『歌をうたったペンギン』

 

あたしはフンボルトペンギン。プニフル島に住んでいるのよ。

みんなあたしのことを誤解していない?あたしはおしとやかな乙女なのに、あのアデリーのやつが勝手なことばかりいって…ホント困っちゃうわ!それにくらべてマカロニさんはやさしくて、サラサラした髪がとってもステキ…ああ、それにしても世の中って残酷よね!マカロニさんみたいにやさしくて容姿端麗なペンギンがいる一方で、あいつみたいな何の取り柄もなくてただおっちょこちょいなペンギンがいるんだから。きっとあなたの周りにもいると思うけれど…。

今あたしは流れ星の観測をしているところなの。流れ星を見つけてそれを知らせてくれる機械を作ったのよ。その機械はね、まず夜空に向けて電波を発信させるの。そうしておいて、流れ星が流れるとそれが電波にあたってはね返ってくるの。はね返りの電波を受信して、それを音で知らせてくれるのよ。パオ〜ンって鳴るの。ほら!今キラリとひとすじ!!今夜はこの前よりも多めに流れているわ。願い事をしなくちゃね!あっ、また!!ハラリと流れ星が…ロマンチックでしょ。どう?あたしって可憐な乙女でしょ?けれど、流れ星ってもともとは宇宙のチリなのよね。そんなものに願をかけてホントに願い事がかなうのかしら…。

 

それはさておき、あのアデリーっていうペンギンはどうにかならないのかしら?最近、すごく調子にのってるのよ。自分で『おいらが今世界中で一番のってるペンギン』とか何とかいっちゃってさ。全く、誰かあいつを止めてくれない?そうなっちゃったのは、この前こんなことがあったからなのよ!

あるときウミガメガあいつと出くわしたんですって。

「ペンギン君、助けてくれないかい?」

「助けるって何をだい?」

「人魚姫のジュゴンちゃんを助けてほしいんだよ」

「ジュゴンちゃん、ジュゴンちゃんがどうかしたの?」

「人間たちがジュゴンちゃんが住んでいる海の海岸に空港を作ろうとしているんだよ。工事はもうはじまっていて、工事のせいで赤土が島からサンゴ礁の海へ流れ込んでくるんだ。それでジュゴンちゃんが大好きなアマモっていう海草が枯れてきちゃったんだ。ジュゴンちゃん、食べ物がなくなっちゃうって心配しているし、もうすでにやせてきちゃったんだよ」

「ジュゴンちゃんがそんな目に!…けど、相手が人間じゃあ、おいらどうすることもできないよ!」

「そんなこといわないで、助けてあげてよ!」

「でも…それじゃあ、様子だけ見に…」

って、あいつはウミガメについていったんだってさ。ウミガメとあいつがジュゴンちゃんが住んでる海へいってみると、海水が赤土でまっかっか。そこへザトウクジラやってきたんですって。

「ザトウ君!久しぶりだね。ここに何しにきたの?」

「やあ!ペンギン君、オレはジュゴンちゃんを元気付けようと思って…歌でもうたってさ!ラ〜リラ#」

「それはいい考えだね!おいらもうたっちゃおうかな?」

「そっ!それはやめたほうが…タラリラ♪」

「えっ!どうして?ザトウ君!この前はおいらの歌は“革命的だ”とか何とかいってほめてくれたじゃない」

っていって、あいつはわけのわからないことにガ〜ガ〜うなりだしたんですってよ。

「あの時は…あの時だよ!♪とっ、とにかく、まずはオレがうたうよ。その次はウミガメ君、キミがうたいなよ、ラ・ラ・ラ♯」

「ぼくは歌なんかうたえないよ。それにペンギン君があんなにうたいたがっているし…発声練習なんかはじめちゃっているよ!」

「オレはただ逃げる時間がほしいだけなんだよ!パラリラ♭」

って、ザトウクジラがウミガメだけに伝わるようにはなしかけたんですって。

「逃げる、だなんて…失礼なんじゃないの?」

「そんなこといって…あとでどんなことになっても知らないからな!ホイ・ホイ♭」

「えっ?どんなことって?」

「ザトウ君にウミガメ君!なにをコソコソはなししているのさ。ザトウ君がうたわないのなら、おいらがうたっちゃうよ!」

「あ〜あ!まずはオレがうたうから…これからうたう歌はフェイドアウトしていく曲なんだ。だから曲の終わりには、オレはうたいながらこの場から遠ざかるけれど、完全にオレの歌がきこえなくなるまで終わりじゃないからね、それまでペンギン君!キミは絶対にうたいはじめてはいけないよ!いいね!!ラ〜リラ♪」

