『約束したペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 

 このおはなしはね、ケープペンギン君からみんなへのプレゼントなんだ。ある時、ケープペンギン君がたったひとりで二枚羽のプロペラ飛行機を操縦してサハラ砂漠を横断しようとしてたんだってさ。でも…あいにく複葉機のモーターがパンクしちゃってサハラ砂漠のど真ん中に不時着しちゃったんだ。ケープペンギン君はモーターを直そうと、飛行機からモーターをはずしたんだって。けれどその日はそこまでやって日が暮れちゃったから仕方なく飛行機の下で眠ることにしたそうだよ。日が明けると、

「ヒツジの絵をかいて!!」

っていう声に起こされたんだって。

「えっ?!」

ってケープペンギン君はびっくりしたんだ。だってそこは砂漠のど真ん中だったからね。

「ね…ヒツジの絵をかいて!!」

ケープペンギン君は目を覚ますと目の前に見知らぬ“ぼっちゃん”が突っ立っていた。

「キミはだれ?どこから来たの?」

「そんなことかまいやしないよ。ね…ヒツジの絵をかいて!!」

ってぼっちゃんがたのんだ。ケープペンギン君はわけもわからず、紙にエンピツでヒツジの絵をすらすら上手にかいたんだ。だってケープペンギン君は前にジャイアントペンギンさんの銅像を建てたことがあるくらいだから絵もうまいんだよ。ぼっちゃんが、

「この前たのんだヒトよりはペンギン君、キミのほうがよくかけてるよ。…実はぼくお願いがあるんだ。60年くらい前にこの星に来たことがあるんだけれど、その時にぼくは間違ったことをそのヒトにいっちゃったんだ。そしてそのヒトはなんとその間違ったことを『星の王子様』っていう一冊の本の中で書いて世界中で出版しちゃったんだよ。それでここの人たちは間違ったことをしてるってきいてね…だからペンギン君!キミにそれを正してほしいんだ」

っていったんだ。

「間違えたって…どんなこと?」

「それはバオバブっていう木のことなんだ。昔、ぼくはそのヒトにバオバブは悪い木だから追いはらわなければいけないっていっちゃったんだ。そのせいでこの星の人たちはバオバブの木を引き抜いたり、焼き払ったりしてバオバブの森をこわしてその跡にサイザルやサトウキビを植えているって風のうわさできいたんだ。だからぼくはそんなことをやめてもらおうとあわててこの星にやってきたんだよ!バオバブはちっとも悪くないっていいにさ!」

「たしかに、ここ地球の人間たちはバオバブの森をこわしてサイザル畑やサトウキビ畑にしているけれど、それはキミのせいじゃないと思う」

ってケープペンギン君がいったんだ。

「ぼくのせいじゃないの?それじゃあ、どうしてバオバブの森をこわすの?」

「多分、お金を多くかせぎたいから…バオバブのかわりにサイザルやサトウキビを植えるんじゃないのかなあ!バオバブの木よりもサイザルやサトウキビのほうがお金になるんだってさ」

「そんなにお金をかせいで数えるのって楽しいことなのかなあ?」

「わからないよ!ここの人間たちのやることはフシギなことが多くてね…サイザルから取れる麻は地球にやさしいんだって!バオバブだって幹の皮からロープが作れるのに…それにバオバブの実は甘酸っぱくておいしいし、葉っぱは薬にもなる。別にサイザルやサトウキビが悪いっていうわけではないけれど、バオバブの森をこわしてまで、サイザル畑やサトウキビ畑にしなくてもよさそうなのに!」

「やっぱりぼくのせいだね」

「…だからそれは違うって!!」

「とにかくぼくは、バオバブの苗木をいっぱいもってきたんだ。バオバブの種をぼくの星の活火山で沸かしたお湯といっしょに植木鉢に入れて一晩おいといて、それからちゃんと植木鉢に土を入れてさっきの種をうめて育てたんだ。これからこの砂漠に植えようと思うんだ。そしてバオバブの森を作りたいんだよ」

