10年前にどうしても我慢できなくて、
親元から飛び出した一人の少女が、結婚し、子供も出来、
小さいながら幸せな家庭を築いていたある日、
家に一本の電話が。

それは父からだった。
母の様態が思わしくない、意識は混濁しているのだがお前の名前をずっと呼び続けている。
来てはくれないか?と言う電話。

断る理由も無く、一路故郷へ・・・。
家族を連れて病院へ急ぐ。

憎み続けていた母との思わぬ形での再会。
集中治療室に横たわる昔の面影など何処にも無い母の姿。
今にも消えそうな声で私の名を呼び続けている。
寝ている横に立ち、手を握るも熱を感じない位冷たい。

これが私が憎んでいた女性なのか?
お前なんて産まれてこなければよかったと言った女性なのか?
なぜそんな女性が私の名前を呼ぶ事を止めない?
そういう戸惑いとは裏腹に私の口から言葉が出てくる・・・。

「お、お母さん・・・解る・・・?
わ、私、見えてるのかな?

で、ほら、これが私の子供。
来年から、もう幼稚園なんだよ。
幼稚園の入学式には来れ・・・ないかな・・・。

ほら・・・おばあちゃんに挨拶しなさい。」

その時、慌しく生命維持装置のブザーが鳴り響く。
母の体から急激に熱が失われていく。

「お母さん!
私、私ね、褒められたかっただけなんだよ!
ただ私を解ってほしかっただけなの!!!
話したい事まだまだあるんだから!
だからお母さん、だから・・・死なないで!!」