「うん、わかった。ちゃんとザトウ君がうたい終わるのを待つよ」

 ザトウクジラがうたいはじめたの。するとどこからともなくジュゴンちゃんがあらわれたんですって。ジュゴンちゃんはザトウクジラの歌に合わせてハミングしながらなんとも優雅におどりだしたんですってよ!あいつとウミガメはそれをうっとりながめたんですって。あたしも見たかったなあ。ザトウクジラの歌が終わりに近づくにつれて、クジラはフェイドアウトしていくようにその場から遠ざかっていったの。さあ!いよいよアデリーがうたう番。あいつは待ってましたとばかりに、まわりに気を使わずにうたいだしたんですって!ホントに歌なのか?騒音なのか?わからないあいつの怪奇音のせいでジュゴンちゃんはすぐに気絶しちゃうし、ウミガメは産卵でもないのに涙を流したってはなしよ!たまたまそばを通りかかったマイルカの群れが、ジュゴンちゃんが気絶してるってあいつに訴えてうたうのをやめさせたんですって!!

「ジュゴンちゃん!どうしたの?気絶なんかしちゃって??」

ってあいつがきいたんだって。ジュゴンちゃんが、

「そっ、それは…」

って言葉をつまらせていると、

「あ〜んな騒音きかされちゃ、誰だって卒倒しちゃうよ!!」

ってマイルカがいったの。

「騒音?騒音ってなんのこと?マイルカ君のいうことは当てにならないから…」

「そっちこそ、なにいってんだい!」

「ペンギン君!ペンギン君の歌がとっても素敵だったから、つい気を失っちゃったのよ!」

ってジュゴンちゃんが気を使ってその場を取繕ったんですって。それがいけなかったのよ。ますますあいつは調子にのり出しちゃったんだからね。

それになぜか?その日を境に人間たちは空港を作るのやめちゃったのよ。きっと人間たちもあいつの歌というか騒音を不気味がってあの場所から手を引いたんじゃないのかしら?あいつの奇妙で不可解な歌声を勝手に“自然の怒りをかった”とかなんとか思い込んじゃって、全くあなたたち人間って妙なところで信心深いんだからさ!けれど、人間たちが空港を作るのをやめたあとも、あの場所をほったらかしにするからあいかわらず雨が降るとサンゴの海に赤土が流れ込んできたの。だからあたしたちペンギンはそれを食い止めようと、陸地にため池を作ってそこに赤土がたまるようにしたのよ。そうしたらいくら雨が降っても赤土がもう海に流れてくることはなくなったわ。枯れていたアマモが復活したのよ。ジュゴンちゃんもウミガメも喜んでくれたわ!でもね、ペンギンみんなでため池を作っているときに、王様と酔っ払いのヒゲペンギンさんが、

「人間たちがここに空港を作るのをやめたのは、アデリーの歌のせいっていううわさはホントか?」

「王様!そうらしいです。アデリー君の歌が“凶器”になるなんて…」

ってはなしているところに、あいつがやってきて、

「おじさん、今何かいった?おいらの歌がキョーキとかなんとか?」

ってきいたんですって。

「いや、アデリー君の歌はおもわずだれもが“狂喜”乱舞しちゃうっていったんだよ!なんといっても、人間たちに空港を作るのをやめさせたし…それに人間たちが作ろうとしていた空港は戦争に使うものだったらしいし…」

「へ〜!おいらの歌は世界を平和にできるんだ!」

「う〜む、まあ、ある意味まちがっちゃあいないな!」

って王様がいう始末…。もう、とんだ勘違いもはなはだしいわ!!

 

あたしはフンボルトペンギン。プニフル島に住んでいるのよ。

誰かあいつにホントのこと教えてあげてよ!この前なんか、

「おいら、いいこと思いついた!おいら歌をうたいながら世界中を行脚するよ。そうして世界中を平和にするんだ!!」

なんていってるの。そんなことをやらかしたら、それこそ世界の破滅だわ!どうしようもないわねえ!

アデリーのやつ、どうにかならないのかしら?ホント、困っちゃうわ!