「こんな、雨が降らないところじゃあ、いくらバオバブの木が日照りに強くたってうまく育たないよ」

「やっぱり水がいるの?それならこの前きたときに見つけたいどのところにいけばいいよ」

ってぼっちゃんは歩き出したんだって。しかたなくケープペンギン君はぼっちゃんにつきあったんだ。ケープペンギン君はずっとぼっちゃんの後についていったんだって。歩くこと丸一日、やっと井戸を見つけた。その井戸にはなんと地下水をくみ上げるためのポンプと、水を周りにまくためのスプリンクラーが用意してあったんだってさ。

「人間たちがここに残していったのかもしれない…あいつらはホントに気まぐれだから…」

ってケープペンギン君がいった。さっそく、スイッチを入れるとギーギー音をたてながらポンプは水をくみ上げて、スプリンクラーは周囲に雨を降らせた。そうしたら砂漠の真ん中に虹がかかったんだって。ぼっちゃんは大はしゃぎ。でもケープペンギン君は、

「ところで、バオバブの苗木はどこにあるの?」

ってきいたんだ。

「ちょっとまってて!」

ってぼっちゃんはフイにいなくなっちゃったんだってさ。しばらくのあいだ、井戸のそばでケープペンギン君はぽつんと一羽でまっていると、向こうからぼっちゃんがやってきた。たくさんのバオバブの苗木をかかえて。よく見ると、背中にも苗木をいっぱいしょって。

「いったい、どこから運んできたの?」

「そんなのかまいやしないよ!早く植えようよ!!」

ケープペンギン君はぼっちゃんにそういわれるがままに、井戸の周りにバオバブの苗木を植えたんだって。すべて植え終わると、

「これでよし、やっと終わったね」

ってぼっちゃんは汗をぬぐいながらいった。ケープペンギン君は、

「いや、まだ終わっていない。アルオウディア・プロケラっていう木もいっしょに植えないと…自然にはバオバブの木だけ生えている森なんてないからね。ぼく、苗木をここへもってくるよ…それにはまず飛行機をなおさないと」

って複葉機の修理にもどっていったんだ。ケープペンギン君がモーターを修理しているとき、ぼっちゃんはバオバブの苗木に水をやったりケープペンギン君のそばによって修理の様子をながめたりしていたんだ。そうして、やっと飛行機がなおったんだ。

「アルオウディアの苗木をもって必ずもどってくるよ!」

っていいのこして、ケープペンギン君はその場から去っていった。そして休むことなく急いで、アルオウディア・プロケラの苗木をかき集めて井戸のあるあの場所へもどった。ぼっちゃんはあいかわらず、バオバブの苗木に水をやっていたんだ。

「お帰り!」

「これがアルオウディアの苗木だよ。さっそく植えよう!」

ってケープペンギン君とぼっちゃんは、バオバブのあいだにアルオウディア・プロケラを植えたんだ。

 ぼっちゃんは若木に水をやり、ケープペンギン君はぼっちゃんを手伝った。そうして1年がすぎた。バオバブもアルオウディアもヒョロヒョロと、けれど着実にりっぱに育ったんだ。

 あるときぼっちゃんが、

「ぼく、今日、うちへ帰るよ…ここにやってきて今夜でちょうど一年になるからね!ぼくの星には世話をしなくちゃならない花があるから…」

っていった。

「うん、わかっているよ。あとはぼくに任せて!…30年後にまたここで会おうよ。30年もたてばここはりっぱなりっぱな森になっているはずだよ。約束しようよ」

「30年後だね。うん、わかった、約束するよ…またこの場所で!!」

「絶対…絶対!約束だよ!!」

「さあ…もう、なんにもいうことはない…」

 ぼっちゃんの足首のそばには、黄色い光が、キラッと光り、そしてぼっちゃんは一本の木が倒れでもするように、しずかに砂に倒れたんだって。

 

 おいらはデリーペンギン。南極に住んでいる。30年後かあ!おいらもぼっちゃんに会いたいな。

 

 

参考;サン=テグジュペリ作、内藤潅訳『星の王子さま』岩波少年文庫