『灰色の雪を白くしたペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 ある日、おいらは友達のマカロニペンギン君のところへ遊びに行ったんだ。するとマカロニ君は透明のみょうな板で遊んでいるんだ。

「アクリル板っていうんだ」

マカロニ君はそういって、その板を自分のわきの下につっこんでこすりはじめた。

「こうして、この板をこすって頭の上にもっていくと…ほ〜らね!髪の毛が板に吸い付くんだよ!!」

「どうしてくっつくんだろう?」

「静電気でくっつくんだって」

「静電気か…髪だけじゃなくてほかのものもくっつくのかなあ」

ということで、その板を浜に近づけてみた。砂がたくさん吸い付いたんだ。

「へ〜、おもしろいねェ。この板どうしたの?」

って、おいらはマカロニ君にきいてみた。

「イワトビ君が持っていたんだよ。イワトビ君はさっきボクがやったみたいに髪の毛を板に吸い付けて遊んでたんだよ。やりすぎて髪の毛が立ったままになっちゃったんだってさ!」

 おいらはイワトビペンギン君が住んでいる岩場に行ったんだ。岩場にはたくさんの透明のアクリル板だらけ。板を拾っているイワトビ君を見つけた。

「イワトビ君!おいらにその板一枚ちょうだい?」

「ああ、いいとも、一枚といわずもっとたくさん持っていってよ」

「ホントかい?ありがとう…この板、こんなにたくさんどうしたの?」

「一月くらい前だったかな?朝起きると、いっぱいこれが岩場に散らばっていたんだ!たぶん、人間が落としていったものだと思うんだけれど…」

「落とし物なの?それじゃ、返さないと…」

「いや、落とし物じゃなくて、わざとかどうかわからないけれど、捨てたものじゃないのかな…だって、落としていったのは1ヶ月も前のことだよ!それからずっと散らかっててさ。こんな板でもこういっぱい岩場じゅうに散らばってちゃあじゃまでね。それにペンギンの子供たちがこの板で足をすべらせてころんじゃうんだ…だから今もこうして板を片づけているんだよ」

「そうだったの。おいら、片づけるを手伝うよ!」

 イワトビ君といっしょに板を片づけていると、雪が降ってきたんだ。その雪はいつもの真っ白じゃなくて、ちょっと黒ずんでいたんだ!しばらくすると、辺り一面灰色になっちゃったんだ。おいらはあわてて王様のところに行ったんだ。王様のところでもちらほら灰色の雪が降ってきたんだ。

「どうして白いはずの雪が灰色になっちゃったんでしょうか?」

「それは人間のせいだ!人間はエントツから黒い煙やらすすやらをたくさんまき散らしてるからな!」

「でも、人間が住んでいるところはここから遠く離れてますよ。それに煙やすすのせいで雪が灰色になっちゃうなんて…」

「アデリーよ!地球はひとつなんだぞ!風にのってめぐりめぐって、ここの空にもやって来るんだ。遠い国では、煙やすすのせいで汚い雨が降ってきて、それで木を枯らしてしまったことがあるらしいぞ!!」

「人間っておりこうなのかバカなのかわからないや。煙やすすのせいで雪が灰色になっちゃったのか…まてよ!それじゃ、煙やすすを空からとれば、もとの白い雪になるんですよね!」

「まあ、そういうことになるな。何かいい方法でも考えついたのか?」

「はい!」

 おいらはイワトビ君のところへ戻ったんだ。岩場に散らばっているアクリル板を指しながら、たのんだんだ。

「これを全部おいらにちょうだい!」

「それはいいけど、何に使うの?」

「これで空の煙やすすをとるんだよ!」

 おいらの考えはこうなんだ。アクリル板をこすったやつをいっぱい一本のロープにくくりつけて、ロープの両はしを二隻の飛行船にくっつけて空に持ち上げれば空の煙やすすは板に吸い付くんじゃないかってね!そうすれば、煙やすすは空からなくなって空がきれいになるから雪がもとの真っ白になると思うんだ。でもそうすると飛行船が二隻も必要になる。一隻はコウテイペンギンさんから借りればいいけれど、あと一隻はどうするか?とりあえず、コウテイペンギンさんにワケを話して飛行船・エンペラーツェッぺリン号を借りにいったんだよ。

