寝転ぶと、シオンはサラの事を考えた。
従順なシオンの薔薇。
サラはいったいどこまで、自分の命令に従うのだろう? どんな命令をしても、拒絶しない?
シオンはそれを試してみたいと思った。
「でも、どんな方法が良いのかな?」
考えても案は浮かばなかった。
ただ、サラはどんな命令にも従うのだろうと、シオンは確信していた。
暫くすると、サラはケーキと茶器を用意して、部屋に戻ってきた。
「遅かったな」
「すみません」
素直に謝って、サラは茶器をテーブルに並べる。シオンはそんなサラの様子を黙って眺める。
シオンは望めば王宮に住み、たくさんの使用人に囲まれる事も可能だ。
薔薇を王子と同じように、使用人に傅かせる事も出来る。
けれどシオンはそれを望まなかった。
サラと二人で、大きめの屋敷に住み、通いの使用人数名だけで済ませていた。
シオンは何よりもサラとの二人の時間を望んでいた。そのため、大がかりな生活は避けていた。
「んー紅茶良い匂いだな」
「アップルティーを淹れたんだ」
「アップルね」
香りを楽しんでから、シオンはカップに口をつけた。
「うん、美味しい」
「良かった」
シオンはニヤリと笑う。
「でもお前の蜜の方が美味しいけどね」
サラは顔を赤く染めた。
「ケーキ、食べさせてよ」
シオンが言うと、サラはその横に傅いた。
シフォンケーキの皿を持つと、フォークで小さくしてシオンの口に入れる。
「フワフワだ」
その美味しさに満足し、シオンはサラの髪を撫でた。そしてふと思った。
いつから、サラはこんなにも従順になっただろうと。
かつてのサラはこんなに大人しくはなかった。
もっと舌ったらずな話し方をして、自分に甘えてきた。
主従というよりも、もっと兄弟のようなそんな間柄だったはずだ。
「そうか……」
シオンは呟いた。
自分がこう躾けたのだと思いだした。
もともと従順だったサラを、王子にふさわしい薔薇にしようと、言葉使いから直させた。
そのうちそれが面白くなり、高圧的に接し、今では薔薇というより使用人のように扱っている。
いや、使用人にだって言わないような事を、サラには言ってしまう。
何故、サラはそれに黙って従うのだろう? 嫌ではないのだろうか?
嫌なら嫌と言えば良い。言わないというのなら、このままでいいのだろうか?
「やはり、試すしかないかな?」
再びシオンは呟いた。
「サラ、もっと食べたい」
シオンが言うと、サラはまたフォークでケーキを刺した。
「それ、口で食べさせてよ」
サラはそれを黙って受け入れた。
唇に挟むとシオンの肩に手を置いて顔を寄せる。
シオンは唇にわざと触れながら、ケーキを食べる。
(まぁ、これ位は抵抗するわけもないんだよね)
シオンは咀嚼しながら、ぼんやりと考えていた。
「明日は学校に行くよ!」
突然の宣告に、茶器を片付けていたサラは顔を上げた。
「なに、不思議そうな顔してるの?」
「だって、珍しいので……」
「フン、僕は頭が良いから、学校の勉強がつまらないだけで、学校が嫌いなワケじゃないんだからな。
たまには顔を出すのも良いさ。久しぶりに友達に会って話すのも悪くないしね」
「あの、僕は……?」
「ああ、もちろん連れていくよ。当然じゃないか。
僕はサラの蜜がないと、一秒だって生きていけないんだからさ!」
言いながら、サラに口づけた。
もちろん一秒もというのは嘘だ。そこまで極端ではない。
けれど、薔薇なしで王子が生きていけない事も事実だった。