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翌日も僕は音楽室に行った。 今日こそは先生はいるだろうか?そう思って震える手でドアに手を伸ばした。 けれど、やはりドアは開かなかった。 僕は目の前が真っ暗になった。これは勘違いじゃない。間違いなく避けられているんだ。 でもどうして?なんで先生は急に僕の事を避けだしたんだ? もしかして僕の気持ちがバレたのだろうか?それで気味悪がって避けられているのだろうか? そう思ったら涙が滲んだ。 僕は暫くドアに額をくっつけてうな垂れていた。そしてふと気付いた。 職員室に行ったら先生は居るんじゃないか? 僕は勇気を出して職員室に向かった。普段からこの場所は、生徒の立場からすると来にくい。 でも今日はそんな事は言ってられない。 僕は先生にどうしても会いたいんだ。 「失礼します!」 言うと僕は職員室のドアを開けた。一斉に視線が集まって僕は緊張する。 ほとんどの先生は僕をチラっと見ると、すぐに視線を外して、自分の仕事に戻る。 けれどその中で、僕の事をじっと見る人物がいた。 ガクト先生だ。 僕はツカツカと歩くと、先生の机の横に立った。 「先生、お話があるんですが良いですか?」 「・・・・・・」 先生は黙っていた。こんなに冷たい先生を、僕は今日初めて見た。胸が嫌な感じにドキドキする。 やがて先生が短く言った。 「何の用かな?」 「あの、音楽室に来てもらえますか?」 「質問ならここで良いかな?」 そっけない言葉に傷つきながら、僕は必死で会うための口実を口にする。 「あの、ちょっとだけピアノを教えてもらえませんか?」 「ピアノを・・・?」 「はい、ちょっとだけで良いんです」 その言葉に先生は黙り、そして溜息をついた。 僕達は音楽室に移動した。 先生は僕の前に立ち、教室の前の方まで歩いていく。 そしてピアノにそっと触れると、冷たく言った。 「ピアノを教えて欲しいんだったっけ?杉浦は確かまったく弾けなかったと思うけど、 多少は覚えて練習してきてくれたのかな?」 僕は視線を伏せながら言う。 「ピアノはぜんぜん弾けません・・・」 「そうだろうね」 先生の言葉はどれもこれも冷たかった。僕はその言葉に傷つきながら顔を上げた。 「あの、先生は僕の事を怒っているんですか?」 「ピアノを教えて欲しいって嘘のことかい?」 僕は首を振る。 「そうじゃなくて、ここ最近、音楽室に来てくれなかったから」 「僕はここで君と会う約束をしてたかな?」 その言葉はズクンと胸に突き刺さった。 「約束はしてなかったけど、でも日課だったじゃないですか?僕はここに来るのをすごく楽しみにしてたんです!」 「喫茶店代わりとして?」 「え?」 先生はピアノに寄りかかって、僕を見下ろす。 「ここに来たら、暖房もあるし、紅茶も飲める。そうだよね、ここより良い場所はないよね」 僕は痛む胸を押さえながら、先生に言う。 「どうしてそんな意地悪な事、言うんですか?」 その言葉に先生は眉を顰めた。そして額に手を当てると言う。 「ごめん、そうだね。僕は君に対して、ひどく冷たい物言いをしてるね」 先生は急に元気をなくしてしまった。そして額を押さえたまま、じっと僕の顔を見つめた。 「先生?」 僕はそんな先生の様子が心配になって声をかけた。 すると先生が僕の方に近寄り、そして唇にキスをした。 「え?」 その触れるだけのキスに僕の頭は混乱した。急に心臓が早くなる。 僕は焦って両手で頬を押さえる。 「な、なんで・・・?」 戸惑う僕に先生は自嘲するように笑う。 「これで懲戒免職かな?ニュースにもなっちゃうかな?教え子に淫らな行為をしたって」 茶化す先生に僕は詰め寄る。 「そんな事はないです。僕は誰にも言いませんから。でも、何で僕にキスなんか?」 すると先生は目を伏せた。 「君がここに来るのは、君が僕を好きなんだって、思い込んでたんだ」 「え?」 僕の気持ちはバレていた?そう思っていると先生は更に話しだした。 「でも、それは僕の勘違いだったんだね。君はここで赤札門を待っていたんだね。 彼の部活が終るのをずっと待っていた。君達はいつも待ち合わせて帰っていたんだろう? 何度か君達が一緒に帰るのを見かけた事があったよ。でも僕は勘違いしていたから、 つい最近まで君達が付き合っているなんて思ってなかったんだ」 僕はその先生の勘違いに驚いていた。 でも言われてみれば、先生が勘違いするような事が、確かにあったかもしれない。 「僕は自分がとても惨めに思えてね、もう君には会いたくないって思ってしまったんだ」 先生はそう言うと僕を見た。 「ごめん。君がさっきの事を許してくれても、僕は自分を許せないから、だから僕は学校を辞めるよ。 君には勘違いして、キスまでして、本当にすまないと思う」 言うと先生はこの場から立ち去ろうとした。 「ま、待って!」 僕は先生に抱きついた。抱きついて止めようとした。ところが。 ガタン!ドスン! 僕は先生にタックルしてしまって、二人そろって床に転がってしまった。 「い、いた・・・」 先生が頭を押さえながら、上半身を起こした。僕はそんな先生にまたがるような格好になっている。 「こんな暴力を受けるほど、怒らせちゃったかな。