3・鬼怒川入部

以前、僕は教室ではアリスと違うグループに居た。
アリスは派手で活動的な性格の人間のグループで、僕は比較的地味なグループにいた。
けれどアリスと会話をしたあの時から、僕のグループは変わった。
いや、グループというか、ただひたすらアリスと過ごす事になってしまった。
最初はアリスがいたグループの生徒がアリスに話しかけたりしていたのだが、
アリスはそれを完全無視して僕にだけ話しかけるので、

結局彼等は近づかなくなってしまった。
僕がいたグループの友人も、アリスが側にいると気遅れするのか近づいてこなかった。
そんなワケで僕は今現在、教室でアリスと二人で顔を突き合わせている。

今日のアリスも変わらず美しかった。
この美貌は飽きるとかそんな事はなったくない。見れば見るほど引き込まれるそんな美貌だ。

「泉川さんてさ、ちょっと真面目すぎるから、モモは気をつけるんだよ」
「真面目な人のどこを気をつけるの?」
僕の問いにアリスは机に頬杖をつきつつ言う。

「わかってないな。真面目な人ほど怖いものはないんだよ。思いこみが激しいからね、自分の正義を振りかざしたがる。
どうやらモモはあの人に気に入られてしまったようだから、くれぐれも気をつけるんだよ。
ああいうタイプが一番ストーカーになりやすいんだ」

酷い言われようだった。流石アリスって感じの発言だ。
アリスの名前は傷澤だが、本当に人を傷つける言葉を言うのがアリスは得意だ。
でもそのキャラクターは悪気がないので、ほとんど誰にも恨まれていないのがまたすごい所だ。

「良いかい、あの人にセクハラとかされたら、いつでも俺に相談するんだよ」

そう言うとアリスは僕の手をギュっと握って、握って握って持ち上げてチュってキスした。

「アリスの行動のがセクハラだと思うんだけど?!」
「俺は良いの」

サラリとアリスは言ってのけた。
僕は恥ずかしくて一人で熱くなってしまった。それに周りのクラスメイトからの視線も痛い。
みんなアリスに憧れているんだから、僕が恨まれちゃうじゃないか。
僕はアリスにキスされた手をごしごしと擦りながら、恨めしくアリスを見つめた。

「酷いなー拭いちゃうなんて、でも良いもんね、今度は拭けない場所にキスしちゃうもんね」
「それってどこですか?!」
「ふふ、秘密」
アリスは嬉しそうに笑う。いや、すごく聞きたくない場所な気がした。


僕とアリスの日常はだいたいこんな感じなわけだけど、僕はこのアリスのセクハラは、いきすぎたスキンシップだと思っている。
アリスはよく僕を好きだと言うが、それは友情という意味をふざけて大げさに言っているだけなんだ。
きっと打算的なアリスは計算しているんだ。
アリスが僕に夢中だと周囲に印象つければ、余計な告白とかが減るだろうと。
きっと僕はそういう意味でアリスに白羽の矢を立てられたのだろう。
そう思うと、印象的だったらしい、あの日の廊下のスライディングが恨めしい。
つーかどうせ好きだって嘘ついてガードするなら、相手は咲哉にしたら良いのにと思う。
咲哉とアリスならお似合いの美形同士だ。

そこまで考えて僕はちょっと凹んだ。
似合いすぎる二人のイチャツキを見るのは、咲哉に憧れる身としては辛い。
それにきっと咲哉とアリスではアリスが女役に見られる。
きっとプライドの高いアリスはそれが嫌なんだろう。だから相手は僕なんだ。
僕はアリスより小さいし、おどおどしてるから、きっと女役に見える事だろう。そう思ったらなんか更に凹んでしまった。




僕は放課後、一人でアリスの部屋に向かった。中に入ると、穏やかに咲哉が出迎えてくれた。
「アリスは一緒じゃなかったのか?」
「それが・・・」

聞かれて僕は先ほどの光景を思い出しながら言う。
「なんか知らない生徒に呼び出されて、どっか行っちゃった」
「大丈夫なのか、それ」
言われて僕は首を傾げる。

「大丈夫って?」
「それってきっと告白だろう?」
僕はハっとした。そうだ、アリスの呼び出しなんて告白に決まってる。
僕はアリスを置いてきてしまったが、もしも相手が強引にアリスに迫ったりしたらどうしよう?
ああ、僕はバカだ、アリスを一人にするなんて。
僕が後悔の海に沈んでいると咲哉が言った。

