一九三
応永元年一月一日生まれ
身長・・六尺
体重・・二十二貫
室町幕府将軍、足利義満創建の仏道修行、禅宗の寺「闇国寺」から脱走した僧の内の一人。
入山時に行なわれた式、
「仏に仕える儀式」(※1)で施された「仏の印」(※2)により力を得る。
儀式後、それまでの名を捨てられ、認識番号「一九三」(※3)と呼ばれるようになる。
しかし、「闇国寺」は仏道修行の寺とは名ばかりで、
足利義満がこれから起こるであろう大戦を考え、
幼い子供達を集め、特殊な手術を施し、命令に背く事も無い兵を養成する施設である事に気が付く。
戦いの時、身体に埋め込まれた印が反応して、
印から体中に廻った鉄の組織が表面化し、全身が鉄で出来た兵になる事。
死をも恐れず戦う兵士「鉄鬼兵」を実験、養成する施設だったのだ。
それに気が付いた一九三他数人は皆が寝静まる頃に寺に火を放ち脱走。
「逃げ出す彼らの背後から寺の燃える音と共に甲高い笛の様な音が響き渡った。
その後、暫くして鉄と鉄を擦り合わせた様な泣き声とも叫び声とも取れる声が・・・・・
聞こえる・・・・聞こえてくる・・・・・
燃え上がる寺全体から響いて聞こえてくる・・・・
幾千の鬼の声が・・・・・・。」
右手の甲に施された「仏の印」は、寺を脱走後も彼の肉体と精神を蝕み侵食を続けている。
彼の身体には右腕から右首筋まで鉄錆の様な痣が拡がり、
右手に走る鈍い痛みと意識に霞が掛かるような感覚がこれ以降続く事になる。
「仏の印」から発せられる「仏の波動」を手繰り、追ってくる今は無き闇国寺の兄弟子の鉄鬼兵達。
その鉄鬼兵衆を率いる侍、蜷川 親正。
仏の印の力を駆使する男達の戦いの日々は続く・・・。
(※1)・・「仏に仕える儀式」(ホトケニツカエルギシキ)
闇国寺に入る子供がまず受ける「仏に仕える儀式」だが、
この儀式を受けた子供は一月も経てば、連れて来た親も驚くほど大人しくなり、従順な姿勢を見せる様になると言う。
儀式は闇国寺住職の凱観和尚の手により行なわれるが、
特殊な技法と施設を要するので連れてきた親の前では行なわれる事は無い。
成功確立はかなり高いが例外もあるようだ。
(※2)・・「仏の印」(ホトケノシルシ)
印の見た目は鈍い銀色をした粒上の小さな物体。
その粒から極細の針が伸びている。
印を入れる時に特殊な技法による麻酔をかけて印を入れるのだが、体質により麻酔が効きにくい者もおり、
印を施す時に麻酔から醒め一九三の様に抵抗する者も少ないながら居る。
印の位置は眉間がもっとも効果を発揮するとされ、、
一九三の様に脳から遠い場所に施された場合は効果の出方が他の者よりも遅くなると考えられる。
本来ならば一九三の様な処置失敗は処分される対象なのだろうが、
眉間以外に「仏の印」を施すとどうなるかを試された、言わば「実験体の中の実験体」と言える存在として処分を免れている。
(※3)・・認識番号「一九三」(ニンシキバンゴウ イチキュウサン)
恐らくは一九三番目に儀式を受けたからそう呼ばれた。
ちなみに印の拒絶反応から起きる錯乱、発狂等で途中で亡くなる者もかなりの数が居るので、
一九三の前に一九二人居る訳では無い。
あくまでも認識番号順に呼ばれているだけである。
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