|
佐一は正直とても格好いい。 さらさらの薄い茶色の髪。いつも穏やかで整った涼しい顔。 頭も良くて顔も良くて優しいなんて、さぞかしモテそうだけど、残念な事にうちの学校は男子校なので、 佐一がどれ程もてるか、実はよく分からなかったりする。 もしかすると登下校で他校の女子にラブレターでももらっているのかもしれない。 そう考えて僕はつい自分の考えに笑った。だって今時ラブレターなんて古風な物はないだろう。 僕はそう思いながら朝のラッシュで混む改札口を抜けた。 そしてそのまま学校のある北口に抜けようとした時だった。 僕の前に知らない男子生徒が立っていた。 そして何故か僕に向かって手紙を差し出す。 「え?」 僕はつい勢いで受け取ってしまった。僕が固まっていると男は走っていなくなった。 僕は受け取った手紙を見つめた。もしや不幸の手紙? 「どうしたの、アスカ、今の人、違う学校みたいだけど知り合い?」 「サイチ」 佐一は僕の手元を見て眉を顰めた。 「何それ、ラブレター?」 「え?」 僕は意外な言葉に驚いてしまった。 結局その手紙は佐一が言うようにラブレターだった。 僕は佐一と並んで歩きながらその手紙を読んだんだけど、告白文とメールアドレスが書かれていた。 そうか、告白はこういう風にするもんなんだなと、ちょっと勉強になった。 佐一は横で僕の顔をずっと見つめていたが、僕が手紙をしまうと口を開いた。 「やっぱりラブレターだったの?」 聞かれて僕は頷いた。 「なんでだろうね、僕、男なんだけど、何か勘違いがあったのかな? あ、でも制服着てるし、うちの学校男子校だって、この辺の人なら制服見てみんな分かると思うのにな」 「えっと、アスカは天然だよね」 その言葉に僕は佐一を見上げた。 佐一はふっと目を細めた。 「最近は男女の区別なく、好きになるってよくある事だよ」 「え、そうなの?」 驚く僕に佐一は苦笑しながら頷く。 「あ、もしかしてサイチはうちの学校で、すでにもう何回も告白されてるとか?」 僕は佐一の顔を覗きこんだが、佐一はさりげなく視線をそらす。 「どうだろうね」 なんだか僕の胸がドキドキした。佐一が告白されてるなんて事があるのだろうか? いや、あってもおかしくないけど、でも佐一に恋人が出来たら僕はどうなっちゃうだろう。 もう遊んでもらえなくなっちゃう? 「それより、その人はどうするつもり?」 「え?」 佐一に話を戻されて僕は動揺した。つい佐一にしがみ付く。 「どうするって、どうしよう?」 「え、俺に振るの?」 佐一は困惑した顔を見せた。僕は掴んでいた手を離す。 「そ、そうだよね、自分の事だもんね、自分で考えないといけないよね」 佐一は真剣な瞳で僕を見て聞いた。 「アスカはどうしたいの?」 僕は考えてから言う。 「友達になろうって、普通の場所で言われたら嬉しかったと思うんだ。でもこの手紙には友達とは書いてない。 それだと、ちょっと僕の気持ちとは合わないと思う。だからこの手紙の人に会ったら謝りたい」 「そっか」 手紙には良かったらメールを下さいと書いてあった。 嫌なら無理には良いですとある。だから僕は連絡をしない事にする。 もしもまた直接会う事があったらその時には謝りたい。 いや、そういう場合は無視した方が優しい事なのかな? 恋愛経験が不足している僕にはよく分からないけれど、とにかく感謝の気持ちは持って真摯に接したいと思った。 「アスカ」 呼ばれて僕は佐一を見た。 佐一は何か考えるように間を取りながら、どこか言いにくそうに言った。 「その、アスカってさ」 「うん?」 僕が佐一を見上げたら佐一は固まった。 そして髪をかきあげると誤魔化すように言った。 「いや、なんでもない。あ、あそこにある彼岸花綺麗だな」 「え?」 佐一が言う先を見た。すると民家の庭なのか道なのか、微妙な位置に赤い彼岸花が見えた。 「知ってる? 彼岸花って花と葉が同時には見られないんだよ」 「そうなの?」 僕は彼岸花をまじまじと見てみた。赤い豪華な花は一本の茎の上に咲いている。確かに葉は見当たらない。 「花が散ってから葉が生える。だから花は葉を思い、葉は花を思うという意味で相思華って他の国では言うらしいよ」 「へえ、すごくロマンチックだね」 僕が言うと佐一は目を細めた。 「そうだね、でも片想いみたいでちょっと切ないよね」 「切ない?」 佐一は片想いの花を思ってなのか目を細めた。 「俺は片想いは嫌だな、両想いじゃないと切ないよ」 見た事もない顔を見せる佐一から目が離せなかった。 僕はつい佐一を励ますように言った。 「大丈夫だよ、いつかサイチに好きな人が出来たら絶対に両想いだよ。サイチを振る人なんかいるわけないもん」 僕の言葉に佐一は笑った。 