「アリスに告白なんかしたら、どんな罵詈雑言を浴びせられるか。俺は告白したヤツが自殺でもしないか心配だよ」
「そっちの心配ですか?!」
でもそう、相手があのアリスならそっちの心配の方が正しいだろう。けれど。

「僕、様子見てこようかな、確かにサクヤの言う通りだけど、でも相手が複数で待ち伏せてたりしたら、
アリスだって無事じゃすまないかもしれない」
言うと僕は部屋を飛び出した。


僕はアリスと別れた廊下まで走った。すると前方から、アリスが飄々と歩いてきた。
「モモ?」
「アリス、無事だった?」
「無事って何?」
アリスはきょとんとした顔で僕を見る。

「いや、だって、告白されたのかなと思って、それでもし相手がおかしな行動に出たりしてたらどうしようかと・・・」
「モモ!」
叫ぶとアリスは僕に抱きついてきた。

「俺を心配してくれたんだね、ありがとうモモ」
「アリス」
僕は抱きしめられて困惑した。でも嫌な感じじゃなかった。
アリスが僕に素直に感謝してくれている。もしかしたら今の告白で嫌な思いとかしたのかもしれない。わからないけど。

「うーん、やっぱりモモはかわいい、それにすごく良い子だ」
「そ、そんな事ないよ、友達なら当然・・・」
「友達?」
アリスはピクリと反応して顔をあげて僕を見る。

「友達なんて言ってないで、さっさと恋人になろう、そうだね、まずは体からでも」
言いながらアリスは僕の尻を掴んだ。

「ちょ、アリス何してるの?!これってセクハラだし!」
「ヤだな、セクハラじゃないよ、愛撫だよ、愛撫」
「さらに嫌な表現だよ!まだセクハラの方が響きが良いよ!」
「何言ってるんだよ、セクハラは犯罪だよ。でもこれは愛する人間同士が自然に行う抱擁で愛撫なんだよ」
言うとアリスは僕に顔を寄せてくる。ちょっと待ってくれ、キスする気が?ここは廊下のど真ん中なんだけど?!

「何してるんだ?」
聞こえた声に振り返ると鬼怒川の姿があった。
「・・・邪魔しないでくれる?」
アリスはマイナス40度といった声で呟いた。けれど鬼怒川は飄々として笑っている。

「こーんな場所で、不純同性交友はどうかと思うな」
アリスはスっと目を細めた。
「じゃあ、アリスの部屋でする」
「え?」
困惑する僕の手を引っ張って、アリスはどんどん廊下を進んでいく。
しかもそれに何故か鬼怒川がくっついてくる。どんな展開ですか、これ?
アリスの部屋に着くと、咲哉が穏やかに出迎える。

「お帰り、おや、お土産も一緒なのか」
鬼怒川を見て咲哉は言った。アリスは勝手に部屋の中まで入ってきた鬼怒川を睨みつける。

「こんな温泉まんじゅう知らないよ」
酷い言われようだ。

「酷いな、俺をまんじゅう扱いか、でも君のためなら湯の花まんじゅう位用意しても良いよ」
「いや、それ伊香保土産だし!」
僕はつい突っ込んでいた。
そういえば鬼怒川土産って何だろう?ライン下りまんじゅうとか?いや、それはないか?

「で、本当になんで君はここに居るのかな?」
アリスがいつもの椅子に腰掛けながら鬼怒川に聞いた。

「だから言っただろう、俺はアリスちんが大好きだからさ、ずっと一緒にいたいと思ってやってきたんだよ」
アリスが不愉快そうに眉を顰めたが、鬼怒川は言った。

「俺をこの部活に入れてくれないか?」
「却下」
即答だった。だけど鬼怒川はアリスの冷たい言葉にもめげない。つーかこいつはドエム君ではないだろうか?

