昔話語り |
列車の窓からは、山の端にかかる太陽が見える。 その太陽を、列車の座席に座っている大神はぼんやりと眺めていた。遠出をしているというのにその格好はいつものモギリ服だ。 大神の向かいの座席に座る加山は、日に照らされてオレンジ色に染まる大神の顔を眺めていた。こちらもいつもの白い上下に赤いシャツ、牛柄のようなネクタイを身につけている。 加山は大神の顔に向けていた視線をその手元に落とした。 大神の膝の上には一振りの刀が置かれている。その白い鞘には金や銀の装飾が施され、赤や青の宝石まで飾られていた。 何かの儀式に使う飾り刀と見えたが、この刀は使用可能な真剣で、ついさっき大神のものとなったものだった。しかもこの刀そのものが霊力を発していた。大神のものとなる前は、とある神社の御神体の一つだったもので、帝都に帰ろうとしていた大神の元に神社の神官が持ってきたのだ。大神は、刀を持ち帰ることを辞退したのだが、神官は、この刀は大神の守り刀になる、と、無理やりのように手渡したのだった。 しょうがなく、大神は刀を受け取って列車に乗った。 加山の視線に気付いた大神は、自分も手元の刀を見て溜息をついた。 「刀をもらいに行ったわけじゃあないのにな・・・・。」 「いいじゃないか、大神ぃ♪ くれるっていうならもらっとけば。それに、その刀の霊力は、確かにお前の事を守るだろうよ。もらっとけもらっとけ♪ 」 事もなげに加山は言った。 「それに・・・目的も果たしたしなぁ♪ 」 「・・・・・・・・・・・・・・・。まあな・・・。」 そう言って大神はまた窓の外に目を移した。 そんな大神の様子をにやにやしながら見ていた加山は、真顔になると、 「・・・お前が昔話を聞かせてくれたから、今度は俺が聞かされて育った昔話を話してやろう。」 そう言った。 「? 」 「・・・・・・・・むかしむかし、ある西国の山の中に・・・・・・・ 」 加山の昔話を聞き終わった大神は複雑な表情をしていた。 「どうだ? 大神ぃ♪ 俺達はやっぱり出会う運命にあったんだよ。すばらしいじゃないか! 」 目をきらきらさせながらそう言う加山を、大神は嫌そうに見た。 「運命なんて・・・・過去に捕らわれるなよ。」 「別に、過去に捕らわれてるわけじゃあないぞ。俺の意思だ。」 にっこりと加山は大神を見た。 「過去の約束を果たしたいって思うのは俺自身だぞ〜♪ 」 「・・・・・・・おまえがした約束じゃあないだろうに・・・・・。それに、その、お前の昔話と俺の知っている話とが繋がってるなんて証拠は・・・・ 」 「おいおい、それを確かめに行ったんだろう? わざわざお前の実家・・・・の近くの神社に。」 「そうじゃないだろ? 確かめたのは俺の・・・・・ 」 「だから、繋がってるんだよ。それがはっきりしたから俺は凄く嬉しいんだぞ〜♪ 」 どうやらやっぱり、加山は自分が知っている以上の事を知っているらしい。そうじゃなければ断言などできるはずも無い。もう大昔の話なのだから。 大神は加山を睨むとプイと横を向いてしまった。 そんな大神を加山は微笑ましげに見ている。 大神の気持ちはわかるつもりだ。そして、本人が自分自身を過小評価していることも。 だが、まあいい。そこのところは自分達がフォローしていればいいのだ。 加山は話題を変える事にした。 「せっかく里帰りしたんだ。一晩くらい止まってくれば良かったのに。」 そう言ってみる。 「・・・・・・・・・・里帰り、ってわけじゃあないだろ? 家に帰って来たってわけじゃない。あの神社で調べる事があったから、ついでに寄っただけで。それに、今日中に帝劇に戻らないと言い訳が大変だろう? 」 「そうだけどな・・・おまえが。まあ、ちょっと出てくるって感じで出てきたからなあ。栃木に行くなんて言って来なかったからさっさと戻るに越した事はないが。」 それに帝劇の中にいるのが大神にとって一番安全なのだ、とも思う。 「そうだろ。だから遠出だけどこのかっこなんだし。」 大神は自分のモギリ服を見下ろした。 栃木行きの事は、この二人と米田中将、そしてかえでの四人しか知らないことだった。 花組のみんなには、ちょっと加山と出かけてくる、遅くなると思う、とだけ言っていた。だから今日中に帰らないわけにはいかないのだ。 そして・・・・そんな理由が無くとも、大神は早く帰りたかった。 彼にとって一番落ち着く場所が大帝国劇場だったからだ。 大神はもう一度窓の外を見た。 太陽はもう山の向こうに落ちようとしている。 ふ、と、何年も帰っていなかった実家、の方へ仕事で出向く事になった理由を思い出した。・・・・思い出したくもないことだった。 事の起こりは、京極慶吾・・の姿をした方術師に大神が襲われた事に始まる・・・・・・・・・。 |