ごめんね、杉本、君にケガはない?」 タックルされながら、僕の心配をしてくれる先生に胸が詰まった。 「大丈夫です。それより先生は大丈夫ですか?頭とか割れてないですか?」 その問いに先生は、いつものような笑顔を見せた。 「はは、割れてはないみたいだよ」 僕はそんな先生にやっと安堵した。そしてそのまま先生の胸倉を掴むと、顔を寄せて言った。 「勝手にいろんな事を言うだけ言って、どっかに行っちゃわないで下さい。 僕が好きなのは先生なんですから!」 「え?」 先生は口を開けて、呆然としていた。 「・・・だって君は赤札門と付き合ってるんじゃ」 「付き合ってません!」 僕は即答した。 「僕はずっと先生の事が好きだったんです。だから毎日ここに来てたんです。道隆は僕の恋の相談相手だっただけです。 キスだって、僕は先生としかした事ないんです」 「え?だって、この前初めてじゃないって・・・」 僕は顔を火照らせながら言った。 「あ、あれは、初めてなんて言ったら先生に迷惑かと思って・・・・」 口ごもる僕に、先生はやさしい笑顔を見せた。それはもう蕩けそうな、やわらかい笑顔だった。 「正直、あの日の君はいろいろ大胆で、僕は気が気じゃなかったんだよ」 「本当ですか?」 僕は先生に顔を近づけて聞いた。 「君の失敗には驚いたけど、やけにかわいらしいし、無防備でね、僕は思わず教師にあるまじき行為をしてしまいそうで 理性を総動員してたんだよ」 その言葉に僕は正直に謝った。 「あの、その、ごめんなさい。実はあれは僕なりに作戦だったんです。先生を誘惑しようって。 でもその誘惑は全部失敗して裏目に出たんですけど、でも騙すような事してすみませんでした。 それにあの後、僕は騙すんじゃなくて、ちゃんと先生に告白したいってずっと思ってたんです。 本当ですよ。先生の事、ずっとずっと好きだったんです」 その告白に先生はニコリと笑ってくれた。 「嬉しいよ」 その言葉に僕の胸がいっぱいになった。先生はそのまま腕を伸ばすと、僕の体を抱きしめた。 「君が僕を好きでいてくれて嬉しいよ。僕もずっと君を好きだったんだ」 先生はそう言うと、僕にもう一度キスをしてくれた。 「え!お前らマジで上手くいっちゃったの?!」 僕の報告に道隆は仰け反ってそう言った。 僕は廊下を歩きながら、マフラーを首に巻きつける。 「何だよ、応援してくれるって言ったくせに」 「それはそうだけど、まさかこんな簡単にあっさりくっつくなんてさ・・・」 「そんなあっさりじゃなかったよ。道隆のせいでいろいろ誤解されたりさ」 「お、何々?俺に心変わりしそうになってた?」 「なってないよ」 顔を覗きこんできた道隆をグイと押し返した。 「なんか冷たいな。教育委員会に先生のことチクっちゃうよ?」 僕はそう言う道隆を睨みつめる。 「僕が道隆を阻止して、やっつけちゃうよ」 「冗談だってば」 僕達は階段までそんな話をしながら歩き、そこで別れた。 道隆は部活に、僕は音楽室へ向かう。 僕と先生は、あれからもほとんど毎日、音楽室で会っていた。 先生は前よりもやさしく僕に微笑みかけるから、僕はその笑顔にふにゃふにゃと蕩けそうになる。 僕は今日もソファで、先生の淹れてくれた紅茶を飲みながら言う。 「今度、僕にまた、コーヒー淹れさせて下さいね」 「え?」 先生の体がビクリと震えていた。 「大丈夫ですよ。先生に美味しいって言ってもらえるように、ちゃんと勉強しておきますから!」 すると先生は笑みを見せた。 「そう、それも嬉しいけど、どうせ勉強するなら音楽の方にして欲しいな。今度のテストで平均以上を狙って欲しいかな」 「う・・・」 それは中々に難しい課題だった。 「えっと、頑張ったら何か、ご褒美をもらえますか?」 すると先生は僕の隣に移動してきた。そして僕の顎を、その長い指でつまみながら言う。 「これ以上、何が欲しいの?」 言うと先生は僕にキスをした。 「ん・・・」 舌を絡めた濃厚なキスになった。 僕は先生の背中に腕を廻して、先生を抱きしめる。力強く抱かれて、深く長くなるキス。 僕は自分の体を支えられず、ソファに倒れこむ。 先生は少し息を乱しながら、僕の胸に触り、服の中に手を入れていく。 僕は体が熱くて仕方なかった。そしてもっと強い刺激が欲しいと思った。 もっともっと、先生をいっぱい感じたい。 「先生」 僕は先生に自分から唇を寄せながら言った。 「もし平均以上の点数取ったら、最後までしてくれますか?」 僕達はまだ最後までしてはいなかった。先生は一応教師だって事を気にしているようだ。 すると先生はふわりと笑った。 「それじゃ君にじゃなくて、僕へのご褒美になっちゃうよ?」 その言葉に僕も微笑んだ。 うん、それも良い。お互いにご褒美なんて素敵じゃないか。 僕はニガテな音楽を、もっと頑張ろうと、そう思ったのだった。 |
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2010.12.23 RIYO 大分前に書いたお話をアップしたんですが、 ちょっとでも楽しんで頂けたら良いなと思います。 なんかもういろいろ修行が必要だと思います、私。 |
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