「今のアデリー君の話だと、もう一隻飛行船がいるねぇ。私のところにはエンペラーツェッペリン号しかないし…」

「そうなんです。誰か飛行船を持ってるペンギンを知りませんか?」

「フム、そういえば、ロイヤルペンギンが飛行船を作ってるとか…」

 おいらはロイヤルペンギンさんのところにいった。

「飛行船はあるにあるけれど、まだ作りかけなんだ。残りは細かいところだから一応は飛べると思うけど…まだ一度も飛んだことがないんだ。それにこの飛行船・Z−1号には自動操縦装置ってのがあるんだけれど、それをテストしなくちゃならないと思っているんだ」

「作りかけでも飛べるんですよね?」

「そのはずなんだが…しかしなあ、作りかけのテストもしていない飛行船にいったい誰が乗るんだい?」

「えっ、いや、おいらが乗りますよ!」

 てなことで、みんな集まって、なんとフンボルトさんまで来たんだよ!エンペラーツェッペリン号とロイヤルペンギンさんのZ−1号を長いロープでつないだんだ。それからいっせいにみんなでアクリル板をわきの下でこすって、ロープにくくりつけた。準備はできた!エンペラーテェッペリン号にコウテイペンギンさんが、Z−1号においらがそれぞれ乗り込んで、いざ出発!!はじめにエンペラーツェッペリン号が浮いて、おくれてZ−1号が地面を離れた。そのとき、ビューッと横風が吹いて、それにあおられてZ−1号は墜落しちゃったんだ!飛行船はこわれるし、おいらは松葉づえをつくはめになっちゃった。Z−1号はすぐに修理できたんだけれど、誰もついさっき墜落したばかりの飛行船に乗りたがらないんだ。おいらは足をケガしちゃったしね。そこへひょっこりコガタペンギン君があらわれた。コガタペンギン君はロープにくくりつけられたアクリル板を見ながらいったんだ。

「おや、みなさんおそろいで、これはなんですかな?新手の万国旗かなんかですか?これからお祭りでも始めるんですか?」

「そうだ!この前、飛行船に乗りながら見たオーロラがとってもきれいだったっていってたよね。また、飛行船に乗りたいかい?」

「えっ!また乗せてくれるの?それにしてもアデリー君、その足はどうしたの?」

「あっ、こ、これはさっきころんでケガしちゃったんだよ!そんなことより飛行船に乗せてあげようか?ロイヤルペンギンさんのZ−1号に!」

 何も知らないコガタペンギン君は修理を終えたばかりのZ−1号に乗ったんだ。今度は順調にZ−1号もエンペラーツェッペリン号も舞い上がりかけたその時、フンボルトさんが、

「あら、Z−1号はもう大丈夫なの!さっき墜落したばかりなのに!」

って大声でいうんだ。それをきいたZ−1号のコガタペンギン君は、

「さっき墜落したってどういうこと!!」

っておいらたちに向かってさけんだ。

「だいじょうぶだよ。きちんと修理したんだから!」

「修理したって、墜落したなんてイヤだ!!」

「そんなにあばれたらさっきしめたネジがまたはずれちゃうよ!」

「早く私めをここからおろしてくれ!!」

「そんなことできないよ!自動操縦なんだから!」

「とにかくおろしてくれ〜い、このペンギン殺しが〜あ!!」

ていうコガタペンギン君の言葉を残してZ−1号と万国旗のようなアクリル板は雲の中に消えていったんだ。

 予定どおりに二隻の飛行船はおりてきた。たくさんの透明のアクリル板はどれも煙やすすを吸い付けて真っ黒になって…。これで空がきれいになったので、やがて真っ白な雪が降ってきたんだ。コガタペンギン君はみんなにだまされたし、今度の飛行船は雲のなかをぐるぐる回ってるだけでちっとも楽しくなかった!っておこってた。でも、王様から勲章をもらってすぐにキゲンを直したんだよ。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。こうしておいらたちペンギンは空をきれいにして雪を真っ白にしたんだ。だからもう空を煙やすすで汚さないでね!