「冷たいな、アリス君は。でも考えてみてくれ、俺はこの前も君の為に依頼を持ってきたじゃないか?
ここでこんな庶民と顔突き合わせていても面白い事件なんか起きないよ。だったら俺を部員として、
依頼を取ってくるように指示してくれたら、俺は君のために楽しい事件を提供するよ」

鬼怒川は庶民と言って僕の顔を指差したので文句を言ってやりたかったが、
アリスはどうやらこの話に興味を持ったようだった。

「君は俺のために面白い事件を提供してくれるって言うの?」
「ああ!」
「でもこないだの依頼はヤラセだったじゃないか?」
僕は突っ込んだ。でも気にした風もなく鬼怒川は言う。

「ヤラセでも良いじゃないか?きっかけが大事なんだよ。結局こないだも俺の手紙をきっかけに
泉川先輩との決闘までいったわけだから、俺のお陰で楽しくなったワケだろう?」

アリスは机で両手を組みながらその言葉を聞いていた。そしてポツリと呟く。

「まあ、確かにそうだな、それに俺は面白い事件が起こればそれだけで良い」
「良いんですか?!」
僕はつい突っ込んだ。
アリスはクールに鬼怒川に言った。

「でも、君をこの部活には入れてあげないよ」
「ど、どうして?!」
鬼怒川が叫ぶとアリスは笑顔で答えた。

「だってこの部室は俺がモモとイチャつくためにあるからね」
いや、ないです!

「サクヤは俺の親友だから、お茶くみメイドとしてここに居る事を許可しているけど、他の人間は許可出来ないね」
お茶くみメイドと言われても、いつものように咲哉は穏やかなままだ。アリスは鬼怒川に向かって言う。

「でも、君が役に立ったのは確かだ。だから君は諜報部員として野外での活動部員としての存在は許してあげるよ」
その言葉に鬼怒川はどう答えるだろうと思って見てみたら、鬼怒川は傅いた。

「有り難きお言葉!永遠の忠誠を我が君に!」

どこの時代劇?それともファンタジー?僕はあっけにとられて、その光景を見ていた。
とりあえず新たな部員ができたようだった。


結局この日は何も事件が起きなかった。
アリスの命令で鬼怒川は情報収集なのか、探索にでかけていった。
そのうちにアリスは帰ろうかとか言いだした。

「え、鬼怒川は?」
「いいよ、置いて帰ろう」
鬼です、アリスさん。
僕達は部屋を出るとアリスが鍵を閉めながら言う。

「サクヤはたまには気を利かせて、俺とモモを二人っきりにしてあげようとか思わないのかな?」
「別に、そうして欲しいならしても良いけど」
そう答える咲哉のシャツを、僕は掴んで恨めしく見つめる。

「カヅキも二人っきにリして欲しいのか?だったら俺は」
「違うよ、逆だよ!僕を見捨てないでくれよ!サクヤが僕を見捨てたら
僕は大事なものをアリスに奪われる事になっちゃうよ!」

咲哉の天然もすごい気がする。
普通僕が嫌がってるって気づくよね?そうだよね?でなきゃ意地悪されてる気がするよ。
僕が必死で咲哉にしがみついていると、なぜかアリスはニヤリと笑った。

「今のセリフ・・・ふふ、やっぱりそうだよね、モモはまだ俺のために大事な純潔を守ってくれてるんだね。
嬉しいな、初めてを俺のために大事に取っておいてくれてるんだもんね」

僕はそのセリフに首を振った。ぜんぜん違います。誰の為にも取ってません、言うなれば自分のためだ。
ふと僕は掴んでいた咲哉を見上げて思った。

でももしも相手が咲哉なら・・・咲哉なら、ちょっと怖いけど、でも良いかも・・・なんて・・・。

「帰ろうか」
咲哉は僕の事なんかどうでも良いようにサラリと言った。
「そうだね、鬼怒川が戻ってきたらウザイから帰ろう」

さんざんからかわれた?挙句、僕は帰途についたのだった。
戻る