「はは、力強い言葉だな、でもこればかりは本当に分からないと思うよ」 「そんな事ないよ」 僕はムキになって佐一の腕を掴む。 「サイチは本当に格好いいもん、絶対に振られるわけない! 振る人がいたら絶対バカだよ!」 佐一は驚いたように目を見開いていたが、やがてその目を優しく細めた。 「そうだと良いけどね」 学校まで辿り着くと、僕たちはうがいをしに水道に向かった。 僕にはそんな習慣はないんだけど、佐一が必ず登校するとうがい手洗いをするので、今日は僕もつきあった。 うがいを終えて教室にむかって歩きながら、僕は佐一に言う。 「うがい手洗いって、本当に風邪予防の効果があるのかな?」 「あるんじゃないかな? 俺はそのせいか高校入ってから風邪で欠席した事ないよ。 まあ風邪の本格的シーズンはこれからだけどね」 「でも夏風邪引いてる人もいたから、やっぱりずっと風邪を引いてないってすごいかも。 ねえ、佐一がこんなに健康を気にするのって一日でも勉強できないのが嫌だから?」 僕の問いに佐一は首を少し傾けながら微笑する。 「そうだね、それもある」 「その他もあるの?」 聞いたけど佐一は答えずに微笑したままだった。 僕たちは教室に辿り着く。 僕は自分の席に向かって鞄をおきながら、ふと気づいた。 もしかして佐一が学校を休まないのは僕のためじゃないだろうか? 僕は教室を見渡す。登校してきた生徒はすでに友人と集まっておしゃべりをしている。 もしもこの教室に佐一がいなかったら、僕は本当に孤独だ。 たった一日でも耐えられるかわからない。だから佐一はそんな僕の為に学校を休まないんじゃないだろうか? 自分の健康のためと言うより、僕への優しさで。 ふと気付くと、鞄を置いてきた佐一が僕の机の前に立っていた。 「どうかした?」 そう尋ねる佐一に僕は首を振る。 なんか佐一の優しさで胸が詰まった。 僕はもうちょっと成長して、佐一の負担を減らしてあげないといけないと思った。 休み時間、廊下を歩いていたら、長崎と出くわした。 「あ」 思わず声が漏れた僕に、長崎は笑顔を見せる。 「やぁ、アスカ君じゃないか」 気軽に下の名前を呼ばれて僕は面食らった。 どうしたら良いか、僕がキョロキョロ左右を見回しながら緊張していると、 長崎はまったく気にした様子もなく話しかけてきた。 「どうしたの、もしかして俺の事覚えてない? 名前忘れちゃった?」 「違うよ、覚えてる、長崎…………君」 「長崎君か…………なんか寂しいな、せっかく友達になったんだから下の名前で呼んでよ」 「え?」 僕が派手に驚いたら長崎は首を傾げる。 「ん、どうかした?」 「え、だって友達って……」 「昨日自己紹介しただろう?」 「した」 「うん、じゃあ呼んでみてよ、俺の名前」 「マサツグ……」 「ああ」 呼んでみたら笑顔で返事をされた。なんだか胸が詰まった。 友達が、友達ができた。 今まで佐一しか友達がいなかったのに、佐一の部活の人と友達になれた。すごい。 「また固まってどうしたの?」 「え、あ、ごめん、その……」 正直に友達ができて嬉しかったと言うのが恥ずかしかった。 「何でもないよ、それよりサイチやマサツグの部活ってスゴイよね」 「え、何が?」 素で聞かれて戸惑いながら言う。 「だって部活でも、勉強してるみたいな部活だから」 その言葉に雅嗣は笑う。 「ああ、たいした事ないよ。簡単に言えばクイズ研究会に近い部活だよ。 どれだけ頭が良いかって言うよりは、どれだけ物知りかっていうのを競ってるからね」 ぜんぜんたいした事ある。僕には考えられない部活だ。 雅嗣は僕の顔をのぞき込んで笑顔で言う。 「今度、部活に遊びにおいでよ。みんな自分の作った問題解いてもらいたいから、部外者は大歓迎なんだよ」 「そうなの?」 「ああ、多田に今まで誘われた事とかなかったの?」 聞かれてみて考える。なかった気がする。 それに気づいてしまうと、なんだかちょっと寂しい気持ちになった。 雅嗣に誘ってもらえて嬉しいけど、佐一が誘ってくれてたら良かったのにとつい思ってしまった。 僕の様子を見て雅嗣は言う。 「ふーん、そっか、誘われてなかったんだね。ま、良いから、今度本当に遊びにおいでよ。 なかなか楽しい人間が多いからさ。問題もクイズとか、お遊びみたいなのもあるから」 その言葉に僕は頷いた。 「ありがと、じゃあサイチにお願いしてみるよ」 その言葉に雅嗣は苦笑して頭をかいた。 「多田ねぇ、俺が誘うんじゃダメなんだ?」 「そうじゃないよ、でもサイチには言わなきゃ、友達なんだもん」 「そっか、じゃあとりあえず、また」 僕は雅嗣と別れ、教室に戻った。 |
|||||||
| 目次へ | 目次2へ戻る | ||||||
| 次へ | |||||||